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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
出会いと成長の日々編

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13.芽生えの心


 まさかシャンタルが海のある町に連れて来てくれるとは夢にも思わなかった。出会った時には綺麗な女の子だと思ってドキドキしていたのに、稽古をしている時には別の意味でドキドキしっぱなしだった。彼女には一切の妥協が無い。甘えも全く無くて、このままじゃ大人になる前に体がボロボロになるんじゃないかとさえ思っていた。それなのに、あの彼女がこんな所に寄ってくれるなんて意外過ぎて驚いた。


 せっかく海に行く許しを貰えたことだし、さっさと行って海風を感じに行かないと。時間が限られているし厳守なので急ぎ足で浜辺に向かって下り坂を進んでいると、もの凄い勢いで俺を抜き去って行く人がいた。


「あれっ? カンラート!? どうしてここに来てるんだろ。しかもすごい速さで走ってる……おーい! って、もういないや」


 騎士カンラートは宿舎に住む騎士の中でも、一番俺と年が近くていつも話をしていた人だ。厳格な騎士の中に在って、唯一ふざけられたり、恋の話なんかをしてくれた兄のような存在。


 あの走りはきっと可愛い人でも見つけて追いかけているに違いない。あの走りはそういう勢いだった。砂浜に近付いて行く俺は、シャンタルの姿を見つけた。彼女と対峙しているのは複数の悪そうな男たちだった。これって、まさか……?


「シャンタ……」


 彼女に声をかけるために近づこうとすると、怒声と共に襲い掛かる男たちで彼の声はかき消された。


「この女ァァ!!」


「ふ……賊ごときがあの御方に触れるなぞ」


 5,6人はいたであろう男たちは、シャンタルの身かわしから繰り出される投げによって、次々と砂の上に転がされていた。「あれは一度やられた技?」技と言う程でもないその技は、襲い掛かる人を避け、掛かって来た勢いを消さずに体を回転させるものだった。


           × × × × ×


「ちくしょーーー! ぼ、僕は負けてられないんだ!」


「まるで猪のごとく、だな。貴様は周りを一切見ておらぬ。それでは強くもなれぬし、落ち着くことも出来まい」


「くっ、何でだよー。何で僕はこんなにも弱いんだ……」


「貴様が弱いのではない。弱いのは貴様の想いの力だ。非道になる必要は無い。だが、時として心を捨てて敵に対峙しなければならぬ時があるのだ。貴様にそれが出来るのか?」


 想いの力と心。騎士の強さの話に出てくるその言葉の意味は、彼には分からないものだった。


「こ、このーーー!!」


 シャンタルに向かって走り出すと、そのまま体はいつの間にか回転し、彼はいつも空を眺めていた。


「貴様には辛抱が足りぬ。それが分かるまで、剣と盾は教えられぬ」


           × × × × ×


 今も教えてもらっていないあの技のようなもの。技を出している時の彼女からは一切の甘えとかが感じられない気がしていた。「心を無にするってことなのかな」


 海風でシャンタルの長い髪がなびき、すごく綺麗に見えた。彼は彼女の姿をずっと目で追っていた。しばらくして、男たちは町の警護兵に連れられていなくなっていた。シャンタルはアスティンに気付いて声をかけてきた。


「何だ、お前はそこにいたのか。……どうした、私の顔に何かついているのか?」


「い、いえっ、な、なんでもないです。さ、さすがですね。あんなにも囲まれていたのに」


 ついついシャンタルを見つめていたアスティン。彼女にも決められた人がいるという事実を知りながら、それでも見つめてしまっていた。


「アスティン。貴様、今すぐに宿へ向かえ! 私はやるべきことがあるのだ」


「えっ、は、はい! 今すぐに向かいます」


 ルフィーナにも言われていたこと。それは他の女を見ては駄目ということ。それでも、シャンタルの美しさは見た目だけじゃない強さの美しさもある。


 彼女の決められた人はどんな人なのだろう。気にしてはいけないし、気になってもいけないにも関わらず、彼は彼女のことを気にし始めていた。この気持ちはどういうことなのだろうと思いながら……。


 宿へ行くと先程まで捕り物があったせいなのか、客の姿がほとんど無く、泊まるのは彼とシャンタルだけのようだった。


「し、静まって欲しいな。何でこんなにも彼女のことが気になるんだよ」


「戻ったぞ。アスティン、私をずっと待っていたのか?」


「……」


「おい、返事をしろ! アスティン貴様、切られたいのか?」


「ひっっ!? い、いいえ、切られたくないです。俺は、あなたの部下ですから待つのは当然です!」


「部下? 貴様を部下にした覚えなぞない。貴様は我の徒弟であって、部下などではない。貴様、何故に顔を赤くしている? 熱でもあるのか」


 そう言うと彼の額に彼女は手を乗せた。ひんやりとした手と肌の白さで、アスティンはますます顔を赤くしてしまっていた。


「熱ではなさそうだが……まぁ、いい。さっさと部屋へ行け」


「あ、あの、同室ですか?」


「……ん? それが何だと言うのだ。今までと同じだろう。部屋を分ける必要がどこにある」


「い、いえ、シャンタルは女性ですから、だから」


「何だ、そんなことの為に顔を赤くしていたというのか。まだまだ貴様はあの御方(ルフィーナ)には及ばぬな……」


 あの御方とは想い人さんのことなのだろうか? ふとそんなことを気にし出すアスティン。


「で、でも」


「いいか、貴様は姫様と共に暮らすことになるのだぞ。我ごときを意識していては、その心は無駄となるであろう。いいか、無駄な雑念を捨て去り今後も稽古に励め。よいな?」


「は、はっ!」


「うぅ……全て見透かされているなんて。で、でも、見つめるだけならいいよね。彼女はそれほど綺麗なのだから――」

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