38.騎士と騎士の絆と共に
「さて、ルフィーナ。仮病のことは謝ろう。お前は今いくつになったのだ?」
「あら、愛娘の歳も分からないほど呆けてしまわれたの? もうすぐ18になるわ。成人の儀まであと2年。あと2年で帰国する所だったのよ? どう責任を取ってくれるのかしら? ねえ、お父様」
「お前は勘違いをしているようだな。見習い騎士アスティンと違い、お前は王女となることが幼き頃より決まっている。2年後に帰国しようと、今帰国しようともそれは変わらないのだよ。それに、ルフィーナは騎士と違いあくまで外の世界を知るための旅であった。それが途中であろうと国を見ることはこの先も必要となる。故に、騎士と共に帰国をさせた」
「どういうこと?」
「此度、お前を帰国させたのは王女ルフィーナとして即位してもらうためだ。だがあくまでもこれは、準備期間としてとらえてくれ。正式に即位となるのは成人の儀……つまり、お前が20の歳を迎えた時に執り行う。今回、王女としてお前にやってもらうことが2つほどある。薄々は分かっているかもしれぬが……」
「騎士同士の婚礼儀式……そうなのね?」
嫌な予感は的中したわ。きっと、カンラートへの想いはお父様やお母様にはお見通しなのだわ。
「うむ。気付いたか。そして、もう一つは見習い騎士アスティンの試練。あやつが今、どのような状態にあるか知らぬだろうが……」
「ここにシャンタルがいるということで何となく想像出来るわ。アスティンは惚れやすい子なの。一度好きになってしまえばその子しか見えない男の子なの……そういうことなのでしょう?」
わたしもアスティンのこと言えないわ。それでも、彼はヴァルキリーに夢中なのね。それが彼を弱くしている……きっとそうなのね。そんなアスティンのままだとしたら、悲しいわ……泣き虫なままではダメよ、アスティン。
「ふ、さすが我が娘だ。アスティンはまさしくその通りになっている。今はヴァルキリー配下の騎士と共に行動をさせている。慣れるまではあやつも泣き出す日々が増えるだろうが……騎士である以上、甘えはどこかで捨てねばならぬ時があるのだ。だからこそ、ルフィーナに来てもらったのだよ」
「それで、あのふたりには伝えているのかしら?」
「いや……だが、そのことをルフィーナ王女。お前が命じて知らせるのだ。そして、執り行いを済ませた後、ルフィーナ王女は再び外の世界へ向かってもらう。その時お前の傍にはあのふたりを置く」
「ふぅん。お父様はやっぱり、意地悪だわ。アスティンにはヴァルキリー配下の騎士をふたり置くのでしょう? 女性をふたりも置くなんて、アスティンが心配だわ」
セラフィマは豪快な彼女だからかえってアスティンにはいいのかもしれないわね。もう一人はどうかしらね。
「まぁ、そう言うでない。アスティンの試練は己を高め、甘えを捨てることこそが真意だ。だが……」
「いいわ! それじゃあ、わたくしはあのふたりと話をしてくるわね。婚礼の儀はどこで行うの?」
「うむ、あくまでも儀式のみだ。お前がその場で行うがよい。そして、2年の後に改めて祝すことにしよう」
簡単なのね。それでも何だか、複雑だわ。カンラートへの想いを封じて、本当の想い人と結ばせるだなんて……これもある意味でわたし自身の試練なのかしらね――
「カンラート。貴様、姫様に奪われてしまったのだろう? 違うか?」
「何のことだ? そう言うお前こそアスティンを骨抜きにしているそうじゃないか。どうなんだ」
「ふ……貴様は姫様の足元にも及ばぬ半端な騎士に過ぎぬ。だから二度も三度も不覚を取るのだ。それでも副団長なのか? いつからお前は弱くなった! 答えろ!」
「ヴァルキリーともあろう奴が、1人の男に惚れてしまったか。お前こそ心に歪みが生じているではないか! ヴァルティア! 剣を抜け!!」
「……いいだろう。貴様も剣を抜け。ここで互いの剣技をぶつけ、果てのない想いを滾らせるだけだ!」
刹那――
素早く動かした剣先は互いに衝突を受けていた。俺と彼女のスピードはほぼ互角。盾を持たない剣とのぶつかり合いはどちらかが一瞬、気を抜いた時点で勝負は決まる。
「ググググ……」
押し合う剣。ふたりの瞳に映る行く先は同じだった。ヴァルキリーは槍を得意としている。だが、彼女にとって剣だろうが、槍だろうが攻撃に特段の劣化は見られなかった。
「どうした? カンラート。貴様、やはり腑抜けてしまったのではないのか?」
「ヴァルティア、お前こそしばらく見ない間にただの女になってしまったのではないか」
「ほざけ!!」
キィィィィィィン――
一瞬のことだった。彼の一言が効いたのか、彼女の剣が彼の剣をはじき飛ばし、後ろの地面へと突き刺してしまった。言ってはいけないことを言ってしまった、彼は悔いた。
「……すまん。さっきの言葉は俺の本意じゃない」
「お前も、私も……同じだろう?」
「あぁ」
カンラートにシャンタル、どこにいるのかしらね? あ、ふたりとも庭にいたわ。何を……えっ?
「お前に会いたかった。お前と姫様を何度重ねたか、ヴァルティアは知らないだろう。だが、それでもお前を一度たりとも忘れたことなど無かった。お前は俺の女だ、ヴァルティア」
「エドゥアルト……私も同じだ。アスティンを見ながらお前を見ていた。私はお前の女だ……んん……」
ああぁぁ……見たくなかったけどまさか、そんな……そうよね。あのふたりも婚約者同士なのよね。分かっていたわ。それでも、認めたくなかった。カンラート――わたし、あなたのことが本気で好きだったのね。アスティンがいても……それでも、わたしは。
騎士ふたりの、口づけを見ることになるとは思わなかったわ。思わず花壇に隠れてしまったじゃない……あれが大人の口付けなのね……やっぱり、ヴァルキリーには敵わなかったわ。
それでもいいわ。わたしだけでも、箱の底に深く想いを沈めたのだもの。わたしの想いは私だけのものよ。そうでしょう? カンラート。
しばらくしてから、ふたりの前に姿を現わすことにしなきゃ。……な、泣いてはダメよ。ルフィーナ。
「いたずら王女と見習い騎士婚姻譚」メイン人物紹介。
ルフィーナ・ジュルツ いたずら好きのお姫様。次期王女。幼き頃に出会ったアスティンと婚約している。
アスティン・ラケンリース 見習い騎士。ルフィーナにいつも泣かされていたものの、成長と共に騎士らしくなっていく。
カンラート・エドゥアルト 王立騎士団副団長。王命により、ルフィーナに付き従う騎士。
シャンタル・ヴァルティア 王立騎士団ヴァルキリー。王命により、アスティンの騎士指導として就く。




