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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
出会いと成長の日々編

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14.王子ふたり


「全く、わたしを攫うなんて困った人たちだったわ」


「いや、面目なく……」


 カンラートは先程からずっと、顔を見せてはくれない。町を出てからしばらく経つと言うのに、わたしの傍からいなくなったことを悔やみ続けている。アレは仕方のないことなのに頑ななのね。


「いい加減、あなたの顔を見せて頂戴、カンラート。見せてくれなければ陛下に報告して、別の騎士を付けてもらおうかしら」


「そっ、そんな」


「ほら、顔を上げられたわ。下ばかり見ていては素敵な顔が台無しになるわ」


「有難きお言葉……」


 騎士は面倒な性格ね。それにしても、あの人がカンラートの想い人なのね。綺麗で凛々しくて、風になびいた金色の髪も素敵だったわ。あんな綺麗な人なのに最強だなんて羨ましいわ。


「姫様。次の国は城塞国家にございますが、そんなにかしこまるお国柄ではありませぬ。幼き王子と、兄の王子がふたりおりまして、王子ふたりが活発にございます。姫様、どうか穏やかな心で接して下され」


「それはどういう意味かしらね」


 活発? 男の子がふたりだとその国の王は持て余しているのでしょうね。男の子相手なら何も問題は無いわね。そんなのはアスティンの相手で慣れているもの。


 ルースリー城・謁見の間――


「こちらが、アソルゾ国王陛下の姫君、ルフィーナ姫にございます」


「ルフィーナ・ジュルツですわ」


 城主クレト陛下は随分とお若いのね。それとも単にわたしのお父様が大人なだけなのかしら。


「そなたがルフィーナ姫。何とも見惚れる御美しさですね。姫と同い年の王子がこの国にはおりましてな。よければ、滞在の間は共にいてくれぬか?」


「あら、そうなのですわね。幼き王子もおいでなのでしょう? その王子ともご一緒しますわ」


「い、いや……あの子は……」


 何かしら。とても言い辛そうにされているけど、まあいいわ。きっとどこかに隠れているに違いないわ。


「では、失礼致す」


「ルフィーナ姫、ごゆっくりおくつろぎを。そしてくれぐれも、お気を許すことなく……」


 カンラートと共に謁見の間を出て行こうとするわたしに、なにか気になることを言っていた気がするけれど、何の事なのでしょうね。


「姫様。まずは城下の宿へ向かわれますか?」


「そうね、そうするわ」


 今まで訪れた国では、みなわたしを城中のお部屋へ案内をしてくれたけれど、せっかく外へ来ているもの。城下の宿で寝泊まりしたいわ。カンラートも傍にいることだし、心配なんて無かったわ。


 わたしが賊たちに攫われた事以後、カンラートは初めの頃に近い口調と態度に戻っていた。これはとても寂しいことではあるけれど、彼は自分への戒めと気を取り直すことだと言っていたので、しばらくはその意思を尊重することにした。


 宿に着き、カンラートと部屋へ入り身軽な格好へと着替えをしていると、カーテンの向こう側からカンラートの悲壮な声がわたしを呼んでいる。


「ひ、姫様……そ、その、私の盾を知りませぬか?」


「あら? まさか、わたしがどこかへ隠したとでも言いたいのかしら?」


「め、滅相もございませぬ。し、しかし……先程まで、すぐ近くの壁に置いていたのです。そ、それが見る影もありませぬ」


 軽めの服に着替え終えてカーテンを開けると、確かに騎士カンラートの盾が無くなっている。これはおかしなこともあるものね。ふふ、これは恐らくいたずらに違いないわ。それも幼き王子の仕業だわ。


「カンラート。あなたはこのまま部屋で待機していなさい。わたしは盾を追うわ」


「し、しかし、姫様に危険が及ぶとどうしようもありませぬ。私がお傍に付いていなければ……」


「平気よ。ここは城塞なのでしょう? それにこの身なりなら誰もわたしのことを姫だなんて思いもしないわ。それよりもあなたは気をしっかりお持ちなさい」


「はっ……! では、姫様にお任せ致します。どうか、お気を付けて」


 それにしてもあんな重厚な盾を持ち出すなんて、幼き王子はよほど力が強いのかしら。それとも、その盾を使って野菜でも切るとか? ふふっ、そう言えばアスティンは随分と焦っていたわね。懐かしいわ。


 城下は石畳の道で綺麗に整えられている。道行く人の身なりは貴族が多いのか、派手めな仕立てをされていることに目が行った。わたしは賊に攫われてからというもの、明らかに王族と分かる格好を控えてその国ごとに、国民の服装に合わせるように心がけていた。


「……なぁ、あんた、この国の人じゃないだろ?」


 盾の行方を追うために、普段はここまで動かすことのない首を、何度も左右に動かしていたわたし。それが目立っていたのか、気付けばわたしの目の前には男の子が立っていた。


「それがどうかした? あなたは?」


「探し物? それなら一緒に探してやるよ。俺はヘンリク。あんたは?」


「ヘンリクね。わたしは……ル……フィナ。フィナよ」


「フィナか。それで、何を探してるんだ」


「騎士の盾よ。それもとても重そうな盾だわ。わたしの兄様がこの国に訪れているの。それなのに、盾が突然消えてしまって困っているわ」


 名前はさすがに伏せてしまったけれど、騎士の盾だけは誤魔化せないわ。兄ということにすれば問題ないと思うし。


「騎士の盾か。興味深いね。騎士の要の盾が無いのであれば、余程困っているのではないか?」


「そうね。兄様はとても悲しそうにしていたの。だからわたしが探していたわ」


「フィナ、じゃあ俺と一緒に見て回らないか? この国のことはあまり知らないんだろ?」


 悪い人ではなさそうね。手伝ってくれるなら遠慮なく、彼の手を借りるしかないわ。


「じゃあ、フィナ。まずは裏道に行くけど、来れるか? その格好なら身軽に動けそうではあるけどな」


「当然よ! あなたの後ろを付いて行くわ」


「兄の盾を探して困っているはずなのに、フィナは楽しそうにしているんだな。気に入ったよ」


「そうなのね。自分では分からないけれど、何だか冒険みたいだから何としても見つけだしたいわ。ヘンリクが声をかけてくれて助かったわ。わたしも、あなたのこと気に入ったわ」


 本当にどこにいなくなってしまったのか分からないわ。でも、ヘンリクと一緒に盾を探して城下の町を歩き回るだなんて、楽しみでしかないわ。何としても、探し出すわ。

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