5.誓いの口付け?
「それでアスティンはどうしてわたしの部屋にとどまっているの?」
「え、そ、それはルフィーナを守るために」
「本当にそうなの? そうと言い切れるのかしら」
城の中でいなくなったわたしを探すためにお父様に呼ばれたアスティン。あっさりと姿を見せたわたしを見張る為に呼ばれたに違いない。
それにしても、見張っているはずの彼は心なしかぼうっとしていて、いつも以上に心がどこかに抜けている感じがする。
「はぁ~~……ルフィーナのお姉さんいいなぁ」
「ふぅん? アスティンはフィアナ姉さまのことが好きなのね?」
「ち、違うよ! そ、そうじゃなくて、ルフィーナも大きくなったらお姉さんのようになるんだろうなぁって思ってただけだよ。おしとやかで上品で清楚な感じがして、何だかすごくいい香りがして……」
「へぇぇぇ……? もしかしてさっき惚れたの? 確かにお姉様は儚げな美しさがあるのよね。あ~そうか、その辺りが男の子にはグッと来るものなのね~」
わたしの将来の騎士にして許婚のアスティン。だけど、それは確実なモノでもなくて、そう決まってるだけでそうなるかははっきりしてない。
アスティンが誰を好きになるとかそういうのは、わたしがきめることでもない。それでもわたしは、アスティンを離したくない気持ちが芽生えて来ている。
「ぼ、僕は、僕が好きなのはルフィーナ姫だから。お姉さんに対しての好きとは違うよ……」
「見習い騎士アスティン。わたしの前に跪きなさい!」
「えっ? き、急にどうしたの……」
「聞こえなかったかしら? 騎士アスティン、我の前で跪くのです」
「はっ……」
アスティンはわたしの言い方と、雰囲気に気付いたのか、本物の騎士のように跪いた。そして、命を待っている。
「誓いの口付けを……ここへ」
お母様たちの見よう見真似で、跪いているアスティンの顔の前に、わたしの手を差し出した。確か、手の甲にキスをしていたような?
「キ、キス!? え、そ、それは……あの」
「我を生涯に渡って守り抜き、愛すると誓いなさい! ここに口付けを……早く!」
「え、あ……」
何となくアスティンも見たことがあるのかもしれない。たどたどしい手つきでわたしの手を自分に引き寄せながら、手の甲にキスをした。
「我が名はアスティン。騎士の名において、ルフィーナ姫を守り抜き愛し続けることをここに宣言する……(だったかな)」
「本当に?」
「勿論!」
「それなら許してあげる」
「え?」
「アスティンてば、私がいるのに他の女性しか見ていなかったじゃない。だからはっきりさせたくなったの。それだけのことよ」
「そ、そうなんだ。で、でも、僕が好きなのはルフィーナだけだから。ずっと傍にいるって決めてるから! だ、だから……」
そう言いながら、わたしの両肩に手を置くアスティン。んん? 何をしようとしているの?
「ぼ、僕の気持ちを……」
「言い忘れてたけど、ルフィーナ、お父様があなたのことを……って、あら?」
タイミングがいいのか悪いのか、アスティンがわたしに何かをする直前になってお姉様がお部屋へ入って来た。慌ててアスティンはわたしの元を離れて顔を赤くしている。
「アスティンくん、それはまだ早いわ。それにそういうことは、婚姻を決めてからしなさいね。約束!」
「は、はははいいい!!!」
「ルフィーナ、お父様が話したいことがあるとおっしゃっていたわよ。私と一緒に行きましょ」
「うん、分かったわ」
「それでは、アスティンくん。この子との事、約束してね」
「は、はいっっ!」
どうしてかしら……やはりお姉様に対しての方が頭を下げる角度も態度も違うわ。わたしとお姉様が部屋を出て行くまでアスティンは顔を上げることなく、頭を下げたままだった。
そして、お父様の元へ行くとわたしはいよいよ、決意と覚悟を迫られることになる――