「メガパープル、討ち取ったー!!」
俺たちの先を塞ぐように、パープルラプトーンの雌たちが飛び出してきた。
大きさは、通常のラプトーンの倍近い。
スケール感では人間よりも大きいだろう。
「ギャアアッ!!」
奴らはこちらに向かって、威嚇してくる。
「どけどけ! 俺は止まらんぞ!!」
俺もそいつらに向かって突っ走りながら、腕を振り上げて威嚇した。
途中、ラプトーンが飛びかかってくるが、それが伸し掛かるのを片っ端から引き剥がし、ポイポイ捨てながら走る。
あっという間に、雌の一匹に接触した。
「でぇいっ!!」
これを、俺は駆け寄りざまのキック。
「ギャアンッ!」
雌のラプトーンは、叫びながら吹っ飛んだ。
さらに、他のラプトーンたちを巻き込み、転倒したラプトーンの山みたいなものが出来上がってしまった。
「ギャオォォッ……」
メガパープルは、残った片目を怒りに燃やし、俺を睨みつける。
ちなみに、片目を潰した張本人であるシェレラはと言うと。
「いた?」
俺の背中から声が聞こえてくる。
「いたぞ。立ち上がった」
「よーっし! また頼むね、ダン!」
俺の背中に捕まって、俺の突進にずっと付いてきていたのだ。
彼女の足は俺の腰に当てられ、いつでも全身のバネを使って、背中を駆け上がることが出来るようになっている。
俺のパワーと、シェレラの運動能力がなければ不可能なコンビネーションだろう。
「よし行くぞ!!」
俺は襲い来る雌ラプトーンを、力尽くで押し込みながら、メガパープル目掛けてひた走る。
メガパープルもまた、俺たち目掛けて力を溜めているようだ。
また来るか、例の突撃が……!
「シェレラ!」
「はーいっ!」
腰の辺りに、強烈な衝撃。
シェレラが俺を踏み台にして飛び出したのだ。
再び跳躍して弓を構えるシェレラ。
彼女の腰に、ファイアスターターの瓶はない。
さっきの矢で使い切ったのだ。
だが、彼女はそんなものがなくても十分に強い。
「一撃必中! 二撃でも必中! もちろん三撃でも!!」
一度に三本の矢を番え、メガパープル目掛けて照準は一瞬。
一気に解き放つ。
矢は僅かに距離を取りながら進行し、一本が目がパープルの腕に、もう一本が足に、あと一本は目の前を通過し、この巨大なラプトーンを一瞬怯ませた。
この一瞬で十分!
「どりゃあ!!」
今度は俺から、メガパープルにぶちかましを掛けた。
俺とこいつでは体重差がとんでもないだろうが、重さが足りない分はパワーで補う!
両腕を広げて当たる面積を最大にして、俺の全力がメガパープルに炸裂した。
「ギャオオオオオッ!!」
巨体が悲鳴を上げながら仰け反る。
「ダン、そのままやっちゃえ!!」
「おうよ!! こいつでも喰らいな!!」
クロスボウの砲口を、メガパープルの口に突っ込む。
そして、閉じそうになる顎に腕を突っ込み、こじ開ける!
「ガガガガガガ!!」
「腹の中にぶっ放しゃ、単発クロスボウだって効くだろう! オラア!!」
俺は引き金を引いた。
ズドンッと腹に響く射撃音がする。
メガパープルが、びくんっと震えた。
弾を口に咥え、無理やり装填。
そしてまた一発!
「ああ畜生! 次弾はポケットか! 両手はふさがってる! しゃあねえ、クロスボウで代用だ!」
クロスボウを腕ごと、メガパープルの喉奥まで打ち込む。
肩まで奴の口に突っ込みながら、俺は地面を踏みしめて、腰に思いっきり力を込める。
メガパープルの巨体が浮き上がった。
「んのっ……野郎ぉぉぉぉっ!!」
高らかに、奴を頭上まで持ち上げて、そこから俺ごと倒れ込む。
メガパープルの体重全てが、こいつに返ってくるわけだ。
強烈な衝突音と同時に、土がもうもうと舞い上がる。
俺は突っ込んでいた腕を引っこ抜くと、よだれだらけになったクロスボウに弾丸を装填した。
メガパープルが起き上がってくる気配はない。
やがて土煙が晴れると……。
そこには、白目を剥いて動かなくなったメガパープルの姿があった。
「……よしっ……!! メガパープル、討ち取ったー!!」
俺は咆哮を上げた。
周囲を囲もうとしていたラプトーンたちが、これに驚いてびくりと跳ねる。
そして、自分たちのボスがやられたことを知ると、彼らは甲高い声で鳴いた。
無事だった雌たちが、慌てて立ち上がり、全力疾走で逃げ始める。
これに続いて、ラプトーンたちもみんな、逃げ去っていってしまった。
「やったねダン! またまた大金星! 私の見立て、やっぱり間違ってなかった……!!」
シェレラが感激でぶるぶる震えている。
「このままダンと一緒に仕事をしていけば、どんどんランクが上がっていくに違いないわ。まずはこのショボい武器から、ちゃんとしたクロスボウと弓に変えて、それから鎧もちゃんとしたものにして……ああ、メガパープルを加工した武器や防具はどれくらい強いの? それもカリーナさんにやってもらわなくちゃ……」
ハイテンションから、一気に物思いにふけりだしたシェレラ。
これを見て、ちょっと俺は冷静になった。
「あのー、シェレラ? シェレラー。戻ってこーい」
この狐娘、真面目になると耳がぴーんと立って緊張状態になるんだな。
すっと摘んでみた。
「ひゃっ!?」
シェレラが飛び跳ねた。
よしよし、我に返ったようだ。
「とりあえず、運んで行こうぜ。ラプトーンの素材、持ってける分を剥いでくれ」
「うん、分かった! ダンは?」
「俺はこいつをまるごと持っていく」
俺はメガパープルの死体を担ぎ上げた。
でか過ぎて、後足と尻尾が地面を引き摺っちまうがまあいいだろう。
「うひゃー、いっぱい素材が取れそうだねえ」
シェレラがこれを見てニヤけた。
「だな! 早くカリーナのところ行こうぜ!」
かくして、俺たちは大荷物を抱え、町へと戻っていくのである。