「私が君に射撃を教えるわ!」
「……で、これは?」
「クロスボウ……です」
カリーナの前に、取っ手と銃口しか残らなくなったクロスボウを置く。
彼女は、思いっきり大きなため息をついた。
「……で、この娘は?」
「王女様です」
「ええ、よろしくね!」
カリーナの前で、堂々と胸を張るシェレラ。
「よろしくって……。……!? まさか、獣人王国の王女様だったり? まっさかねー」
「そのまさかよ!!」
胸を張るシェレラ。
得意げになると、彼女の尻尾がぴょこぴょこと跳ねる。狐耳もピコピコして大変可愛い。
「…………」
そーっと、彼女の尻尾に触ってみた。
「きゃんっ!?」
そうしたら、シェレラが尻尾を抑えて飛び上がった。
「やっ、やめて! 尻尾は敏感なの!」
「じゃあ耳……」
「耳もだめぇ!」
「ええ……、一体どうすればいいんだ……」
半獣人、剥き出しのもふもふは全部弱点かよ!!
なんで剥き出しなの!
悩む俺の横で、シェレラとカリーナの相談が進んでいく。
「ほうほう、なるほどねえ。なんとかこの都市についたと思ったら、人狩りに目をつけられたと……」
「うん、そこを助けてくれたのが、ダンなの。彼は絶対に、凄いワンダラーになる。あの壊天魔獣ドグラマガーを倒せるくらいに!」
そこで、シェレラが俺に振り返った。
「そうだ! 思いついたわ、恩返し。君、射撃が上手くなりたいんでしょ?」
「あ、ああ。射撃っていうかクロスボウ」
「私が君に射撃を教えるわ! 君はその代り、私に力を貸してちょうだい! ひとまずは、ワンダラーズギルドに行きたいんだけど……」
「ほっ、本当か!? 本当に俺に、クロスボウを教えてくれるのか!?」
「え、ええ、射撃は大の得意だし……って、えええっ、きゃああああ!?」
俺はすっかり舞い上がってしまい、シェレラを高い高いしながらぐるぐると回る。
でかい男が、銀狐の毛並みの娘を振り回してる光景は、大変目立つらしい。
なんだなんだとみんな立ち止まり、あっという間に人だかりができた。
「こらーっ! 見世物じゃないからねっ!!」
それを、手持ちの癇癪玉を地面で破裂させ、威嚇して追っ払うカリーナ。
野次馬は、わーっと散って行った。
「ほ、ほわーっ、私、それなりに重いと思うんだけど、ひょいっと持ち上げたよね、今」
「俺は生まれつき力が強くてな。なんか、神様の祝福なんだと。千人に一人くらい、そういう祝福を持って生まれてくる赤ん坊がいてな。大体みんな、祝福の力の耐えられなくて死ぬんだけど、俺やカリーナみたいに極稀に生き残るのがいる」
俺が力持ちなのは、でかいせいだけではない。祝福の力があるので、凄まじい腕力を発揮できるのだ。
「ねえダン。やっぱり、君ってハンマーとかが向いてる……」
「クロスボウがいいの!!」
「な? ダンは頑固なんだ。このクロスボウは後で私が直して……いや、部品総取り替えしておく。シェレラ。ダンは見ての通りちょっと抜けてるが、腕っぷしだけなら並ぶ者はいない。一緒にギルドにいって登録してくるといい。まだワンダラーになってないんだろ?」
「そうね。じゃあ、案内してもらっていい、ダン?」
シェレラの尻尾が、ファサファサと動いた。
彼女、感情が動くと耳と尻尾が反応するな。とても分かりやすい。
「ああ。案内するよ。それで、ワンダラーとして登録したら、俺からも一つお願いがある」
「なあに?」
「パーティを組んでもらえないか? その……当たらないクロスボウ使いとパーティを組んでくれる仲間はいなくて……」
「もちろんよ、ダン! あなたみたいに素晴らしい棍棒使い……」
俺は悲しい顔をした。
「ううん、ピーキーなクロスボウ使い、仲間にしないなんて勿体無いわ。……だからハンターランクがまだ1だったのね……」
「パーティを組めないと、仕事を受けさせてもらえないんだよ」
だが、その問題もこれで解決した。
シェレラをワンダラーとして登録し、俺たちはパーティを組む。
これで仕事を受けられるようになるぞ!
俺はシェレラを連れて、意気揚々とギルドの扉をくぐった。
ワンダラーズギルドは、あらゆる都市国家に存在する、ワンダラーの拠点だ。
宿屋と酒場、ギルドの営業所と、仕事用品の販売所が一体になっている。
「おお、永遠のランク1ワンダラーのお出ましだぜ!」
「おーい、ダン! お前の図体は飾り物か! いつになったら仕事をするんだー!」
俺が入ってくると、あちこちから野次が飛ぶ。
俺はムカムカしながら睨みつけるが、ギルドの中で暴れたらしばらく出禁になってしまう。
我慢、我慢だ。
「全くよ、射撃が当たらないクロスボウ使いなんて、意味がないぜ」
「知ってるか? あいつ、未だに練習用クロスボウを使ってるんだぜ?」
「ははーっ、そりゃあ傑作だ!」
「おい、ダン、お前今日はどれだけ的に当てられ……」
さらに茶化そうとした連中が、すーっと静まり返って行った。
俺の後ろから、銀狐の獣人、シェレラが入ってきたからだ。
彼女は耳をピクピクさせると、野次を飛ばしていた男たちを見回した。
「ここがワンダラーズギルドなのね。早く登録したいわ。そしてダン、君とパーティを組むんだから」
絶句してしまった男たちの顔は、大変な見ものだった。