「この装甲、ぶち抜いてやるぜ!」
火山竜グルルドーンは、ランク10を超えたワンダラーがハントするような、強いモンスターだ。
岩石を食っているから、その肌は岩と同じ材質で堅く分厚い。
装甲と言えるようなその肌を貫いても、下にはマグマのような沸騰した血が流れている。
距離を詰めれば怪力で押し込んでくるし、距離を取れば体内に溜め込んだ岩を熱して吐き出してくる。
さっき、俺たちに向かって飛んできたのは、この溶岩弾とでも言うべき攻撃だろう。
「来るよ、ダン!」
シェレラは何かを感じ取り、俺の肩を叩くと真横に跳んだ。
俺はすぐさま腰を落とし、真正面に盾を構える。
そこに向かって、至近距離から溶岩弾が放たれた。
距離を取れば溶岩弾じゃなかったのか!?
所詮、知識は知識だな!
実際に戦ってみないとわからない。
「なんのぉっ!」
盾から伝わる衝撃を、俺は受け止めきる。
熱が伝わる前に、クロスボウを振り回して溶岩弾を払い落とした。
足元の水場にそれが落下し、じゅうっと音を立てて沸騰させる。
「ダン、今度は突進!」
シェレラが叫びながら、手近な樹木につま先を引っ掛けながら跳躍する。
おお、得意のジャンプ射撃か!
「止まれーっ!!」
拡散した矢が、グルルドーンに降り掛かった。
ほとんどは岩のような装甲に阻まれてしまうが、一本が隙間に突き刺さったらしい。
「グルオオオッ!!」
俺に向けて体勢を低くしていた火山竜が、痛みに仰け反った。
「おっしゃ、今だ!」
俺はここでポケットからクロスボウの弾を取り出して、装填しようとする。
「ダンー!! そんなことしてる暇があったら突っ込んで殴ってー!」
「えー! だって、俺はクロスボウ使いだしぃ」
俺がそんな事をしていたら、グルルドーンが体勢を立て直しているではないか。
「ギャオオオオッ!!」
「いけっ! ダンを踏み潰せ! 殺せ!!」
グルルドーンの後ろで、ナッツブレイカーズの槍使いが物騒な事を言った。
なんて事を言うのだ。
だが、興奮した火山竜の後ろで騒いだのは良くなかったな。
「グゥオーンッ!!」
両の目を燃え上がらせ、グルルドーンが振り返った。
「へっ?」
槍使いが間抜けな声を上げた瞬間だった。
火山竜のぶっとい尻尾が、そいつを真上から打ちのめした。
槍使いは「げべえっ!?」と潰れたカエルみたいな声を上げて地に伏す。
なんか、全身からボキボキという音が聞こえたなあ。
痛そうだ。
「おいおい、お前の相手は俺だろう」
俺は弾の装填をしながら、ずんずんと距離を詰める。
足音を殺すでもなく、水をばしゃばしゃと踏みながらやって来たから、グルルドーンも俺に注目せざるを得ない。
何やら、ナッツブレイカーズが火山竜の後ろから慌てて避難している。
槍使いは見捨てていくのか、薄情だなあ。
「は、話が違う!!」
「竜人は私たちに雇われたんじゃなかったの!? なんでこいつ、私たちを襲うのよ!!」
「やべえよ、逃げろ!」
「あーっ! あいつら逃げたー!! ダン、撃っていい!?」
シェレラのこの声、本気だな。
「ワンダラー殺しはばれたらギルド追放だぞ。やめとけやめとけー」
「はーい」
不服そうに言いながら、シェレラはまた複数の矢を弓に番える。
一体、どれだけ持ってきていたんだろう。
「グウオオオアアアアーッ!!」
火山竜が立ち上がり、大きく口を開ける。
その中で、赤く炎が燃え上がって見えた。
溶岩弾が来るな!?
「させねえよ!!」
俺は何も考えずに思いっきり踏み込んだ。
クロスボウに肩をあてがい、そのまま突っ込む。
グルルドーンの下顎に盾を叩き込み、無理やりヤツの口を閉じさせた。
火山竜の口中で爆発が起こる。
「ゴブフッ!!」
ヤツの目玉の隙間が火を吹いた。
怒りに燃える目で、グルルドーンが俺を見下ろす。
全体重を掛け、俺を踏み潰すつもりだ。
「うおっ! こいつ、メガパープルの倍くらいの重さだな!! ……だがっ!」
ぐぐっと掛かってくる重量を、俺は踏みとどまって受け止めた。
全身の筋肉が膨れ上がるのを感じる。
腕や太ももを覆っていた甲冑が弾け飛んだ。
「メガパープル二頭だと思えば……まあイケるッ!!」
「いやいやいや」
シェレラがツッコミを入れるが無視だ。
俺は全身を使って、グルルドーンの伸し掛かりを堪える。
堪えながら、クロスボウの装填をようやく完了させた。
悔しいが、この距離で射撃をしても……というか、俺のクロスボウではこいつの装甲を貫けまい。
不本意ながら、これを使うしかないだろう。
「この装甲、ぶち抜いてやるぜ!」
クロスボウから生えた、でかい杭をグルルドーンの腹にあてがう。
一見して槍のようにも見える、頭がおかしいくらいでかくて長い杭と、それを射出する筒である。
これとクロスボウの発射装置を接続し、俺は引き金を引いた。
バスンッ! と空気が破裂する音が響く。
弾丸を発するはずの勢いが、筒の中で炸裂し、杭を強烈に押し出したのだ。
そいつが、岩石のような火山竜の肌を砕き、ぶち抜いた。
「ギャアアオオオッ!!」
グルルドーンは腹を貫かれた痛みに、叫びのたうち回る。
「逃さねえぞ! お前、距離をとったら今度は突っ込んでくるだろう!!」
離れようとする火山竜の首筋を、俺は鷲掴みにしてガッシリ引き寄せる。
モンスターの巨体が、ずりずりと俺に向かって引き寄せられていく。
「あははは!! やっぱりダンは凄いや! そんな大きなモンスターを力でねじ伏せるってどれだけなの!? いいよ、そのまま捕まえてて! こいつには拡散じゃなく……」
シェレラが、一本だけ矢を番える。いや、重ねて二本か?
「行くよ」
次の瞬間、シェレラの声が氷のように冷たくなった。
矢が放たれる。
一射目が火山竜の目を貫き。
「ギャオオオッ!!」
それを、後ろから放たれた一射が、正確に後ろから撃ち抜いた。
モンスターの目玉に打ち込んだ矢尻を、さらに矢尻で後ろから叩き込んだわけだ。
この一撃は脳まで届いただろう。
一瞬、グルルドーンはビクリと巨体を震わせた。
だが、でかいモンスターは死ににくいらしい。
まだまだ手足をばたつかせる。
「おら、暴れるな! おとなしく死んでろ!」
俺は火山竜の頭を掴み、水場に力づくで押し付ける。
いかにばたつこうと、頭を押さえていればどうということはない。
グルルドーンはやたらとしぶとかったが、十分ほど押さえつけていたら死んだ。
いやあ、噂の強いモンスターも、脳みそを潰せば死ぬんだな。
「むっふっふ、これでまるごと一頭捕まえられたね! 装備がまた強くなるよ!」
「おお、そう言えば……!!」
俺は興奮した。
シェレラも興奮した。
ってことで、いつものように冷静さを失ってはしゃいでいた俺たちは、遠くで俺たちを見つめる視線には気づかなかったのである。




