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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
出会いと成長の日々編

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15.一途に想うひと


 城下の裏道をヘンリクと歩くわたし。盾探しのはずだと言うのに、ありそうにない所ばかりを歩いている気がしておかしいと感じてしまう。


「フィナ、見て。ここには市場から集められた新鮮な魚が並んでいるんだ。どうだい、美味しそうだろ?」


「え、ええ。でも今はそれを楽しむ余裕はないわ。早く……」


「お、ほら、あっちには占いの婆さんが来ているぞ。俺たちも見てもらわないか?」


 な、何なのこの男。まるで探す気が無いわ。それどころかわたしをただただ、観光案内しているようにも思えるのだけれど。一体、何がしたいのかしら。


「……いいわ。その占いに付き合ってあげる。それが済んだら、案内はやめて探してくれると助かるわ。それともヘンリク。あなたの狙いは違う所にあるのかしらね」


「何のことを言っているのか知らないけど、占いは当たると評判だ。じゃあ、行こうかフィナ」


「そなたはタダの町娘などではない。気品に溢れ、その美しさは誰もが見惚れ……偽りを正す心を導くことだろう」


 へぇ……あながち間違ってはいないわね。わたしよりも美しい方ならこの前に会ったけれどね。それよりも偽りを正す? どういうことかしら。


「そしてお前さんは……!? あ、あなた様は……お――」


「お? その続きは何かしら」


「おぉ、そうか。ありがとな! よし、フィナの探し物を探すとするか。いや、悪かったよ。俺はフィナとゆっくりと城下を歩きたかっただけなんだ。悪かった。フィナと共にいるだけでこんなにも嬉しく、心が躍ったのは久しい。それほどの魅力が君にはある。叶うならこの国で共に暮らしたいと思ってしまった」


「あら。ありがとう。あなたの言葉はとても嬉しいわ。でもごめんなさい。わたしには好きな人がいるの。その人とは幼き頃よりずっといたのだけれど、今は互いの想いを確かめる試練の最中よ。わたしには彼しか見えないの。だから、ヘンリクのその言葉がわたしへのプロポーズだとしたら、どうか許して欲しいわ」


「幸せ者なんだな、その男は。羨ましい限りだ。それを聞いてもなおのこと、あなたのことを愛しく思える。あなたの虜になってしまいそうだ。誤魔化しきれない美しさがあなたにはある。それがあなた、ルフィーナ姫だ」


 わたしのことを存じていたのね。と言うことは、ヘンリクはやはり王子なのかしら。


「あなたはヘンリク王子ね。それで、いたずら王子を庇っているのでしょう?」


「お見通しのようですね。ええ、私はヘンリーク第一王子。この国の次期国王です。そして、第二王子にして私の弟ですがご承知の通り、いたずら好きです。あなたの騎士の盾はこちらで大事に保管しております。確かに盾は弟が持ち去りました。ですが、此度の目的はこうしてあなたと城下を歩くことだったのです」


 全てお見通しというわけね。あの陛下にしてこの王子……ね。油断をしていたらこの王子のことを気になっていたかもしれないわね。それでも、アスティンほどではないけれど。


「では、そのいたずら王子はどこへいるのかしら?」


「城中で盾の傍を離れずにおります。何かあってはなりませんからね」


「ふふっ、可愛らしい王子ね。いたずらと言うのならもっと、徹底的にやるべきよ。そうでなければもっとわたしを繋ぎ止めておくことが出来たかもしれないわよ? そうでしょう?」


「あぁ……本当に、ルフィーナ姫のお相手となる人が羨ましい。姫のいたずらに遭わされるなら、私は喜びを隠さずに遭い続けたいものだ。その彼もきっとそうだったことだろう」


 そ、それはどうかしらね。アスティン、いつも泣いていたし……喜んでいたようには思えないわ。


 ※


「――くしゅん……!」


「お前、風邪でも引いたのか? 騎士がそういうことでは務まらぬぞ、アスティン」


「ええっ? い、いえ、おかしいなぁ……」


 ※


「姫様! ご無事で何よりです。して、私の盾はございましたか? それと、その御方は……?」


「ええ、今ここには無いけれど心配いらないわ」 


「お初にお目にかかります。私はルースリー第一王子、ヘンリーク。あなたがジュルツ城の騎士にして、最高の騎士カンラート殿ですね。お会い出来て光栄です」


「王子!? し、失礼致した。何故に姫様と行動を共にされておいでですか?」


「私がルフィーナ姫に惚れてしまいましてね。城下での付き合いをさせていただいたのです」


 はっきりと申される方ですのね。こういう御方は嫌いではないですわ。


「左様でございましたか。では、私の盾を探していただいたということなのですね。王子にそのようなことをしていただき、申し訳ございませぬ」


「いいえ、礼など必要ありません。それでは、城へ参るとしましょうか。弟も姫に会いたがっております」


「まぁ。そうなのね。ふふっ、気が合いそうね」


 ヘンリーク王子に案内されるがまま、城の広間へ進むとカンラートの盾を大事そうに持っている、小さな王子の男の子がわたしを待っていた。


「こんにちは。わたしはルフィーナよ。あなたのお名前は?」


「ぼ、僕はクリストフェルです。ルフィーナ、可愛い」


「まぁ。ありがとう、クリストフェル。あなたも格好いいわ。それとね、いたずらをする時はもっと楽しくやるのがコツなの。本当に人を困らせては駄目よ」


「うん。分かった。ルフィーナ、またここに来てね」


「ええ、もちろんよ! またここを訪れたら一緒に遊びましょうね」


 幼き王子は思った以上に可愛くて、いたずらが好きそうな有望な王子だわ。この子が成長すればきっと、素敵な女の子が放ってはおけないわね。そして、第一王子のヘンリーク。彼もきっと、この国に無くてはならない存在になりそうね。


「ヘンリーク王子、クリストフェル王子。此度の訪問、我がルフィーナ姫はとても充実されておられる。これより数日後、この地を離れていくことをお許し願いたい。然るべき時、再びこの地へ参ることをお約束致す」


「光栄に存じます。かの騎士カンラート殿も、先の道中はお気を付けて進まれたし」


 数日が経ち、わたしとカンラートはルースリー城を出立することになり、別れ際でふたりの王子は私の前で跪き、左右の手の甲に口付けを落としてくれた。


「ルフィーナ姫。もしあなたの想い人への想いが薄れゆくものなら、是非とも私のことを思い出して頂きたく存じます」


「ふふ、残念ながら無いわね。ヘンリークは素敵ですもの、きっとわたし以上の方があなたに惹かれるわ。では、ごきげんよう」


 ふたりの王子がいる国で、わたしはまた一つ、二つの出会いを果たした。この先も、こうした出会いを果たし、わたし自身の成長を遂げて行きたい。そうしたら、きっと彼はもっとわたしのことを好きになってくれると信じているわ――

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