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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
想い合う心編

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21.ルフィーナとカンラート:前編


わたしは捕らわれてしまった。ただ思ったよりは嘆き悲しむことはなく、人生で一度も無いよりは一度くらいは牢で過ごすのも悪くないとまで思いながら、食事を頂いていた。


 見た目ほど牢の中は悪くなく、王はともかく兵士は他国の姫を恐れているのか、牢の中でも快適な場所に案内された。


「ここへ置く」


 牢の兵士は言葉少なに食事を置いて行く。


「うん、意外といけるわ」


 食事は全て温かいスープが用意され、わたしの体は凍えることが無かった。こうなれば城の食糧を食べ尽してあげるわ。そう意気込んで、残さずご馳走になっている。そして気になることと言えば……


「何かご用かしら?」


「な、何でもない」


 牢にいる兵たちが交代で何度もわたしのいる牢へ様子を見に来ているのよね。そんなに他国の姫が珍しいのかしら。どういうわけか顔を赤らめてわたしを見に来るのだけれど、ここはそんなに暖かいのかしらね。


 それにしても、カンラートは無事かしら。痛い目に遭わされていないといいのだけど……


           × × × × ×


「……それで、姫君と奴の具合は?」


「はっ、ルフィーナ姫は牢へ捕らわれたとのこと。騎士カンラート殿は重傷を負われたとのことです」


「分かった」


「……では、失礼致します」


 くっ……ルフィーナ姫。何故、あなた様が捕らわれたというのだ。カンラートめ、何をしているのだ。今すぐにでも向かいたい。


 だが、今はそれが出来ぬ。私はアスティンの傍にいてやらねばならぬ。彼にとっても今が重要な時なのだ。


「シャンティー! そろそろ盾を使う稽古の時間が来るよ」


「あぁ、すぐ行く」


 ルフィーナ姫……あなた様も騎士の試練以上の試練を受けておいでなのか。駆けつけ出来ず、申し訳ございません。


           × × × × ×


 全身が焼けるような痛みを感じている。あの子供が親の元へ戻ったのは確認できた。だが、姫様は……?


「カンラート……! 王立騎士副団長カンラート!! 目覚めよ」


「……私を呼ぶのはどなたか」


「おぉ、目を覚ましたか。久しいことだな。まさかお主がこうも手酷く手傷を負わされるとはな」


 瞼をわずかずつ開けていくと、見慣れた顔つきがわたしを見下ろしていた。いや、貴方は――!


「アルヴォネン団長殿ではございませぬか! な、何故こちらにおわしておいでですか?」


 意外な方の声かけに思わず飛び起きてしまったが、痛みですぐに床に伏してしまった。


「無理はせずともよい。なに、我が息子はヴァルキリーの下で試練の最中であろう? 我と王立騎士団は王命により、密かにルフィーナ姫とお主の様子を見守っていたのだ」


「で、では姫様は……」


「うむ、城の中央に位置する牢の中においでだ。痛ましいこと、そして嘆かわしき事よ。この国の事は我らがよく承知していたことであった。しかし、此度のことは誠に不甲斐無く思う。カンラート、お主一人に任せてすまぬ」


「勿体無いお言葉でございます。不覚を取りまして申し訳ございませぬ」


 まさか王立騎士団が動いていたとは思わなかった。やはり陛下は娘のご無事を祈るだけでは無かったということか。


 それにしてもアスティンの父君にして団長のアルヴォネン殿までもが指揮を執っているとは……


「団長殿、まさか戦でございますか?」


「いや、我らは騎士。成長の妨げとなる争い事を、我が姫君にお見せするわけにはいかぬ。我らは正々堂々と正面より入り、国王に会う。だがもし、あちらが事を荒立てる意思をお持ちならば容赦はせぬ。そして姫様には冷血王と対峙していただき、姫様の御心でもって乗り越えて頂きたいと願っている」


「で、では、私もその場に行きとうございまする」


「その怪我では戦えぬであろう? それでも姫君の傍にいたいと申すか?」


「無論でございまする。ルフィーナ姫は我が最愛のシャンタル同様、私めの敬愛する御方にございます。あの御方の傍には私めが居続けなければならないのです。どうか、ご許可を」


「分かった。騎士団の名のもとに、お主と姫君にはこれ以上、埃一つも付けさせぬことを約束しよう」


 近日中に城へ向かわれる団長以下、騎士団と共に私はルフィーナを助けに向かう。それまで、しばしのご辛抱をお許しください。我が愛するルフィーナ姫――


 


 アスティンは幼き頃よりの好きな人、そして婚約者。彼のことを一時も忘れたことのない最愛の人。城へ帰還するまではこうして遠き空を眺めながら、想うことしか出来ない。それでも、アスティン……あなたのことはずっと想い続けているわ。


 そしてわたしは貴方のことも想い続けている。出会った頃より長き時を共に過ごしている騎士カンラート。常に心優しく、気高く、驕ることのない騎士様――


 牢の中は思ったよりは悪くない。それでも壁を眺めながら思い浮かぶのは貴方の顔、声……温もり。


 閉ざされた国の中で、わたしは貴方を待っています。貴方が来るのをお待ちしています。わたしの敬愛する騎士、カンラート。わたしの愛するカンラート様――

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