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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
わたしと僕の日々編
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1.丈夫な彼


 庭に植えられているアイリスの花はわたしが来るのを待ちわびているかのように微笑んでいる。わたしの住むお城には青々と茂る緑の柔らかな芝があって、時折顔を出す茶色い土は転んだわたしを優しく受け止めてくれる。


「この土、掘れないかな……なーんか、面白いことが起きそうな気がする」


 手で土に触れると、やわなわたしの手の力でも簡単に掘れそうなくらいに柔らかくて、アスティンをびっくりさせてあげられるような予感を感じてしまう。


 スコップを手にして、わたしは少しずつ土を掘り始めた。いっぺんに掘ったらお母様に叱られるのは目に見えるから、少しずつ掘り下げて行った。それを何日かに分けて、彼が来るのを楽しみに待ちながら掘った。


「ルフィーナ、スコップを見なかった? 庭師のタリズが探していたわ」


「知らなーい。わたし、こう見えて忙しいもん」


「おかしいわね……また街から仕入れなければならないのかしら」


 お母様は心配性ね。別に長い間無くなるわけでもないのに、終わったら元の場所に戻すんだし騒がなくていいと思うの。それにもうすぐ……うふふ。


「ルフィーナ」


「なぁに? アスティン」


「なんか、嬉しいことでもあった? すごくいい顔してるよ?」


「んーん? 何でもないの。ねえアスティンって、毎日まーいにち、稽古しているんでしょ? それならきっと丈夫よね」


「うん、父が僕を鍛えてくれてるから。それより丈夫って何のことを言っているの?」


 これはいいことを聞けたわ。本物の騎士様がアスティンを鍛えてくれているのなら、きっとちょっとの衝撃にも耐えられるくらいに丈夫そうだわ。


「ねえ、アスティン。あそこのアイリスを手入れしてあげたいのだけど、今はわたし、疲れて立てないの。アスティンが代わりにお花を愛でてくれない?」


「ええ~? 何で僕が? 騎士はそんなことしなくても……」


「お願い……! わたしを助けると思って、このスコップを使っていいから、あそこの盛り上がってる芝の土を掘って来て。アスティンしか頼めないの」


「ルフィーナの頼み……うーん……わ、分かったよ。助けるのも騎士の務めっていうし、あそこの芝を掘ればいいんだね? じゃあ、このスコップを借りるよ」


「うん、いい子いいこ! だから好きよ、アスティン」


 わたしもアスティンもまだまだ12歳。子供だからこそ許されるいたずらだと思うの。だから、アスティンがわたしの作った穴に落ちても、きっとお父様もお母様も許してくれるわ。


「ルフィーナ~? ここでいいの?」


「そこじゃなくて、もう少し先の窪みの土まで進んで」


「えー? どこの土でも同じじゃないの?」


 ふふっ、甘いわね。そこじゃないと駄目なの。もう少しでわたしの願いが叶うわ。


「アスティン、もう少し先なの。後少し、二歩くらい足を上げてね」


「後二歩……こ、ここでいいのかな……って、わあああああああああああ」


「ふふふふっ! やったわ! 成功!! 見事に落ちてくれたわ。掘った甲斐があるわね。さすがアスティン。期待を裏切らない子」


 アスティンたら、ものの見事に落ちてくれたわ。


「いたたた……ルフィーナ~ひ、ひどいよ~。落とし穴があるなんて言ってくれたらこんなことにはならなかったじゃないか~」


「ふふっ、アスティンにいいこと教えてあげるね。その穴はわたしお手製なの! だから、光栄に思っていいの! 姫特製の落とし穴に落ちれるなんて、アスティンは誇りに思っていいことなの」


「えええ~? こ、こんな深くの穴をルフィーナが掘ったって言うの? それも僕を落とすために!?」


「うんっ! すごいでしょー」


「す、すごいけど、ルフィーナ……これ、どうやって上がればいいの?」


「もちろん、アスティンは騎士の力で上がってくればいいの。簡単でしょ~」


 男の子なんだし、いくら少しばかり深く掘った穴でも這い上がって来られるはずだわ。そうじゃないとおかしいもの。


「ル、ルフィーナぁ……あ、上がれないよー」


「ええっ!? だって、丈夫だって言ってたのに……」


「それはだって、落ちても痛くないから丈夫だけど、僕は力はまだ強くないんだよ。ルフィーナ、手を貸してよー」


「あう……ど、どうすればいいの~?」


 こ、ここに誰か大人がいれば……あっ!


「ね、ねえ、タリズ。こっちへ来て~」


「どうしたのですじゃ? ルフィーナ様がわしを呼ぶなど……ん? アレはわしのスコップ……」


「えーと、そ、そう! スコップは見つかったわ。そ、そうじゃなくて、お願い助けて!」


「うん? 何を……」


「誰かぁぁぁ……僕を引き上げてよーー」


「姫様? 地面の下から何やら声が聞こえてきますぞ」


「あ、あのね、アスティンが穴に落ちてしまって、それでね……」


「ははぁ……なるほど。そういうことでしたか。全く、姫様はいたずらばかりですなぁ……」


 スコップのことをすぐに理解したタリズは、穴を覗き込んですぐにアスティンを引き上げてくれた。


「ルフィーナ……何でこんなことするんだよ~あんまりだよー」


「だって、アスティンがなかなか遊んでくれないもの……だから、びっくりさせたかったの。わたし、アスティンといつも一緒にいたいから」


「だって稽古があるし……今度からこんなことしないって約束してくれたら父様に言って、遊ぶ時間を何とかして見せるけど、約束してくれる?」


「も、もちろん、約束するわ! アスティンと一緒にいられるならもう、穴なんて掘らないから安心して!」


「わ、分かったよ。じゃあ、父様にお願いしてみるから、次こそいたずらはやめてよ~」


「ええ、もちろん」


「じゃあ、帰るね。ルフィーナ、またね」


「ええ、また」


 はぁ~タリズが近くにいてくれて助かったわ。これがもしお母様やお姉様だったとしたらとんでもないことになりそうだったもの。


「姫様。このことは黙っておきますが、わしの道具を隠したりお庭を勝手に掘るのはお止めになっていただかないと、わしも姫様も困ることになりますぞ」


「そ、そうね。気を付けるわ、黙っててくれるってことなら、もう二度と庭を掘るのはしないわ」


「ふむ……それでは、わしは作業に戻りますから姫様も城へお戻りください」


「ええ、ありがと」


 ふぅ……落とし穴。なんて危険な誘惑なの! ここのお庭がいけないんだわ。もっと土が固ければこんなことにはならなかったもの。でも、もうやめなきゃね。反省しないとアスティンが来なくなるもの――

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