73.王女、その愛に奔走。
ヴァルティアがどうして、アスティンのお母様と決闘をすることになったのだろう……そのきっかけを作ったのは、紛れもなくわたしなのだということは理解しているのだけれど、わたしはアスティンに対する想いを正直に話したに過ぎない。その答えを聞く前に、ヴァルティアはロヴィーサお母さまに対してしまった。
「わたしはジュルツの王女として、どう対処していくべきなの? お姉様……」
「ルフィーナ。あなたにはするべきことがあるのではなくて?」
「――え」
「姉として、王女として……あなたに教えておきたいことがあるわ」
「フィアナお姉様。それはなぁに?」
「国の王女たる者は、国のためを想い、国の者の為に動き回る……それが大切なの。どうすればいいのか分からずに取り乱していては、王女の資格を足り得ぬものとして見られてしまうわ。いい、ルフィーナ。あなたにはすべきことがあるはずよ。貴女の為に命を賭す騎士が大勢いる。その中でも、今回はヴァルキリーであるシャンタルが動いたに過ぎないの。あなたには王命を下す力があるわ。そのことを忘れずに、動いてみなさい」
「フィアナお姉様……わ、わたし、動く。動いてみるわ! その上で、ヴァルキリー同士の戦いの結末を見届けることにしてみるわ! フィアナお姉様、ありがとう。わたし、やるわ」
「うん、頑張って」
やはり、ジュルツの正当な王女はルフィーナにしか出来なかったのだわ。最初から決められていた運命だったとはいえ、あの子の強さにはブレがまるでないもの。
「フィアナ……あの子、ルフィーナは王女としてやっていけそうか?」
「陛下。今はまだ、途中にありますが、きっとあの子ならジュルツの良き王女になると思いますわ」
「……そうか。お前の国が大変だったとはいえ、幼きルフィーナの姉として面倒をかけさせたな。礼を言う。フィアナ王女……いや、我が娘よ」
「お父様……!」
ずっと出来なかったジュルツ国王陛下……お父様へのお礼。そして、親愛の情を示した抱擁がようやくなされた。わたしはこれからもリーニズ王女として、ルフィーナの姉として王女を支えて行きたい――
王の間――
「ルフィーナ、どうしたの? どうして僕やみんなが王の間に呼ばれたの?」
「そ、そうだぞ! ヴァルティアとロヴィーサ様との決闘のことをどうするつもりなのだ? 俺の言うことなどまるで聞かぬのだ。俺の嫁だと言うのに、どうすればよいのだ……」
フィアナお姉様に言われたことを、わたしは今、実行するわ! これがきっとヴァルティアへの想いとアスティンへの想いに繋がるはずですもの!
「……アスティン・ラケンリース。カンラート・エドゥアルト、両名、わたくしの元へ参りなさい」
「!? ……アスティンは、ここに」
「お、お呼びでございますか、王女殿下」
「アスティン及び、カンラートは、ヴァルキリー、シャンタル・ヴァルティアの相手を務め、決闘への導きを行なうのです。同意であれば、口づけを……」
アスティンとカンラートはわたしの手の甲にそれぞれ口づけを落とした。まずはこれでいいわ。
「(むぅ、初めて王女としての威厳を見たかもしれぬな。ルフィーナ、あなどれぬな)」
「(カンラート、ど、どうすればいいの? シャンティと戦うってことだよね?)」
相変わらず優柔不断なのね、ふたりとも。世話が焼ける騎士たち。
「……何をしているのです。早く、ヴァルティアの元へ向かいなさい!」
『ははっ!!』
ようやく行ってくれたわ。さて、お次は――
「ドゥシャン、ルカニネ。こちらへ」
『は』
「あなたたちは、ロヴィーサ様への折衝を重ねておくことをお願いするわ。此度のことは、我がヴァルキリーの勘違いから始まったこと。それゆえ、正しきことをお伝えしておかねばなりませぬ。お願いするわね」
「は、畏まりました!」
「セラはわたくしの傍に付いていてくださるかしら」
「勿論でございまする」
ううむ……姫さんは王女としてすでに風格漂っているじゃねえか。さすが、あたしが惚れた王女様だな。ずっと付いて行くぜ!
× × × × ×
「何用か?」
「ヴァルティア、俺とアスティンはお前の練習相手として来た」
「去れ。この戦いはヴァルキリー同士の決闘だ。騎士の力なぞに頼らぬ……」
「シャンティ……で、でも、僕とカンラートはシャンティの相手として不足はないはずなんだ! だから、こっちを向いてよ!」
「ヴァルティア。これはルフィーナ王女の王命だ。お前が嫌と言えども、王命である以上は引くわけには行かぬぞ! 遠慮はいらぬ。それとも、我らでは取るに足らぬとでも言うのか?」
「――いいだろう」
試練ではシャンティが負けを認めてくれたけど、この稽古試合では思い切りやれるんだ。僕は貴女の為に、ルフィーナの為に全力で相手をしてみせる。
王女に即位したばかりだと言うのに、いたずらをする暇も無いほどのことが起きるとはな。だがこれで、あの子の王女としての資格とジュルツ国家の心髄を計れるかもしれぬな。
※
「まったく、何で俺はこの女騎士とペアになっているんだ……」
「王命ですよ? ドゥシャン様」
「分かってるよ! では、行くとしよう」
「どうぞ、お先に」
「くそっ!」
団長殿は沈黙を続けておられるし、奥方様にどうしろと?
「あなたはこの間の騎士ですね? どうされたのです?」
「我が王女の命により、ロヴィーサ様とヴァルティア様の無用な衝突を避けるために、我らは伺った次第にござりまする……返答を……」
「すでに決まったことですわ。そのこと、ルフィーナ王女にお伝え願いますわ」
「で、ですが……他意も悪意も無き試合に、何の利があるというのでございましょうか?」
「いいえ、これは王女と王女に付き従うヴァルキリーの愛を確かめ合う試合。そして、想いを見せる意味のある試合です。そう、お伝えなさい」
「分かりました。王女にはそう、お伝え致します! 失礼致します」
「お、おい、ルカニネ! お前、何故もっと交渉を続けないのだ? あれでは……」
「無駄ですよ。それを分かってて、王女様も私たちに下されたのですよ。どうしてそれが分かんないんですかね~?」
「……面倒な女騎士め」
「決闘まで、アスティン、カンラートはヴァルティアお姉さまの為に、力を見せてあげてね。わたし、カンラートも、アスティンも信じているから――」




