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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
出会いと成長の日々編

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16.アスティンの気持ち


 いくつもの町、村、そして国を巡る旅は年数と共に、世界の半分を回って来たように思える。ヴァルキリーのシャンタルと行動を共にしてから、4年が経とうとしていた。


 ルフィーナと別れてから、4年が経つなんてあの頃からは想像も出来なかった。それでも、大人に近付くほどの年齢では無くてようやく17になったということだけ。


 それにしても、一体いつになったらルフィーナの国へ帰還を許されると言うのだろうか。まさか、ずっと巡りの旅をするわけじゃないよね。どうしても知りたくなって、怒られるのを覚悟で聞いてみることにした。


「あ、あの、シャンティ。聞いてもいいですか?」


「何が聞きたい?」


 シャンタルとは長い付き合いになって、愛称で呼べるほどの仲になっていた。それでも、友達とかそういう仲にはなれるわけではなく、あくまでも愛称呼びまでは許されるようになっただけ。


「俺はいつになれば国へ帰還出来るのですか? 騎士としてはもちろん、未熟なままなのは承知しているのですが……それでも知りたいんです」


「国への帰還か。アスティンはなぜ、帰りたい?」


「それは、あの、ルフィーナとの約束を」


「それだけか? 私から聞くが、姫のことはずっと好きなままか?」


 俺がこの手の質問をすると、必ずルフィーナへの想いを確認されてしまうのは何故なんだろう。揺るぎようのない想いなのに。でも、俺もそして彼女も、しばらく会えていないままなのは確かだ。


 不安が無いと言えば嘘になる。俺はシャンティのことを一時期気になっていた。だけど軽く跳ね除けられてしまい、結局は何も起こることなく俺の片思いは消滅した。


 シャンティに見合う人は恐らく彼女よりも強い、あるいは同等の強さを備えている男に違いないだろう。


 もっとも、シャンティには俺と同じで幼き頃から婚約者は決められていたらしい。それでも強くなければ破棄にもなったらしいが。その人はとても強く、シャンティが一目を置いている人のようだった。


「好きなままです。だけど、ルフィーナはどうなのか分からないです。彼女は俺のことを今でも好きなままなのか。それとも、彼女は外交の途中で出会った王子とかが気になっているのかもしれないです。それが分からないから、俺もどう言えばいいのか分からないんです」


「つまり、好きなままなのは自分だけであって、姫はそうではないと思っているのか?」


「そ、そう思わざるを得ないです。4年以上も会っていないですから」


「……それがお前が国へ帰れない答えだ」


「え? ど、どういう……」


「未熟者にして戯け者のアスティンよ。お前はやはり、想いも心も理解しておらぬ。人の想いはそう簡単には変わらぬ。私がそうであるようにだ。お前も知っての通り、私と奴……婚姻する男とは幼き頃に出会った。だが、お前と姫のように毎日会っていたわけでは無かった。互いに稽古を続けていたからに他ならぬ」


「そ、それなのに変わらないと言うのですか」


「そうだ。互いを想い合う気持ちは揺るがぬ。お前が私に想いを寄せたのを姫が知ったら、計り知れなく悲しむことだろう。姫はお前のことを常に想い、いつも名を口にする心の綺麗な御方だ。私は彼女に一度だけ会ったことがある。その時も、アスティン。お前のことを心配していた。それだけ彼女の心は揺るぎがないということの証だ。だが、お前はいつからか揺らぐようになった。それが答えだ」


 それほどまで俺のことを想っているんだ。ずっと一緒に遊んできた彼女は、俺……僕にとって、かけがえのない存在。僕はルフィーナが好きだ。本当は彼女よりも僕の方がずっと離れたくなかった。知らない間に彼女は国を出ていたんだ。僕は涙を止められなかった。それなのに、僕は……僕は――


「アスティン。帰還を許すには試練を乗り越えてもらう必要がある。お前はそれを受けるか?」


「も、もちろんです!」


「お前は未だ、盾と剣を扱えぬ。だが、試練はそれだけではない。思い出してみろ。城門で私がやったことを」


 城門? 確か馬を止めて人助けをしろ。だったかな。人助けのことだろうか。


「試練は人を助けることですか?」


「そうだ。騎士の試練はいくつもの試練がある。最初に課せられるのは『助ける』ことだ。騎士とは人々を守る存在。それは1人を守るだけにとどまらず、国を護ることでもあるのだ。あの時に負けたお前は、今度こそ助けられるのか?」


「や、やります。僕はルフィーナの傍を護る騎士として一緒にいると誓いました。その為には、進まなければならないんです。シャンティ。どうか、最初の試練をお願いします」


 僕はもう迷わない。ルフィーナへの気持ちは本当なんだ。僕が彼女の傍にいなければならないんだ。


「ふっ。いい顔つきになったものだな。己の心に気付かされたか。ならば、揺らぐことなくそれを貫き通せ! それならば私もお前に試練を課すことを許してやろう」


 シャンティが僕に課した試練は、とある王国の王女の警護をするということ。だけどそれはすぐのことではなく、その国にたどり着いてからということだった。それまでは変わらず稽古が続く日々と、まだ知らない町や国を訪れる日々を送っていた。そうして、数か所の町や村を訪れた日の晴れたある日。


「ようやく、この国へたどり着いた。アスティンよ、待ち望んでいた試練を遂行する時だ。この国の王女はお前も幼き頃に出会ったことのある御方だ。覚えているか?」


「王女……ですか? しかも幼き頃に? ルフィーナ以外で会った人なんて彼女の母様以外ではありません。覚えてもいません」


 僕はルフィーナと一緒にいた時から、会っていた人のことを思い出す。思えば、僕がシャンティに頭が上がらないのも、幼き頃に出会った彼女の印象と優しさが記憶の中に残っていたからに違いなかった。


 そして信じたくも無かった。一つの国に王女は1人だけという真実。それはきっと、彼女自身が『妹』に言えなかった事実なのだということに。


 そうして、僕とシャンティは彼女の待つ国に入った。そして、数年ぶりに彼女と僕は再会を果たすことになるのだった――

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