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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
わたしと僕の日々編
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2.迷える彼


「全く、ルフィーナのいたずらには手を焼きます! あなたからも何かおっしゃってください」


「まぁまぁ……まだ幼き姫のやることではないか。可愛い子の可愛いいたずらに過ぎぬよ。我らは子の健やかなる成長を見届け、見守っていればよいのではないか」


「それでは甘すぎます! 王女になってからもいたずらが過ぎたら、民や近隣国に示しがつかないではないですか」


「……だからこそ、あの子を傍に置かせているのだよ。今はか弱き見習い騎士であっても、きっと将来は我がルフィーナに規律と風格を示してくれる。私はそう思っているよ」


 アスティンをすっぽりと落とした穴は、あっけなくお母様に見つかってしまい、わたしはひどく怒られてしまった。さすがにやりすぎたみたい。


 そのことがあってか、お庭の土はお花にとっては最良でかつ、わたしの手と小さなスコップでは掘ることのできないような固めの土と入れ替えられちゃった。


「あ~あ……つまらないわ。アスティン、来ないかな~」


「ルフィーナ。あなたはもう少し慎ましやかに過ごさなきゃ駄目よ。私はあんな庭に穴を掘るなんてことはしなかったのよ? 仮にも王女になるあなたがそんなことではお母様もお父様も心配なさるに決まってるじゃない。もう少し控えなさいね」


「はぁ~い」


 わたしのお姉様、フィアナはわたしの顔を見るたびにため息をつきながら心配の言葉をかけてくる。分かってはいるのよ?


 だってしょうがないじゃない。楽しいことだもの。まだまだたくさんのことを知りたいの。それだけは分かってて欲しいわ。


「ルフィーナ! き、来たよ」


「アスティン、遅~い! あら? いつもの硬そうな盾はどこへ行ったの?」


 見習い騎士のアスティン。アスティンのお父さまは本物の騎士様。アスティンには本物に近い騎士の盾を持たせていた心の広い騎士様。それなのに、今日はその盾を持たせていないみたいね。


「そ、それが、盾に野菜とかお肉とかが付いてたみたいで、もの凄く怒られたんだ。本物の盾ではないけど、騎士の盾をまな板代わりにされて腹を立てずにはいられなかったって言ってたんだ」


「あ、あはは……そ、それは大変だったのね。そ、それで盾はしばらくお預けってこと?」


「そうなんだよぉ……そもそも僕は見習い中の見習いだから、まずは素手で磨けって言うんだ」


 素手の見習い騎士……それもアスティンらしい気がするわ。そっか、そういうことならわたしも、アスティンをもっと鍛えてあげないと駄目ね! 


「ねえ、アスティン。今日はあなたと行きたい所があるの。一緒に付いて来てくれる?」


「ど、どこに行くの?」


「アスティンにとって、とってもいい所なの。盾をなくしたあなたにとっては最適の稽古場になると思うの。そこを乗り越えればきっとまた強くなれると思うわ」


「つ、強く……? う~ん? ルフィーナも行くんだよね?」


「もちろんよ! 一緒がいいの」


 アスティンがいないと面白くならないもの。わたし一人だけ行ったって面白いことなんて起きないだろうしね。


「わ、分かったよ。じゃあ、一応父さまに伝えて来るよ」


「言ってはダメよ。これはわたしとあなただけの秘密のことなの。そうじゃなきゃ面白くないわ……」


「え? 面白い?」


「ううん、何でもないの。さぁ、行きましょ」


「ね、ねえ……ホントにここに行くの? ど、どう見たって僕もルフィーナも迷いそうな森だよ?」


「当然じゃない! だからいいの。ここを乗り越えればあなたはきっと強くなれるんだから!」


「ええっ!? の、乗り越えるって何を? って、わぁああ……て、手を引っ張らないでよ~」


「いいから、来るの!」


 悩んで迷い続けるアスティンを連れてきたのは、お城からちょっとだけ離れた所にある深い森。暗くなる前に戻らないと、お母様はおろか、城中のみんなが心配してきっと捜索しに来ちゃう。


「アスティン、奥へ奥へ行きましょ。ここの奥には綺麗なお花が咲いている場所があるの! そこでお花を集めて、庭師のタリズにプレゼントしましょ? それだけのことよ。簡単じゃない!」


「う~ん……そ、それくらいなら大丈夫かな」


「その意気だわ。さっさと行きましょ。暗くなる前に城へ戻らないと困るもの」


「よ、よぉ~し……い、行くよ、ルフィーナ」


「うんっ! アスティンに付いて行くからね」


 ふふ、実はこの森にはちょっとしたコツがいるのよね。単に歩くだけではお花のある場所へはたどり着けない。ちゃんとあらかじめ目印を付けておいたし、わたし以外にはきっとたどり着けないようになってるわ。これもわたしなりにアスティンを想ってのことなんだから。


 そうしてかなり歩き続けた頃に、彼は音を上げて来た。昼の陽射しも感じづらくなり、次第に木々の陰が目立つようになってきた。


「はぁ……はぁはぁ……ね、ねえルフィーナ。まだまだそこに行けないのかな?」


「ふふん、どうかしらね~」


「ええー!? そ、そんなぁ……このままだとすぐに夕方になるよ。も、戻らないと……」


 確かに同じ所をぐるぐると歩きすぎよね。しょうがないかな。また次に来ればいいかな。


「よしっ! それじゃ、アスティン。戻るから付いて来てね!」


「う、うん」


「ほらほら、歩く歩く! さっさと歩かないと暗くなっちゃうわ」


「ま、待ってよぉ~。ずっと歩き続けて疲れてるしそんなに早く歩けないよ~」


 この辺に確か目印が……あ、あったわ。ここを行けばもっと早くに庭に出れるわね。よぉし……


「ルフィーナ~歩くのが早すぎるよ~……ルフィーナ? あれっ?」


 わたしが先に庭に出てアスティンを待ち構えていればきっと泣きついてくるに決まってるわ。えーと、確かここからお花のトンネルを抜けて……あれ? 行き止まり……? え……


「ルフィーナ~? もう、何で先に行っちゃうんだよ~って、庭に出れた? やった! やった~!!」


 あぁ~……何てことなの。まさかわたしが迷っちゃうなんて……声を出してもこだまもしないし、響かないみたいだし、どうすればいいの? アスティン、わたしはここよ――


「おや? そこにいるはアスティンじゃないかね?」


「えーと、タリズさん。こ、こんにちは~」


「姫様は一緒じゃないのかね?」


「え? ルフィーナはここに戻ってないんですか? えええ~? ど、ど、どうしよう……」


「して、姫様はどこに?」


「あ、あの庭の奥の森です……」


「な、なんと!? どうしてあんなところに……こ、こうしてはおられん。城の者を呼びに行かねば! アスティン、お主はそこで待ってなさい」


「は、はい。うう~……ま、まずい。大騒ぎになってしまう。こ、こうなったらもう一度、僕が彼女を探しに行かなきゃ。そうじゃないと駄目なんだ」


 外をひとりで出歩くことの無かったアスティン。さすがに怖いと思いながら、それでもきっと彼女の方が怖い思いをしている。そう思えたアスティンにとって、騎士である自分が彼女を守りに行かないと駄目なんだと自分を振るい立たせて、声を張り上げた。


「ルフィーナーー!! 僕はここだよー! 返事をしてよ~」


 あら? あの震えたような声はアスティン? もしかして探しに来てくれたのかな。しょうがないわね、木を揺らして音を出してあげなきゃね。


 アスティンの声が近くなり始めた時、近くの木々を揺らして思い切りここにいるわアピールをしてあげた。


「ひっ!? も、もしかして何かいる……?」


「アスティン! わたしよ! ここだってば」


「へ? ルフィーナ? 何だ~驚かさないでよ~」


「アスティンはお庭に近い所にいるのよね?」


「う、うん」


「じゃあ、そこから動いちゃ駄目! 今からそっちに行くわ」


「え?」


 アスティンの声が聞こえた所はわたしが迷って行きどまった所のすぐ近くだった。暗くなり始めて、足元もおぼつかなかったこともあってわたしは黙ってそこで来るのを待っていた。


「ふぅ~~ようやく出られたわ。アスティン、来てくれてありがと!」


 わたしが顔を見せた途端、アスティンはわたしを抱きしめて来た。幼いながらも、よっぽど心配してくれたのかな? なんて思っていたけれど、緊張と怖さが解放されて泣くことを我慢しきれなくなったみたい。


「ぼ、僕はキミがいないと駄目なんだよ~~心配させないでよぉ……わあああああん」


「ご、ごめんね、アスティン。もう置いて行かないから泣かないで、ね? わたしも泣きたくなるもん……」


 わたしもアスティンも抱き締め合いながら泣いていた所を、タリズやお父様たちが駆けつけて、今回のことは何とか怒られずに済んだ。なかなか簡単には行かないものなのね。


 涙を流しつつ、アスティンもわたしも楽しめるようなことをしなきゃいけないな……なんて思いながら、反省しながら城へ戻ったわたしたちだった――

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