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「私だって覚悟を決めたわ」「一昼夜で用意するからね!」

 ギルドに戻ると、既に俺とシェレラのランクが上がった件は知れ渡っていたらしい。

 今までとは違う空気が俺たちを包み込んだ。


「おや? なんだか注目を浴びてる気分……。そうよ、そうよね。これがダンにとっての正当な評価だわ!」


 シェレラがうんうん、と何度もうなずく。

 尻尾が満足げにピコピコしているので、これはかなり機嫌がいいぞ。


「おい、ダン。グルルドーンと竜人が関ってたっていう噂だけどよ、本当だったのか?」


 尋ねてきたのは、俺の先輩に当たるハンマー使い。

 ランクは10を超えていたはずなので、コーフのワンダラーズギルドではかなり上位のワンダラーだ。


「実際に見てはいないんだが、指笛でグルルドーンを操っているみたいだった。グルルドーンはナッツブレイカーズの言うことは聞いてなかったな」


「そうか……。竜種のモンスターを操れる奴なんて、竜人くらいしかいねえからな。ならば間違いないだろう」


「もしかして竜人と戦ったことあるの?」


 シェレラが口を挟んできた。

 これに対し、ハンマー使いは微妙な顔をした。


「俺は戦っちゃいねえ。まだまだ俺が新米の時、南にあるミーエの都市国家でな。先輩ワンダラーたちが、竜人が化けたでかい竜と戦っているところに出くわしただけだ。ありゃあ化け物だ。メガパープルが子供に思えるくらいのでかさだったぜ……。そいつがなんと、空を飛ぶ」


「空を!!」


 シェレラの耳がピンッと立った。

 俺は顔をしかめる。


「空をぉ?」


 空を飛ばれたら、引っ掴んで密着しながらクロスボウをぶち当てるのも難しいじゃないか。


「シェレラさあ。俺が空を飛んでる竜人に当てられると思う?」


「無理だねー」


 うわあ、サラッと言われたぞ!

 そろそろ、シェレラが言葉を飾らないことに慣れてきているから、もう傷ついたりはしない。

 だが今後の事を思うと、シェレラはもう少し人のハートをいたわる事を覚えてもいいのではあるまいか。


「でも、カリーナならなんとかしてくれるんじゃない?」


「カリーナかあ」


 天才鍛冶師である幼馴染のことを思い浮かべる。

 最近、しょっちゅう彼女の家に通っては、加工用の素材を納めている気がするな。


「そのつもりよ。ダンの対飛行モンスター用装備でしょう? 任せなさい」


 おや?

 俺の胸元あたりから心強い言葉が聞えるぞ。

 胸元の高さということはシェレラではないな、と思いながら見下ろす。


 カリーナがいた。


「うわあ」


「うわあとは失敬な! ギルドマスターからの招聘(しょうへい)に応じてやって来たんだぞ! ギルド最奥の鍛冶場を解放するって言われて。あそこを使うのは、コーフ中の鍛冶師の夢なんだよね」


 一見して黒髪のミステリアスな美女なのだが、そんなカリーナが頬をうっすら上気させ、ぽわんとした目をしている。

 さては恋でもしたかと普通なら思うところだが、この人、ギルドが誇る秘密の鍛冶場を使えることに興奮してこんなになっているのである。

 常識人みたいで、カリーナは何気に鍛冶屋バカなのだ。


「もうね、すっごかったの……。見て来たんだけど、あれは私のためにある鍛冶場だわ。もう任せて。ダンの対飛行モンスター用装備、一昼夜で用意するからね!」


 おお、カリーナが燃えている!!


「よろしくお願いします」


 俺は殊勝に頭を下げた。


「武器はカリーナが。その他必要なオペレーションは私がサポートすることになったから」


 また聞き覚えのある声がした。

 今度は俺の肩の高さなので、これはエイラだな。


「やっぱりエイラだった」


「そうよ、私よ」


「なんか鉢巻まで締めて、どうしたの」


「エイラ、ダンと私が危ないことするのイヤじゃなかったの?」


 俺とシェレラの問いに、もう一人の幼馴染であるエイラ、重々しくうなずく。


「そう、それよ。私、まさかダンがここまで大変な事態に関ってるだなんて思わなかったの。しかも、ダンはあのグルルドーンまでやっつけちゃったんでしょう? まさに有言実行よね……! いや、お仕事の範疇じゃないモンスターをまた討伐したわけだけど、こうなれば私も覚悟を決めたわ」


 すっかり目が据わっているエイラである。

 だが、優秀な受付嬢である彼女が、俺たちの全面サポートに回ってくれるというならばありがたい。


「よろしく頼むぜ、エイラ! カリーナもいて、シェレラもいて、こりゃあ百人力だな!」


「文字通り百人力はダンだけどね!」


 わっはっは、とシェレラが笑った。


「はいはい! みんなたむろしてない! 仕事をしましょう、仕事を!」


 エイラが声を張り上げて、手をパンパンと叩いた。

 俺たちに注目していたワンダラーたち、我に返ったようで、ぞろぞろと普段どおりの活動に戻っていく。

 すなわち、掲示板から仕事を見つけて受注する作業だ。


 午前中で、掲示板はほとんど空になる。

 僅かに残った、薬草採りとか小粒なモンスターの討伐なんかを新人が持っていく。

 そして午後には、何日か前に仕事に出たワンダラーたちが帰還してくるのだ。


「あっという間に誰もいなくなってしまった」


「みんな自分の食い扶持だけで精一杯だもの。でも、それでもダンとシェレラに注目したのは、それだけあなたたちがやったことが大きな事だからよ。お願いよ、二人とも」


 エイラが、俺とシェレラの手を取った。


「絶対、生きて帰ってきてね」


「もちろん! だって、竜人だかなんだか知らないけど、私にとってあれってただの踏み台だもん」


「シェレラはドグラマガーが本番だからな! 俺は良く分からん! カリーナが対空装備を作ってくれればそれが一番だな!」


「そうね! 竜人なんかサクッとハントしちゃって、竜人装備作りましょ! そうしたら、物凄く強い装備ができたりして……! あれっ!? 今回の仕事、すごく美味しい……?」


「二人ともハートが強いわね……!!」


 ちょっと気おされるシェレラなのである。

 何を言う。

 俺はずっと仕事ができなくてネガティブだったからな。今は仕事ができるだけで楽しくて仕方ないぞ。


 ワンダラー稼業は良い仕事だ。

 ランクが上がれば、誰からも才能がないなんて罵られないし、クロスボウだって当たるまで近づけば当たるし、シェレラはもふもふだし。

 これで、どうやればネガティブになるというのだ。


「まあ、大船に乗ったつもりでいてくれ! 船に乗ったことはないけど」


「何も考えずに喋ったでしょ……。そういうところが心配なのよねえ……」



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