72.婚礼のヴァルキリー、対峙す
アスティンとルフィーナがいつも通りとなった数日後、国中の沢山の人たちに祝福を受けながら、カンラートとシャンティふたりの華燭の典が始まろうとしていた。
フィアナはふたりを祝う為に来て頂いていた国賓として紹介され、ルフィーナの隣でふたりを祝うこととなった。ルフィーナとフィアナ様ふたりのプリンセスは、誰もが見惚れるほどの美しさだった。アスティンはシャンティのウェディングドレスの裾を持つ、介添え人として動くことになっていた。
「アスティン、すまないな。お前にこんなことをさせて」
「ううん、嬉しいよ! 僕がシャンティの傍でこんな事できるのも、シャンティと仲良くなれたからなんだよ。シャンティはやっぱり綺麗だね」
「た、戯け者め……だが、嬉しいものだな。お前がこうして私に笑顔を見せてくれる日が訪れようとは、あの頃は想像も出来なかった。色々あったが、アスティン……お前は私の大事な――」
「おい、アスティン。良かったな! 愛しのヴァルティアの傍にいられて!」
「う、うん」
「カンラート。何故、貴様はそうなのだ? 何故遮りをするのか答えろ!」
「え? な、何かまずいことでもあったか?」
シャンティの雰囲気がさっきとは打って変わり、カンラートと対峙してしまった。それも花嫁としての表情では無く、明らかに敵意をむき出しにしている。
「シャ、シャンティ……ま、まずいよ。これは祝いの儀なんだよ? シャンティがそんな睨みを利かせたら大変なことになるよ~」
「な、何だかわからぬが、す、すまぬ……愛しいヴァルティアよ。鎮めてくれぬか?」
「――婚礼の儀を終えたら、貴様とは決着をつけねばならぬ。覚悟しとけ、カンラート」
「むぅ……しかし、俺たちは晴れて夫婦となるのだぞ? 何故、すぐに戦わねばならんのだ」
「黙れ! 貴様は心も読めず、心を知ろうとしないではないか!」
「えええ? な、何で急にシャンティの態度がこんな風になっちゃったんだろ。ど、どうすれば……?」
「あらあら、祝いの儀を台無しにするおつもりなのかしら? そこのヴァルキリーは」
「お、お母さん?」
「騎士カンラート、ヴァルキリーシャンタル。争いの式では誰も笑顔になりませんよ。その心を静めて、素直になりなさい。いいですね……?」
「は、はい」
「よ、よかった。お母さんがいてくれて良かったよ。シャンティが素直に応じるなんて、初めて見た」
これでもう何も心配なく式も進む。そう思いながら、アスティンはルフィーナとフィアナの姿を気にして探していた。一緒に座っている姿に気付き、綺麗だなと見惚れていた。
「ルフィーナ、あなた、アスティンとはいつしたいの?」
「な、何を言い出すの、お姉様」
「あなたが想っていた騎士カンラートと、慕うヴァルティアはもう契りの関係なのよ? あなたはアスティンとは婚約はしているけれど、その先は考えているの?」
ヴァルティアお姉さまとカンラートの祝賀を間近で見ているだけで、わたしもいつかは……なんて、思ってしまうけれど、王女に即位してからすぐには無理な事。それは分かっているわ。
アスティンもきっとまだ、そんな気持ちまでにはなっていない気がするし。それに見習い騎士はあくまでわたしが、彼のことを繋ぎ止めたいだけの称号。だから、アスティンと婚姻をする時にはその時は、きっとカンラートのように立派な騎士になっていて、それで――
「か、考えているわ。その時が来たら、お姉様をご招待するもの!」
「期待……していいのね?」
「も、勿論よ!」
「うふふっ! 楽しみね!」
こんなにも喜んでくれるなんて、わたしもお姉様の為に何かしてあげられたら。ううん、今はヴァルティアお姉さまのドレス姿を目に焼き付けなければいけないわね。
途中でヴァルティアとカンラートが対峙していたみたいだけれど、婚礼の儀は滞りなく終えたみたいだったわ。祝賀の場ではわたしもお姉様も笑顔で彼と彼女を祝うことが出来た。そして――
「こんにちは、あなた、ルフィーナ王女……ルフィーナちゃんね?」
「え、あ……そ、そうですわ。あなたは?」
「きちんとお会いするのは初めてかしらね? 私はアスティンの母、ロヴィーサと言うの」
「ロヴィーサお母さま? わ、わたしに何か……」
何かしら……わたしのお母様とは違う迫力を感じるわ。でも、怖いとかでは無くてヴァルティアに似た感じを受ける気がするわね。何故かしら。
「ルフィーナ王女にお聞きしたいことがあったのだけれど、よろしいかしら?」
「え、ええ」
「アスティンを騎士に任命せず、見習い騎士のままにされたのは何故なのかしら……と、思ったの」
『お、おい、ルフィーナ王女とロヴィーサ様が対峙しているぞ。誰か止めた方がいいのではないのか?』
「はぁ~~……シャンティもカンラートも何とか無事に終えて良かったよ。そう言えばお母さんはどこに行ったんだろう。それにルフィーナやフィアナ様も……ってあれ? 何だろう、何の騒ぎ!?」
「アスティン! ありがとうな。お前のおかげで無事に終えることが出来たぞ。ん? どうした?」
「カ、カンラート。シャンティを呼んできてくれるかな? い、今すぐに……」
「ん? あれは、ルフィーナとロヴィーサ様か? ま、まさか……!? わ、分かった、待ってろ!」
式も祝いも終えたばかりにもかかわらず、ルフィーナと母が何故対峙しているのかアスティンには分からなかった。分からずに思わず、カンラートに救いを求めていた。
「ま、まさか試練のことで文句を言っているんじゃ? ま、まずいよ」
「アスティンは強くなりましたわ。それでも、他の騎士に比べればまだまだ甘い所が見受けられますの。それなら、わたくしの傍でわたくしを守りながら、騎士としての素養を磨いて欲しいと願ったからですわ!」
「……それがあなた、ルフィーナ王女の答えなのね?」
「ええ! そうですわ! これはわたくしの意志であり、ジュルツ王女としての意志ですわ!」
「――そう、そうなのね……」
「あわわわわわ……!? い、今にもお母さんがルフィーナの頬を叩きそうな気がしてならないよ」
「ルフィーナ王女、私はあなたを――」
「待てっ!! 何の騒ぎか?」
「え? ヴァルティア? ど、どうしてここに?」
「アスティンの母、ロヴィーサ様はなにゆえ、我が王女と対峙しておられる? たとえアスティンの……いや、団長殿の奥方様であろうとも、我が王女を傷つけることは許さぬ」
「ふふ……ヴァルキリーのあなたが、私をどうされるのかしら?」
「あなたもヴァルキリーだったのだろう? ならば、槍に聞く方が早いと心得る」
「早とちりは命取りと言うのだけれど、あなたは聞く耳を持たずに王女を守ろうとしておいでなのね。分かりましたわ。いいでしょう、あなたの実力を確かめさせて頂くとしましょう」
「望むところ! では、決闘は後日に……」
「ええ、構わないわ」
「え? ちょっと、ヴァルティア……それにアスティンのお母様? ど、どうしてそんなことに?」
「ルフィーナちゃん。私の答えは、後ほどお答えするわね。それでは、また」
「あっ、お母さん。ま、待ってー」
アスティンはお母様の後を追いかけて行ってしまうし、ヴァルティアは何か戦いたそうにしているしどうなっているのかしら。
「ルフィーナ、お前のことは私が守る! アスティンの母君と言えど、容赦せぬ」
「お、おい、ヴァルティア! 何がどうなっているのだ? ルフィーナ、お前……何をしたのだ?」
「わ、わたしにもわからないことが起きたわ」
「あらあら……ルフィーナを想うシャンタルは、勘違いが過ぎて勝負を挑んでしまったのね。どうしましょう。私もまだ滞在しなければいけないみたいね」
シャンタル、ルフィーナ。挑んではいけない相手に挑んでしまったことに気付いていたフィアナ。アスティンを想う母ロヴィーサと、ルフィーナの想いを見届けるまでは素直に帰るわけには行かない。
それが自分の役目でもあり、何よりルフィーナの姉として当然のことであると感じたフィアナだった。




