「あのデカブツを殺してくれ!」
そこは、都市国家コーフの闇。
最近では、獣人王国の生き残りが流れ込み、複雑怪奇に拡張を始めているこの国には、光刺さぬ場所が幾らでもある。
複雑に入り組んだ、掘っ立て小屋の間を彼らは歩いていく。
ナッツブレイカーズと言う名のワンダラーのパーティだ。
「あの万年ランク1の野郎、調子に乗りやがって」
「ほんと。お陰で私ら、ペナルティ食らって今週いっぱいは仕事を受けられないわ。せっかくグルルドーンが近くに来てるってのに、他のパーティに狩られちまう!!」
「おい、本当にここにいるんだろうな? バレたらペナルティじゃ済まねえぞ」
「イヒヒ」
ナッツブレイカーズを案内するのは、ネズミの尻尾が生えた小柄な男。
「間違いございやせん。ついつい一昨日くらいに居着いたんですがね。ありゃ、噂に聞く竜人でやすよ」
「お前なあ。安くはねえ金を払ってやってるんだからな? 竜人なんざ、俺らが見つけても狩れねえから、こうして利用してやろうって話になってるんだ」
リーダーの片手剣使いが、苛立った声を上げた。
ネズミ男は、にやにや笑いながら男の言葉を肯定する。
「いやあ全くで。てめえが食えねえ飯なら、泥でもぶっ掛けてやりゃあいいんですわな。あっしも旦那がたのお気持ちはよーっく分かりますよって。ああ、こちらです」
奥地の角を曲がった。
地面に埋め込んだ柱に、辛うじて屋根を乗せただけという粗末な館の間を通ると、周囲は薄暗くなっていく。
そしてここはどん詰まり。
床に敷かれたゴザの上に、それはいた。
クチャクチャと何かを咀嚼する音が聞こえる。
近づくと、それは気付き、顔を上げた。
薄暗がりの中で、金色の瞳が光る。瞳孔が縦長に細まり、そして広がった。
「りゅ……竜人か?」
剣使いの男が、恐る恐る、声を掛けた。
『いかにも。人間が、俺を頼るのか?』
嘲るような声色である。
「そ、そうだ。お前、聞いたぞ。こいつによると、食料で人を殺してくれるそうじゃねえか」
『いかにも。俺は殺すことだけは得意だからな』
ギラギラと金色の瞳が輝いた。
輪郭ははっきりとしない。
だが、獣人のそれとは明らかに違うサイズの尻尾が、バチバチと壁を打つ。
『中でも、俺は黒の竜人だ。ガルシャガマと覚えておくがいい。その気が向けば、この都市くらいならひと呑みにしてくれようぞ』
竜人はそう言うと、ぎゃらぎゃらと笑った。
気圧されるナッツブレイカーズ。
槍使いが負けん気を振り絞ったか、口を開いた。
「そ、それじゃあよ! ダン! ダン・ゴレイムって言う生意気なランク1がいるんだ!」
「ちょっと、あいつ、もうランク4よ。メガパープルを二人きりで狩って、またランクが上がったとか」
「ああ忌々しい! おい竜人! あのデカブツを殺してくれ……!!」
ナッツブレイカーズの様子に、竜人ガルシャガマは真っ赤な口腔を見せて、にやにやと笑った。
『良いぞ良いぞ。その話では、さぞかし食いでのある男なのだろうな。まずは俺が連れてきた、お前らがグルルドーンとか呼ぶ下等竜で試して見るとしよう』
「えっ、グルルドーンって、あんたが……」
女ワンダラーが慄いたが、じろりと竜人に睨まれて押し黙る。
『まあ期待して見ていろ。まだ人のままである俺は寛大だ。差し出した肉の量に応じて、願いを叶えてやるからな。せいぜい、竜となった俺の前には現れんことだ。命が惜しくばなあ』
かくして、ダン・ゴレイムの命を狙う、陰謀が紡がれる。
「ん?」
俺は背筋の辺りに、チリチリしたものを感じて振り返った。
何も無い。
なんだろうなあ。
こう、野生動物が俺をじーっと見てるような、そんな感じがしたようなしないような。
「ダーン! 成果はどう? 結構追い込んだと思うんだけど!」
「おう! 逃げてきたモンスターはみんな殴り倒したぞ!」
「あー、また弾切れかあ……あの杭は使ったの?」
シェレラが軽快な足取りで駆けてきた。
俺の周りには、頭や顎を砕かれ、痙攣する突進型モンスター、ケラトップの山。
真っ直ぐ走ってくるんだから、殴り倒すのが実に楽だった!
シェレラは追い込みの腕も超一流だなあ。
「杭を使ったらあれだろ? 売り物になるケラトップの頭蓋骨が砕けちまうだろうが」
「ダン、ほらほらー。砕けてる砕けてる。手加減しないで殴ったでしょー」
シェレラがケラトップの頭を撫でて、呆れ顔。
「手加減したよー。本気でやったら頭が無くなっちゃうだろー」
「ええ……。ケラトップの半分が頭が砕けてるんだけど……。一番堅いところでしょ? どうやれば砕けるんだろう……すっご……! いや、これは凄い。凄いよダン……! これならグルルドーンの肌だって砕いちゃうかもしれない!!」
「ええっ、そ、そうか!? そうだよな? いけるな!」
シェレラにおだてられて、俺はにやにやしてしまう。
なんつうかこう、シェレラは俺をやる気にさせる天才だな!
「ここはまた、シェレラにいいところ見せないとな!」
「あっ、ダン、後ろにあと一匹……」
「お?」
クロスボウを握ったまま、俺は振り返った。
得物を覆う金属板が炸裂し、後ろに迫っていたケラトップがぶっ飛んだ。
「キュケーッ!?」
「あっ、また頭を砕いた!!」
うっ、ついつい、うっかり……!




