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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
わたしと僕の日々編
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7.姫様、我慢する

「ルフィーナ、急にあんなこと言い出すしキスまでしてくるし一体どうしたんだろう。それに戻ってくるまで他の子と仲良くしちゃ駄目とか、そんなことしないのに」


 ルフィーナにキスをされて動転していたアスティンは、部屋の中をずっとぐるぐると動き回っていた。


「あら? アスティンくん。ルフィーナのお部屋にまだいたのね。どうしたの?」


「お、お姉さん。えっと、さっきルフィーナが来てそれでその……」


キスされたとは言えない。アスティンは思い出しただけで、思わず顔を赤くしてしまった。


「うん。そっか、アスティンくんにはきちんと気持ちを伝えてから行ったのね」


「え? ルフィーナはどこに行ったのですか?」


 ルフィーナの姉は少し言いにくそうな表情を見せながら、アスティンに話し始めた。


「アスティンくん。あの子はこの国の王女になることが決まっているの。それは聞いてるわよね。それでね、あの子はそのためにこの国を出て、お勉強をしなければいけないの。だから、君に会って気持ちを伝えてから、心を切り替えて出立して行ったの。はっきり伝えられないあの子を許してあげてね」


「そ、そんな……ルフィーナはいつここに帰って来るの?」


「……分からないけれど、数年は戻らないと思うわ」


「ルフィーナが……う……うわああああああああん」


 アスティンは姉の前で恥ずかしさを忘れて思い切り泣き出してしまった。彼女とずっと会えなくなるなんて思わなかったから。これからどうすればいいのか分からないまま、泣き続けるアスティン。


「泣かないで。もう会えなくなるわけじゃ無いの。アスティンくんはあの子とまた必ず会えるの。だから、それまで君も騎士の修行を頑張って、そしてあの子が帰って来た時には常に傍にいてあの子を守ってね」


「う、うん……グスッ……ッ。絶対僕が守る、守ります! だからお姉さん、ルフィーナのことお願いします」


「ええ、分かったわ(ごめんね、私はもう会えないの)」


「お姉さん、ありがとう。僕、頑張るよ! じゃ、じゃあ行きます」


 彼女の姉の前で泣いてしまったアスティン。それでも姉の言葉は温かく、優しかったことで慰められた。ルフィーナに負けないように騎士の修行を頑張らないといけない。そう思いながら、勇み足で部屋から出ていくアスティンだった。


 × × × × ×


「姫様。隣国までご辛抱頂くことになりますが、疲れはございませんか?」


「いいえ。大丈夫ですわ。あなたはカンラートだったかしら?」


「さようでございます。姫様の身は私がこの身に代えましてもお守り致します」


「そ、そう」


 な、何かしら。何か居心地が悪いわ。それとも騎士様は大人になるとこんな感じになってしまうのかしら……? アスティンと再会する時にこんな感じになっていたら、息苦しくて窒息しそうになるかも。


 騎士様とわたしを乗せている馬車は、勾配の少ない道をゆっくりと進んでいる。城から遠く離れたことのないわたしにとっては、窓から流れる景色を楽しむには絶好のチャンスだった。それなのに何かが違う気がして、景色を楽しむことが出来なかった。


「あなた、カンラートはいくつなの?」


「はっ、わたくしめは21にござります。姫様は12歳になられたばかりでしたでしょうか?」


 21……大人だけどそんなでもないのね。ホントはもう13になるのだけれど……そんなことはどうでもいいわ。何だか話がしづらい感じがするし慣れないわ。


「あなたは騎士様の中でどれくらいの強さになるの?」


「わたくしめなぞ、若輩にござりまする。ですが、此度の護衛につきましては身命を賭して望みます故、姫様にはどうぞ安心して旅を続けて頂きたく……」


 か、硬いわね。もっとこう、気軽に話してくれないのかしら。アスティンならもっと楽しい感じに話が弾むのに。


「カンラート様は見習い騎士のアスティンをご存じかしら?」


「ルフィーナ姫様。わたしくに様付けは必要ありませぬ。どうぞ、呼び捨てでお呼びください。見習い騎士のアスティンなら存じておりますが、何か問題でもありましたか?」


「で、ではカンラート。アスティンはいつ頃、騎士になれるのです?」


「見習いから正式な騎士として認められるということでしたら、修行をし、騎士としての役目を果たせることの出来る試練を乗り越えられれば、見習いでは無くなることと思われます。ですが、それには本人の資質、剣の熟練、そして想いが備わってこそ、騎士としての称号を得られるものだと信じております」


「資質……アスティンは騎士様になれるわ、きっと」


「姫様は彼のことを想われておいでですか。それならばきっと、次に会う時には見習いでは無く、騎士として姫様の前に帰参することでしょう」


「そうね。必ずそうなると信じているわ」


 アスティン。今頃はわたしが城からいなくなったことを知って大泣きをしている頃かしらね。きっとフィアナお姉様が慰めているのだろうけど、わたしも我慢して行くわ。だからアスティン……あなたも、次に会う時までに立派な騎士様になっていてね。

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