4.姉の言葉
「ルフィーナはまだ見つからないのか?」
「はっ……」
姫に動き回られて、知らなくてもいいことまで知られてしまうのはまずい。そう思った国王は、彼を呼ぶことにした。
「これ、見習い騎士の彼をここへ呼んで参れ」
「ははっ!」
それにしても城の内部がこんなにも広くてごちゃごちゃしてるなんてね。地下通路があるのは承知していたのだけれど、普段は絶対見つかりそうにない隠し通路まで見つけられるなんて思わなかった。
こんな構造になっていたなんて想像以上だわ。これならいつお母様に怒られてもここに逃げ込めば……ふふっ、隠し通路にアスティンを呼べば更に面白くなりそうね。
「よっ……と」
前から入ったわたしは後ろからでしか降りられなくなってて、床に足が付くことを確認して部屋の床に着地した。今回はここまでにしないとね。また城が大騒ぎになりそうだし。
「あなたどこから出て来たの!? というより、今まで何をしていたの?」
「それはもちろん、探検……」
「ふぅん……そういうことね」
「フィアナお姉様!? な、何でここに?」
「呆れた……あなたが城からいなくなれば大騒ぎになることくらい学習しているでしょう? あなたにとってはお遊びのつもりでも、お城の中は見られたくないものもあるのよ。それで、何か見た?」
「えーと……ち、地下通路くらいよ」
「ホントにそれだけ? それならいいけど、いいこと? 今後は勝手に城の中を探し歩くのは駄目よ」
「えー?」
「それとお父様に謝っておきなさいね。とても困ってたわ。ルフィーナはいずれわたしがいなくなった時にしっかりしていないと困ることになるのよ?」
「……お姉様はどこかへ行くの?」
「跡継ぎはあなたなの。だからわたしは他の国へ行くことが決まっているわ。いつまでもわたしがあなたのことを守ってあげられるわけではないの。いい? お父様やお母様の言いつけをきちんと守って、いつまでもいたずらしたり困らせたりしては駄目」
お姉様がこんなことを言うなんて初めて……見てはいけないものがお城の中にはあるというの? まぁいいわ。フィアナお姉様の言われたことに素直に従うとするわ。わたしが大きくなったらお姉様はいなくなってしまう。考えたことはなかったけれど、何だか急に寂しく感じてきたわ。
「フィアナお姉様……わたし、お姉様を困らせたくないの。だから、お姉様がいる間はもう、いたずらや探検はやめることにするわ」
「そう……わかってくれたのね。あなたが大きくなって、王女になるのもそう遠くないわ。それまで、たくさんお話しましょうね」
「うん、分かったわ」
フィアナお姉様と話をしていると、扉が開いてお父様やアスティンが部屋に入って来た。わたしがいることを確かめると、お父様や城の者たちはそのまま戻り、アスティンは部屋の中へ留まった。
「な、何かあったの?」
「何も無かったわ。それよりもどうしてアスティンがここへ来ているの?」
「僕はルフィーナの父上様に呼ばれて急いで来ただけで……」
「騎士見習いさん、この子のコトお願いね」
フィアナお姉様がアスティンの肩に手を置いて、声をかけるとそのまま部屋を後にしていく。
「あ、あのさ、ルフィーナのお姉さん、どこかに行くの?」
「そうね……いずれ、行くことになるわ」
「そ、そうなんだ……」
とても優しそうで儚げな雰囲気のお姉さんだった。ルフィーナも大きくなったらお姉さんのようになるのだろうか。そんなことを思いながら、ルフィーナを見張……見守りながら傍に居続けた。