33.強さの輝き
霧の国ミストゥーニに来てから数日、護身の技を受けたい想いをわたしはカンラートに伝え続けていた。それなのに頑として、聞き入れてくれないカンラートと口喧嘩が続いていた。
「カンラート! これはわたしの命なのよ? どうしてそれを聞き入れないの! あなたに守られていることには感謝しているし、騎士としての役目は守られているわ。だからといって、わたしがあなたを信じていないわけではないのよ? 技と言っても、それで賊や物の怪に対抗出来る程の力を備えられるわけではないわ! 分かってよ、カンラート」
「姫様。いや、ルフィーナ……貴女はどうしてそうも我儘なのだ! 姫様は次期王女となられるのだぞ? それを支えるのは紛れも無く騎士のアスティン。そして私と、ヴァルキリーのシャンタルだ。国を支える我ら騎士の力を備えておきながら、どうして貴女様までもが力を備えようとするのだ! 私にはどうにも納得が出来ない! それともアレか? 賊でのこと、レイリィアルでのことを気にされて危惧されたのか?」
「こ、この分からずやーー!! いいわ、貴方が反対して理解してくれなくてもわたしは護身の技を身に着けてやるんだから! あなたはこの機会に宿で寝ていればいいわ」
「ルフィーナ……い、言わせておけば、うっ……ぐぐぐ……」
えっ? き、急にどうしたのかしら。カンラートの様子がおかしいわ。もの凄く汗を掻いている?
「ど、どうしたというの? カンラート」
「ル……ルフィーナ――」
そ、そのまま倒れ込んでしまったわ。ど、どうすれば……そ、そうだわ! 額に手を当てれば――
「す、すごい熱だわ!? なぜこんなことになっていると言うの? と、とにかく、誰かを」
宿の主人にお願いして、医術士に来て頂けることになった。
「カンラート、彼の症状はどうなの?」
「これは、傷口が癒えていないまま無理をされたことでの膿の広がりですな。加えて、凍瘡もおこしております。どこか寒冷の地に行かれた時に、長い時間に放置されたことと無数の傷跡が彼を蝕ませたということでしょうな」
寒冷の地……レイリィアルね。確かに寒かったわ。でも放置だなんてそんなこと……あ――
「ど、どうすれば彼は良くなるの?」
「そうですな。これだけの大怪我をされて、熱まで出されているとなれば例え、腕利きの医術士であっても治すことは容易くは無いでしょう。ですが、我が国の王に聞けばその術をご存じなのかもしれません。では、お大事に」
カンラート……わたし、あなたを失いたくない。あなたを困らせるつもりなんて無かったのに。
それなのに、熱を上げさせてしまうことを言ってしまったのね。カンラート、わたしがあなたを助けて見せるわ。
「カンラート、わたしが貴方を救うわ……だから、今しばらく休んでいてね」
王城――
「お、お願いがございます! どうか、わたくしに騎士の傷を治す何かをお教え頂きたく存じます!!」
「ルフィーナ姫、お顔をお上げくださいませ。あなたは姫様なのでしょう? あなたの騎士をお救いしたい願い、確かに受け取りましたわ。姫のご覚悟と決意をお示しになるには、我が国の地に生える万能草を取って頂かなければなりませんわ。その草を煎じて騎士に飲ませれば、きっと良くなることでしょう」
「ディーサ王女、その草を取ってくればいいのですね? わ、わたし、向かいます。それはどこにありますの?」
「その前に、以前の答えをお話致しますわ。我が国は知っての通り、地下に中心がございますわ。それは何故か。他国には無い資源が豊富にあるからですわ。そしてそれを付け狙う賊、他国の侵略が昔からありました。ですので、霧でもって国ごと隠しているということですわ。地上の部分に何も見せていないことも、防壁の意味を持たせているのです。万が一、霧を突破されても地上において何かを取られる心配はないのです」
「そ、そうなのですね。だから、地下に城があるということなのですね。良くわかりましたわ。……それで、その草はどちらに?」
「我が国の地……すなわち、外側の谷底にそれは生えていますわ。そこにたどり着くには、ルフィーナ姫、あなただけでは到底不可能ですわ。下手をすれば、あなたのお命すらも危うくなるということにも繋がります。それでも、お行きになられますか?」
「当然ですわ! 彼の、わたしの騎士を救うためなら危険だなんだって、言ってられないわ! ディーサ王女、わたしをそこへ案内して!」
谷底? ふふん、そんなの恐ろしくも無いわ。人の話を聞かない分からず屋のどこかの王に比べたら、谷底に行くくらい、怖くも無いわ。
「ルフィーナ姫に同行するのは我が国の弓腰姫。彼女らを3名付けさせますわ。そして、外の霧からこちらへ向かっているあなたの国の騎士も入れて、5名で向かって頂くとしましょう。女性のみではありますけれど、身軽な弓腰姫が付いていれば、貴女の助けとなるはずですわ」
「弓腰姫? カンラートに矢を放った彼女たちのことね? それなら問題なさそうね。それと、外から騎士が向かって来ているですって? それも我が国の? 誰かしら……」
「貴女に護身の技を伝授するのも彼女たち、弓腰姫でしたのよ。無事に騎士を救い、心に安らぎを保てたあかつきには、ルフィーナ姫。あなたに弓の技をお教え致しますわ。何も一国の王女に剣の施しを授けるつもりは無かったわ。ですが、弓であれば近接に優れている騎士の後方支援を行うことが叶うことでしょう」
「弓……そうだったのね。てっきり剣のことかと思ってばかりいたわ。だからカンラートは反対したのかしら。それであればますますやる気が満ちてきたわ! 地下で過ごす日々も飽き飽きして来たところだったの。さぁディーサ、わたしを外へ導いて下さるかしら?」
「ふふふっ、ルフィーナ姫はお強いのですね。その強さが騎士を救うためとは言え、輝きを増すなんて将来が楽しみな王女様ね。では、我が国の姫たちを紹介しますわ」
「お呼びですか、ディーサ様」
「……参りました」
「どうも……」
「ルフィーナ・ジュルツよ。あなたたちの力を借りたいわ! よろしくお願いするわ」
「アダ、チュス、ミラグロス。ルフィーナ姫をお守りしながら、谷底へ向かいなさい。いいですか、くれぐれも姫様と喧嘩をしてはダメよ?」
喧嘩? あぁ、分かる気がするわ。3人とも個性が強そうですものね。それでも3人の中でしっかりしていそうな子は……ミラグロスかしらね。それに騎士も加わればなんとかなりそうな気がするわ。
「ルフィーナ姫。わたしが一応この中じゃ年上でまとめ役なんです。ミラグロスです。ミラとお呼びください。アダ、チュスはちょっとばかり我儘で、お転婆なので気苦労をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願い致します」
「ミラね。よろしくお願いするわ。我儘でお転婆? ふふっ、わたしから見れば可愛いものだわ。アダ、それにチュスもよろしくね」
「……ふんっ」
「足を引っ張るの、やめてよねお姫様」
「お断りよ! わたし、思いきり足手まといなの。だから、お願いね! あなたたちが頼りなの。騎士をどうしても救いたいわ。だから、お願い……!」
3人の可愛い弓腰姫を前に、らしくないけれど両手を重ね、膝をついてお願いをした。この子たちが王女からお願いされるということは、精鋭だという証でもあるのだから。
「では弓腰姫たち、ルフィーナ姫と外の騎士を助けてあげてね」
「はい!」
「分かった~」
「面倒だけど行ってくる」
カンラート。わたし、あなたの為に頑張るわ。絶対、あなたを救うわ! 治ったらまた、いつものように仲良くしてね……大好きな兄様――




