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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
想い合う心編

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27.貴き心を持つ者


 ルフィーナに出会った頃から優しくしてくれたフィアナ様。ルフィーナのお姉さんはいつも優しかった。ルフィーナにいたずらされて困った時も、泣いた時も、僕を慰めてくれた人。時には軽く注意もしてくれた人。


 そんな彼女のことを僕は信じることしか考えられなかった。例えルフィーナとの血の繋がりが無くとも、例えかつての王が騎士を信じなくとも、僕には関係ないことなんだ。だからどうか、無事に出られたらまた貴女の笑顔を見たい。


「うああああああ!! こ、このーー!」


 フィアナ王女様を出口へと促したあと、僕に向かって来る亡霊騎士は1人、また1人と数を増やして戦いを挑んできていた。ただ、多勢に無勢にはならずにいたのが救いだった。恐らくは騎士としての誇りが亡霊となっていても残っていたのではないかと思っている。


 僕は騎士の中では最年少で最弱かもしれない。それは未だ見習い騎士として呼ばれているからに他ならない。だけど幸運なことにヴァルキリーのシャンタルに出会ってから4年が経ち、基礎の体は出来上がり衝撃に対する耐性は抜群に向上することが出来た。


 それでも、高いのは防御力だけで戦いを挑めるほどの攻撃力を身に着ける程には至っていなかった。シャンティにもしもの時は剣を使えと言われていた。それでも、僕は剣を抜くことを躊躇ためらっている。


 かつての騎士たちは武器である剣を使って戦いを繰り返した。それも同じ騎士相手に……


 例え亡霊騎士であっても剣を使って戦いを挑むことは同じことの繰り返しになってしまう。そんなことでは魂は浮かばれないのではないだろうかと考えてしまい、盾だけで凌ぎ続けている。


 父様をはじめとする騎士団の皆は仲間であり、友人でもあり、絆でもある人たち。その人たちに剣を向けることなんて出来ない。争うことなく、嫉妬することなく、恨むことなく諦めない。そして僕は逃げない。


 その想いを強く持つことがきっと騎士なんだと思っている。だからどうか、攻撃を止めて下さい――


 ※


 フィアナ様を出口に向かわせてからどれ程の時間が経ったのか分からない。どれ程の信念を持ち続けていても亡霊騎士は手を緩めることなく、盾だけで防ぐ僕を許してはくれないみたいだ。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 鉄素材の金地金インゴットと木材で作られた盾は僕よりも頑丈に出来ている。それでも何度も同じ攻撃を受け止めてくれてそろそろ限界が近いみたいだった。そして僕も体力が尽きようとしているのを自分で感じていた。


 意思を持たない亡霊騎士の攻撃は次第に僕の力を奪っていく……

 どうか、フィアナ様……ご無事で――


 ※


 アスティンが防いでくれた出口への道まであとわずか。近付くにつれて、外から差し込んで来る陽の光がフィアナの足取りを軽くする。


「フィアナ王女殿下! ご無事で何よりです」


「わたくしは問題ありません。ですが……彼がまだ……」


「アスティンだけが中に残っていると申すのですか!? で、では、あいつは戦い続けているということで間違いないのですね?」


「……ええ」


「貴女様がご無事で何よりでございます。ですが、めいを破ってしまうことになるやもしれませぬ。我はあいつと共に在らねばこの先、楽しみが消え失せます。中へ進むことお許し頂きたく……」


「シャンタル! わたくしは彼と約束を交わして外へ出たわ。信じて待つ彼を迎えに行かなければならないの。だから、わたくしも共に中へ参ります」


「では我が先行致します」


「アスティン、どうかご無事で――」


 ※


 もう何度攻撃を受け続けているのか分からない……持っていた盾には亀裂が入り、防御とは言えないくらいになっていた。鎧を着ているとは言え、全身に重りでも付けられているんじゃないかと思う位に、前にも後ろに動くことが出来なくなっている。


 出口に向かうことも出来ないまま耐え続け、立ち続けていた僕は意識が遠のいて行くのを感じながら、床に倒れ込んだ。僕はやっぱりお役に立てなかったです……


「フィアナ様……シャンティ……ルフィーナ――会いたい……――」


 


 


 


「……ティン! アスティン、おいっ……!! 目を開けてくれ。アスティン、私はお前がいないと駄目なんだ……わたしはお前が好きなんだ……だから、起きて――」


 ひんやりとした地面。全身は重くて動けない。閉ざされた視界には一面に暗闇が広がっていた。僕はどうなってしまったのだろう……想う人たちの思い出と顔が浮かんだ後に暗転して記憶が無い――


 さっきから顔に水滴が落ちて来ているのはかろうじて感じられている。それでもまぶたを開けられるほどの力も失われていて、そのまま闇へと落ちていく。そう思った時だった――


「――っっ!?」


「目を覚ましたか? ……アスティン、よかった」


「えっっ!? あ、あの……い、い、今の感触って……え? えええ?」


「ふ……わたしの恋人にもしたことのない口づけだ。墓に行くまで秘密にしとけ……ここじゃ無い所の墓だ。アスティン、生きててくれてありがとう」


 顔に当たっていた水滴はシャンティの涙だった。彼女の涙は初めて見たかもしれない。そして彼女の唇の感触も――


「アスティンくん……」


「フィアナ様? え、あれ?」


「わたしのことを信じてくれてありがとう。わたしもあなたを信じて、あなたの元へ戻ったの」


「僕は貴女を信じないわけ、ありませんから……どうか、涙をお拭きくださいフィアナ様……」


 感触は失われていたものの、僕はシャンティに抱えられていた。辺りは静寂に包まれて、本来の姿に戻ったかのようにさえ感じられた。あれだけ向かって来ていた亡霊騎士はもう出ないのだろうか。


「亡霊騎士はどう、なったんですか……?」


「わたしより先に突入したシャンタルが目に見える亡霊騎士を倒していたのだけれど、追いついたわたしがあなたの元に辿り着いたら、その姿は跡形も無く消えていたの。だからきっと――」


 そっか……互いが信じあって、また騎士ぼくの元へ王が姿を現わしたからなのかな。そうであればいいな。


「……良かった、です。フィアナお姉さん。シャンティ、剣を使うことが出来なくて……ごめんなさ……い」


 ここで再び、暗転した。


 リーニズ城――


「見習い騎士アスティン・ラケンリース、ここへ」


「はっ」


「貴方へ課せられた騎士への試練を遂げた証をここに授けます」


「――有難き幸せ」


 フィアナ王女の長きに渡る呪縛を解放し、護衛試練の役目を務めた僕は正統な騎士への道を、一歩進めることが出来た。信じ抜いた心で墳墓の亡霊はようやく、安息の地を得られたようだった。


「ところでアスティンくん。ここで、わたしの専属騎士になってくださらない?」


「えっ? えーと……そ、それは」


「ふふっ、冗談よ。あの子にも悪いし、それに……彼女の嫉妬が怖いものね」


 後ろの方から何か痛い視線と気配を感じてしまったけど、きっとそれは彼女のことだろう。


「名残惜しいけれど、アスティンくんとはお別れね。わたしを最後まで信じてくれてありがとう。アスティンくん、ここへ」


「あ、はいっ」


「フィアナ様のお傍に近付くと、彼女の優しい感触が頬に触れていた気がした……」


「アスティン。あなたに逢えて良かった。またいつか、ここへ来て頂けたら嬉しいですわ。その時は、あの子も……」


「は、はいっ! 必ずや」


 深く深く、礼をして僕とシャンティはリーニズ城を後にした。また逢えると信じて――

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