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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
始まりの日々編

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81.ルフィーナとカンラートの時間


「ええ、それで通してちょうだい」


「では、それでいく。カンラート殿もそれでよいか?」


「は! 見に余る思い、光栄にござりまする。ですが、強さにおいては……」


「いや、強さだけでは務まらぬ。人望もあり、正しくもあり、それでいて情けもかけられる……それこそお主に相応しい。そう思わないか? 王女よ」


「ふふっ。そうね、カンラート以外に当てはまらないわね。彼は確かに強くなったわ。だけどまだまだね! なんたってお兄様は名実ともに最高ですもの! ヴァルキリーが奥様だなんて団長であるお父さま以外には存在しないんだから。ねぇ、アルヴォネン団長」


「う、うむ。そうだな。そういうことだから、覚悟はしとくのだぞ? カンラート殿」


「ははっ! 有難きお言葉」


 これこそがわたしが思い描いていた展開だわ。カンラートなら上手いこと動いてくれるはずですもの。


「それでルフィーナ。この話はあいつが帰ってくるまでは公表しないのだろう? どうするつもりだ。仮に奴が負けて帰ってきたら……」


「バカねー! 負けるはずがないわ。ああ見えてお姉様は、わたしよりもずっと計算高いわ。わたしが差し向けた騎士であることくらいは承知なのよ。だから後は、彼がきちんとするかどうかよ!」


「そ、そうか。分かった。お前の男はかつての弱さではないということだな。俺も信じよう」


「それよ! カンラートのそれ!」


「ん? それ?」


「わたし、やっぱり気付いたの。ずっと彼が『僕』って使ってたイメージにばかり囚われていたのだけれど、カンラートのように『俺』の方がきっと相応しいわ。そうよね?」


「根拠がよく分からないが、僕よりは俺の方がいいのかもしれぬな。見習い騎士……いや、今時の騎士候補生でも僕と使う男はおらぬ。アスティンだけだ。だからこそ、ルフィーナには良かったのかもしれんが」


 わたしとアスティンは幼き頃に城の庭で出会った。彼はとても可愛くて僕ッ子で……だからこそ、わたしも彼とすぐに仲良くなれたのかもしれない。でも、ずっとそのままがいいわけでは無くなってきたのも事実。子供っぽさから、少しだけ大人っぽさをアスティンに求めるようになってきた。


「ねえ、カンラートって昔から俺なの?」


「まぁな」


「それでヴァルティアお姉さまと敵対していたのね。なんてたちの悪い子供だったのかしら」


「アスティンが子供すぎたのだ! 俺は別に悪くないぞ」


「ふふん、わたしと出立の時はあれだけ言葉遣いが固かったのに、今では見る影もないわね」


「お、お前が窒息するなどと言うからだ。お前にもしものことがあっては……る」


「いまなんて?」


「お前に……ルフィーナにもしものことがあっては俺が困るんだ!! 愛してるからな、(兄として)」


「ふぅん……わたしも愛しているわ! カンラートを!!」


「お、おいっ!? お、俺にはヴァルティアがいるのだぞ? そういうこと言うのは反則じゃないのか」


 どこまでが本気なのか、相変わらず分からないと思ったカンラート。レイリィアルで想い合ったのは嘘ではなく、そうだったとも言えたのだから。


「(俺だけが秘めていればよいのだ。ヴァルティアに関係なく……)」


「ん、じゃあ行きましょうか? お兄様」


「あ、ああ。そうだな」


 王立騎士団宿舎――


「あなた、お名前は?」


「は、私めは従者のヤージにござりまする」


「従者? あなた、正式な騎士を目指してはいないのかしら?」


「か、叶うならば、王女様のお傍にてお仕えしとうございまする!」


「……そう、その意気よ。期待しているわ」


 アスティンが居ない間、わたしとカンラートは次代の騎士候補や、騎士、近衛騎士たちを選ぶ為に騎士たちが集う場へ連日のように足を運んでいた。


 カンラートやドゥシャン、ハヴェルもベテラン騎士として名を馳せていることに危機感を強めた訳ではないけれど、カンラートは婚姻を済ませ、ドゥシャンも。


「近衛騎士は女性だけで固めるとして、騎士は育てておくべきね。ねえ、カンラート。ヴァルキリーって今はお姉さまだけよね? どうして1人だけなのかしら?」


「あぁ。ヴァルキリーは見目の美しさに加え、圧倒的な強さと誇りに長け、時には冷酷でなければ務まらぬ。ヴァルティアは元姫ではあるが、その頃から素質があったのだ。何より、ロヴィーサ様に認められなければならぬ。もっとも、ヴァルティアは団長自らが認められたから特別ではあるが……」


「へぇ……そうなのね。カンラートってば、そこまでのろけなくてもいいのに」


「ばっ! そ、そうではないぞ。これはジュルツの騎士の取り決めなのだ。美しさもまたヴァルキリーの特徴でもあるのだ。決してのろけなどではない……」


「まぁいいわ。色々やることがあると分かっただけで、今からクラクラしてくるわ」


 わざとらしくフラフラしてみせるルフィーナ。


「だ、大丈夫か?」


「なんてね、冗談よ! 案外優しいのね、お兄様ってば」


「くっ……」


 リーニズに来ているアスティンは、フィアナのことが気がかりで、ずっと傍で話を続けていた。


「フィアナ様。あれ以来、亡霊騎士は出なくなったのですか?」


「ええ。アスティンくんのおかげよ。本当にありがとうね! でもね、それだけじゃないの……」


「え? ほ、他にも何か?」


「それをアスティンくんに言っても何にもならないのは分かっているつもりよ。それでも、あなたに来て欲しかったの。その答えをわたしは期待しているのかもしれないわね」


「え?」


「――あの、ふたりだけでお話されていると事情が分かりませぬ」


 王女様は何を考えてわたしをアスティンと同行させたのだとベニートは頭を悩ませた。フィアナ様は完全にアスティンにしか心を開いていない。これではどうにも辛いものであると思った。


「(なんてお言葉をかければよいかも分からぬ。だが、この方の儚さはとても放ってはおけぬ。リーニズとはどんな国なのだろうか。出来ることなら俺がずっとお傍に……)」


「ごめんなさいね。アスティンくんとは妹のルフィーナが幼い頃からよく知っている子なの。だから、ついつい彼に甘えてしまっているのね。そんなことは決して許されないと言うのにね……」


「い、いえ……」


 アスティンはルフィーナと婚約をしている。しかし、確約ではないということにベニートは気付いた。


 恐らく今回の同行で、願いをするつもりなのだろうかと思っているベニート。それを知っていて、アスティンはどう答えるつもりがあるのかも、気になって仕方がないベニートだった。


「フィアナ様。もう間もなくリーニズに着きます。お疲れかと思いますが、あとわずかのご辛抱ですよ」


「ふふっ、お優しいのねアスティンくん」


「……」


「アスティンめ。油断しすぎだ。道標の無い国……すなわち、狙われやすいということだ。気を引き締めねばならぬな。アスティン、俺は見ているだけだ。お前一人だけで何とかして見せろ」

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