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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
試される絆編

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31.貧欲に求める幸せ

 

 ジュルツ国・王の間――


「……そうか。やはりあの国との戦は避けて通れぬのか。あの子の慈しみすらも通用せぬとはな。とは言え、今すぐの話では無い。我が国の次期王女がどう決めるか……」


「陛下。我々は引き続き、かの国を注視しておくべきかと存じますが、どうされますか?」


「うむ。団長殿はご子息とヴァルキリーの様子が気になっているのではないか?」


「は。いえ、アレのことは今はさほど心配はしておりませぬ。報告を聞く限りでは、無事に試練の始まりを遂げたとの事……となれば試練が問題では無く、今後は長年共にしている者との心を保ち続けるかが試練となりましょう」


 アスティンのことだ。ヴァルキリーの傍で照れながら過ごしているに違いない。我が息子ながらその辺りは譲れぬな。姫には泣かせないでくれなどとお頼み申したが、案外アレは女泣かせに成長しているやもしれぬな。


「ふむ……我が娘もまさに、騎士カンラートとの心の試練に差し掛かった所だろう。ミストゥーニの王女には、我が娘に護身の技を伝授して頂きたいと報せを入れた。だが、カンラートは聞き入れぬだろう。騎士とはそういうものだからな。それを否定されたととれば療養と称して、しばらく供をせぬかもしれぬな」


「カンラートはあれでいて頑なでございます。陛下は療養と申しましたが、恐らく真実となるやもしれませぬ。レイリィアルでの傷は簡単には癒やせませぬ……」


「では、アルヴォネン団長殿。騎士団から2名をそれぞれ新たに派遣してはくれぬか? もちろん、傍に置くのではなく、もしもの時の見守り人員ではあるが……」


「は。では、ルフィーナ姫の所には、ヴァルキリー配下のセラフィマをお送り致す。そして、アレの所には同じくヴァルキリー配下のユディタをお送り致します。両名共に女性ではありますが、我が息子よりも強く逞しい騎士にござりまする。不足はないかと」


「うむ! 其方に任せた。団長以下は引き続き、かの国を見守り頂きたい」


「はっ!」


           × × × × ×


 シャンティ先導の下、僕たちはとある町へたどり着いていた。話によれば、ここは男子禁制とまではいかないまでも、男は忌み嫌われる存在として旅の男は立ち入りを許されないほどの所らしかった。


 こんな先入観を抱いていては、騎士として生きていけない。そんな強い意志を持って、シャンティと共に町へ足を踏み入れた。そして、すぐにでも引き返したくなっていた。


「シャ、シャンティ……僕だけ外で待機は駄目かな」


「嬉しくないのか? この町に男はお前だけだぞ。それに、我らは騎士だ。胸を張って堂々と町を闊歩すればよいではないか。何を恐れ慄くことがある」


「で、でも……明らかに殺気を感じるし、今にも襲い掛かって来そうで心配だよ」


「ふ、この前の試練で男を上げたと思っていたのは私の勘違いだったか? 案ずるな。言っただろう? 私がお前を守ると」


 確かに女人だけの町ではシャンティの存在は計り知れないほどの頼もしさを感じる。だけど、何だかそれだと僕は心の奥でくすぶる想いがあって、せっかく試練を遂げたのに納得がいかないとも言うべきか何と言うべきか分からない感情が僕の中にうごめいていた。


「では、宿に向かうぞ。アスティン、私の後を付いて来い」


「は、はい」


 そう思いながらも、シャンティに逆らえない自分が情けなく思えた。


「2名だ」


「こちらの方も……ですか?」


 宿の女主人は明らかに、僕を嫌そうに睨んでいる。あぁ、嫌だなぁ。


「そうだ。私の連れだ。文句は全て私が引き受ける。よいな?」


「わ、分かりました。部屋はこちらですが、同室は認められません……」


「な、何故だ?」


「それが許される町ではないのは騎士様もお分かりでしょう?」


「くっ、融通が利かぬとはな。許せ、アスティン。今回ばかりは別室となる」


「ぼ、僕はそれで構いませんから」


 もうさすがに同室は厳しいんじゃないかな? 僕は18になってしまうし、シャンティも……。


「ではアスティン、体を休ませた後は町を歩くとしよう。ではまた後でな」


「はい」


 部屋の扉を閉めた後すぐに、シャンティの部屋からまるで怒っているかのような声が聞こえて来た。でも、部屋の中のことなんて分からないし、僕は気にしないことにした。


「ユディタが派遣されてくるだと!? アスティンとは二人だけで事が進んでいると言うのに何故だ?  あの試練からアスティンは明らかに顔つきが変わって来ている。その成長を何故信じてやらぬのだ? 王命とは言え、この報せは納得が行かぬぞ。こうしてはおられぬ……」


 シャンティの部屋には、新たに派遣されてくる騎士の文書が届いていたようだった。このことが僕の気持ちを変えることになるなんて思わなかった。


 久しぶりに一人だけの部屋。シャンティと一緒にいるのは嬉しいし、ドキドキもするけど、僕だって一人になりたい時はある。


 彼女は他の女性とは感覚が異なるのか、それとも僕のことを異性として気にしていないのか分からないことだけど、同室だと目のやり場にも困ることだってあるし、気が抜けないことだってあった。


 それがこの町に来て、たまたまとは言え初めて個室を得られたことに安心を覚えていた。そうして僕は気兼ねなく、下着を着替えようとした時だった――


 「開けるぞー!」の声と共に、ドアを同時に開けてシャンティが僕の部屋に入って来た。


「アスティン、出かけるぞ! 早く支度をしてくれ」


「わっ!? シャ、シャンティ!? い、今着替えてる時だったんだけど」


 まさに下着を脱ごうとする直前にシャンティは容赦なく僕の前に近付いてきた。


「ん? 何だ、着替えか。なら、早くしろ」


「い、いや……あの、着替えをするのでいったん、部屋を出てもらえると」


「何を今さら恥ずかしがっている? 今まで気にしたことの無かったことではないか。何故今になって私の目を気にすることがある? 私もお前に全てを見せているではないか」


 この時僕は、この町に入って来てから燻っていたものが一気に燃え広がる様に、シャンティにきつく言葉を放ってしまう。いつもならこんなことは言わないし、気にしたことも無かったはずなのに。


「シャンティは僕を男として見ていない! ずっと、僕は……俺は我慢して来ていたんだ! シャンティは自分で分かってないかもしれないけど、魅力のある女性と一緒に行動を共にして、部屋も同じで着替えも同じ。そんなの普通じゃないよ。それともやっぱり、ヴァルキリーは人の心が読めない位に戦うことしか出来ない騎士なの?」


「……ア、アスティン」


「――あ。ち、ちが……」


 こ、こんな、こんな酷いことを言うつもりじゃなかったのに。どうして僕はシャンティにきつく当たってしまったんだろう。僕は最低だ……まさか、彼女を泣かせてしまうなんて。試練の時の涙とは違う、悲しい涙を……。


「……悪かった」


「シャンティ……ご、ごめ……」


「いや、私はヴァルキリーで、心も持たない女なんだ。それなのに、どうしてお前を好きだなんて言えたんだろうな……長いこと、あいつに会えていない寂しさを、お前で代用していた私を許してくれっ」


「あっ……」


 流す涙を見せながら、シャンティは僕の部屋を出て行った。こんなことを言うなんて僕は最低だ。


 それから数日、僕とシャンティは行動を共にすることもなく部屋から出ないまま過ごしていた。


 謝らなきゃ。僕はやっぱり、シャンティが好きなんだ。どうかしていた。ヴァルキリーだとかそんなの関係ないことじゃないか。ずっとずっと、彼女は僕の傍にいて、教えてくれて護ってくれた人だ。それがどうして今、僕自ら突き放そうとするんだ。駄目だ、こんなの――


 コンコン――


「シャンティ? 開いてるよ」


「こんにちは、あなたがアスティン・ラケンリースね。私はヴァルキリー配下の騎士、ユディタよ。シャンタルに代わって、私があなたと残りの試練と赴きを共にすることになったわ。よろしくね」


「――え?」


「シャンタルから聞いてないかな? 私が……」


「う、嘘だ……嘘だ嘘だ。僕は、信じない! 僕はシャンティがいいんだ!! シャンティは今どこに?」


「シャンタルなら帰り支度を済ませて、国に引き返す途中だけど……え、あっ! アスティン!?」


 僕は信じられなかった。シャンティが僕の前から姿を消すということに。新たに派遣されて来た騎士には目もくれず、僕は彼女を追いかけるためにすぐに駆けだした。


 シャンティ、どこだよ。どこまで進んでしまったんだ。僕は、あなたと共にいたいのに。


 国境付近―― 


「そこの騎士。どこへ行く?」


「どけ……我は、国に帰らねばならぬ。邪魔立てすると容赦なく斬る」


「そうはいかぬ。通行証を持たねば国境は越えられぬぞ」


「まかり通る!!」


 これは私の罪になるだろう……そして国王陛下、我をお許しください。我はもう、人の姿をした人ではないのです。


「シャンティーーー!!!」


「……!? アスティン……?」


 来るな! 我はもう、お前のことなど。我はヴァルキリーなのだ。心は持ってはおらぬ……だから、アスティン。我の元から離れてくれ。頼む、アスティン。お前が来たら我はお前から離れられなくなる――

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