67.僕の大好きなルフィーナちゃん
「ルフィーナ、なんの冗談なの? 俺の試練の最後の相手ってキミなの? そんな、ここまできていたずらはやめてよ~」
「あら? 何か文句でもあるのかしら? それとも見習い騎士のアスティンはわたしには剣も向けてくれないの?」
「……そ、そんなの、向けられるわけないじゃないか! ず、ずるいよ……俺がキミのことをどれだけ想っているか、知っててそういういたずらをするんだもんな~」
「ヴァルティアお姉さまの言った通りなのね。アスティンは甘えが過ぎるわ。いいこと、アスティン! 愛し合う者同士って、時には敵同士にもなるのよ? カンラートとヴァルティアは愛し合っているけれど、敵にもなれるのよ。わたしは、アスティン! あなたと敵になってみたいの。さぁ、剣を取りなさい!」
カンラートとヴァルティア? あ、シャンタルのことか。肝心のふたりを見てみると……気まずそうに、俺をチラ見している。ルフィーナに今回のことを教えるような出来事でもあったのだろうか。
「ルフィーナ! 王女になったんだから、そんないたずらは今すぐに……って、え!?」
ルフィーナが構えていた弓の矢が俺の顔をかすめて、そのまま壁に突き刺さった。え? な、何でこんなに威力があるの?
「ふふっ、どう? わたしも弓を覚えたのよ。これでもあなたは剣を向けてくれないのかしら?」
「む、向けない! 俺はキミを絶対に傷つけない。キミは王女なんだ! そして、俺の大事な婚約者なんだ。絶対に剣を向けるものか!」
「ア、アスティン……」
「ルフィーナ。分かってくれたんだね? だ、だから、弓を置いて」
俺の言葉を聞いて、ルフィーナが素直に弓を床に置いてくれた。その足でそのまま、俺の所に歩いて近づいて来てくれる。安心した俺が目を離したその時だった。
「ふふっ……甘いわよ、アスティン!」
「――えっ!?」
気付いた時には床に倒されていた。一瞬のことだったものの、シャンタルの技と似ていたことに驚きを隠せない。いつの間にか自分の体は回転をさせられていて、じわじわと痛みが後から感じて来ている。
「い、いたた……はぁ~~……ルフィーナ。キミ、こんな技をどこで覚えて来たの? それも全部この日の為に覚えて来たって言うの?」
「ええ、そうよ! わたし、あなたに会うまでに必死に覚えたわ! もちろん、これはあなたの為だけじゃないのよ? 王女になればまた賊にも狙われるだろうし、どこかの国の悪い奴にも狙われるかもしれないのよ? そんな時に自分を守ることも覚えないと駄目なの。わたしはそれをカンラートとの旅で思い知ったの! 彼も怪我を負って、わたしも牢に入って……すごく、すごく悲しかったわ。ずっと一緒にいた人といられなくなるなんて、そんなのはもう嫌なの! だからわたしも強くならなければいけないって思ったわ」
「お、俺は……ぼ、僕は絶対、ルフィーナちゃんをそんな目に遭わせない! だ、だから、キミにまでそんなことをさせたくないんだ! もう、やめようよ……こんなの、嫌だよ。ルフィーナちゃん――」
これが僕の本心。ずっと、ずっと彼女のことを想っていた……僕のルフィーナちゃん。
好きなんだ。会いたくて、会いたかったけど、キミは強くて僕を置いて先にこの国を出て行った。でも、僕はそうじゃなかった。だから――
「あ……」
「ルフィーナちゃんっ!!」
みんなが見ている前で僕は、なりふりなんて構っていられなかった。僕は、キミのことが好きなんだ。愛している。どんなにキミに会いたかったことか、ずっとずっと、抱き締めたくて傍にいたくて……
「ア、アス……んっ!?」
僕の想いを言葉なんかじゃなくて、気持ちを……彼女に注いだ――
「お、おぉ……おいおい、アスティン、お前――」
「カンラート、黙っとけ……」
ここにいる全ての兵士、騎士、そして国王陛下や父様が見ていても構わずに、僕はルフィーナちゃんの口を奪った。
「んんーー!! ア、アスティン……」
「わ、渡さないから……ぼ、僕はキミを誰にも渡さないし、誰にもどんな国の奴にもキミを傷つけさせないから!! だ、だから、僕は君のことをずっと――」
『アスティン・ラケンリース!! そこまでだ!』
「えっ?」
『我が王女に何という醜態、何たる行為をした!! よって、貴様は当分の間、自宅謹慎とする! よいな? アスティン』
とてつもなく恐ろしい声の父様が、僕を叱りながら言い渡した。でも、自宅謹慎? 牢とかじゃなくて?
『ルフィーナ王女殿下、我が息子……アスティンのしたことをお許し願いたい。コレはまだまだ子供なのでございます。……しばらくは我が家にて謹慎と致しまするが、王女殿下さえよければ様子を見に来て頂けると幸いにござりまする。では、これにて失礼致します』
「え、あ……」
父様に無理やり引っ張られる形で、僕はそのまま大広間から連れて行かれてしまった。ルフィーナちゃん、ごめん。
「ゴホン……えー、見習い騎士アスティン・ラケンリースの試練は以上である。では、解散!!」
戸惑いながらも立ち会いの騎士の声で、その場から一斉に去って行く騎士たち。
アスティンがわたしに口付けを……。
唇に手を触れるとまだ、アスティンがそこにいる気がする――
「ルフィーナ様、戻りましょう」
「ヴァルティア……え、ええ」
最後にとんでもないことになったけれど、アスティンの試練は無事に終えた。そして彼はしばらく、騎士団長でもあるお父様と、お母様の下で自宅で過ごすことを命じられた。謹慎と言う名の団欒なのだけど。
わたしは王女に即位し、忙しい日々が始まろうとしているのだけれど、数日は何も手がつかず、ヴァルティアお姉さまに付いてもらっていた。退位をしたお父様が細かく指示を出していて、城の中でのことは滞りなく進んでいた。
「はぁ、アスティン……」
「おい、ヴァルティア。何とかならぬのか? お前はあの子の姉のような存在だろ?」
「カンラート。それを言うならお前も兄だろ? 貴様が何とかしたらどうだ?」
「そ、そうは言うが……まさかあの場であいつがあんなことをするとは思ってなくてな。お前だって内心は穏やかでは無かったのだろう?」
「ほう? 私がまだアスティンに想いを抱いているとでも?」
「い、いや……すまぬ」
「私は今やアスティンへの想いよりも、ルフィーナへの想いの方が強いのだ。あの御方に何かあるようではどうにもならぬ。しかし、確かにアスティンのあの行動によって、長年の我慢と強さが一気に消えてしまって、ルフィーナはすっかりと少女に戻ってしまった。これではダメなのだ……王女になり立てでそんなことでは、民や騎士に示しがつかぬ。だから頭を悩ませているのだ。カンラート、貴様も何か考えろ!」
「しかし、俺らでもあの子は反応を示さないではないか……他に誰がいると言うのだ?」
「それを考えろと言っている!」
城の中は王女の恋落ちによって、パニック状態に陥っていた。お手上げだと言わんばかりに、愚痴をこぼすカンラートだった。
「おいおい、アスティン。お前、最後の試練でとんでもないことをしてくれたもんだな。どうするんだ?」




