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「これは……由々しき事態だな」

「これは……由々しき事態だな」


 ギルドマスターを先頭に、都市国家コーフの重要な面々が角を突き合わせて顔をしかめている。

 ここは、コーフの中枢、王城ファレノプシス。

 その一階にある役場会議室だ。


 王城と言っても、王様も仕事のためにやってくる、いわゆる国の執政機関に過ぎない。


「報告は聞いたよ、ダイレクトヒッターズ。あなた方が火山竜グルルドーンの討伐に成功した事に関して、まずは感謝の言葉を贈ろう。ありがとう」


「どういたしましてよ!」


「うむ。でかい相手だったが、割といけたな!」


 俺とシェレラの反応に、お硬そうな人々が眉をひそめる。


「君たち、もっと場をわきまえた発言を……」


「いや、しかし記録を見れば二人とも十代ではないか。育ちを考えれば……ファッ!?」


「そ、そ、そこのシェレラ殿は、これ、獣人王国の姫って」


 俺たちの履歴書みたいなものが、彼らの手にあるらしい。

 一同の視線がシェレラに集まった。

 銀狐な彼女は、かくんと首を傾げ、よく分かっていない様子。


「まーまー。俺たちがここに呼ばれたの、もっと他に大事なことがあるからでしょう」


「ああ、その通りだ。諸君、詮索はほどほどにして、本来の業務を執り行おう」


 場を鎮めたのはギルドマスターだった。

 流石だなあ。

 かつて、現場で数々の伝説を作った男、ギルドマスター。


 彼が引退した時、ワンダラーランクは実に676に達していたというから、まさに生きる伝説なのだ。

 醸し出すオーラが、この場に並ぶお役人たちとは全く違う。


「グルルドーンは、ナッツブレイカーズと結託していたと、君たちは証言したが改めて問おう。竜種のモンスターが、人間の指示を聞くなどということがあり得ると思うかね?」


「あり得ると言うか、実際にそうだったですしね」


 俺にはそう答えるしかない。

 本来、モンスターは人間に従いはしない。彼らは野生で、それぞれのテリトリーを持っており、その世界においては王様みたいなものなのだ。

 侵入者である人間に従うわけがない。


「でも、あの時、指笛みたいなのが聞こえたのよ。それに合わせてグルルドーンが出てきた感じ。何かしらね、あれ?」


 ギルドマスターが難しい顔をした。


「竜種を従える者がいた、と? あれらは、己よりも強い力を持つ者にならば、稀に従うことがある。グルルドーンは住処である山地を追われてきていた。他ならぬ、君の国であった獣人王国……そこを滅ぼした壊天魔獣ドグラマガーによってだ」


「だね……! 早くドグラマガーをやっつけないと」


「うむ。それは同意だが、まだかの災厄に対抗するには時期尚早だろう。そして、テリトリーを追われたグルルドーンであれば、それを上回る力を持った存在によって従わされる事もあるだろうと私は考えている。竜種を従えるほどの力を持ち、しかも人と結託する知性を持った存在。それは何だと思うかね?」


「?」


「?」


 俺とシェレラが首を傾げた。

 わからん。


「竜人だよ」


 俺たちの様子に呆れるわけでもなく、ギルドマスターは真剣な表情でそう告げた。

 ちなみに、これを聞いても俺たちはキョトンとしていたのだが、劇的な反応を示したのは周囲のお歴々だった。


「ま、まさか!」


「報告は受けていたが、本当に存在したというのか!?」


「な、何かの間違いではないのかギルドマスター!」


「間違いではないでしょう。そうでなければ、グルルドーンがナッツブレイカーズの言うことを聞いたという事実を説明できない。そして、彼らに従っていた訳ではないことは、ナッツブレイカーズ構成員の一人が死体で見つかった事からも伺える」


 グルルドーンの尻尾でやられた槍使いは、結局、手当が間に合わず死んでいたのである。

 まるで、うるさい邪魔者を追い払うような火山竜の仕草からみて、彼らはモンスターを従えていたわけではない、というのは俺たちも考えたことだ。


「つまり、ナッツブレイカーズは竜人と取引を行った。竜人は、彼らが接触できるような場所……恐らくは、都市国家の中に潜伏している。そう考えるのが妥当ではないだろうか」


「いや待て! 彼らが嘘や、考え違いをしているという筋は……」


「嘘を口にする必要がないでしょう。現にグルルドーンは、この二名の働きによって狩られている。ナッツブレイカーズと、彼らダイレクトヒッターズとの確執は、ギルド構成員からの証言も得られている。私怨から、ナッツブレイカーズは竜人と手を結んだと考えて間違いない」


 ざわざわと、部屋の中が騒がしくなった。

 集まった人々がざわめきを堪えきれないのだ。

 ついに、この場の最高責任者が立ち上がった。


 誰あろう、王様だ。

 今までずっと黙って、みんなの話を聞いていたのだ。

 一見して、整った顔立ちのガタイがいいおじさんで、金髪をクルクルのカールにしている。


「ギルドマスター。余がこれまでの会議から読み取ったのは、彼らダイレクトヒッターズこそが、この事件の中心に関わっているということだが、相違ないか?」


「相違ございません、陛下。きっかけは、こちらのシェレラ姫の王国に関わる壊天魔獣との縁。そして、彼女が選んだ我が国の若者、ダン・ゴレイムとの縁。いよいよ繋がり始めているようです」


「良かろう。では、余は彼ら、ダイレクトヒッターズに命を下そうと思うが、どうか」


 王を取り巻くお歴々が、一様に頷いた。


「いいと思いますぞ」


「そうすべきでしょう」


「たった二人でグルルドーンを倒せるのならば、あるいは」


「しかしその粗末な装備はいただけませんな」


 国王が俺たちに向けて手をかざした。


「ではダイレクトヒッターズよ。そなたらに、竜人討伐の命を与える。グルルドーン一体と、超硬石を素材として下賜しよう。これを用い、装備を整えて竜人討伐に向かうのだ!」


「あ、はい!」


 おお、なんだか大きな話になって来たぞ。

 俺はシェレラと顔を見合わせる。

 そこへ、ギルドマスターが口を開いた。


「緊急措置だ。君たちのランクでは上位の竜種を狩ることはできまい。従って、飛び級でのランクアップを行う。今日この時点を持って、ダイレクトヒッターズのワンダラーランクの上限を撤廃。ランク10とする」


「おおー!!」


「やったー!!」


 今度は、超ハイテンションになって喜ぶ俺とシェレラ。

 この場に並んだお歴々は、そんな俺たちを引きつった笑みで見つめているのである。

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