11.狙われたルフィーナ姫
「それにしても外に出ただけなのに、月日の経つのがこんなにも早いだなんて思いもしなかったわ」
「姫様は、間違いなく成長されておいでだ。最初に訪れたガンディストは、ハラハラしながら見守っていたよ。この2年の間によくぞ我慢をされてくれました」
「いたずらのことを言っているのかしら? ふふん、それはどうかしらね。まだまだ許される歳なのだから、わたしはそれを我慢するつもりなんて無いわ」
わたしと騎士カンラートとの外交旅は2年が経っていた。変わったのはわたしが15となり、カンラートが23になっただけ。それだけのこと。
カンラートの言うガンディスト国では、胡散臭い女王に業を煮やし、ついつい暴れてしまったことがあったけれど、慎ましく行動をすることを忘れてはいないわ。
「それは置いといても、姫様はますますお綺麗になられている。これは見習い騎士のアスティンも惚れ直してしまうのではないかな?」
「カンラート。その言葉は間違いがあるわ! 直す必要は無いわ。惚れているアスティンは直すことがないの。あなたはどうなの?」
「うん? 私かい? キミのことは最初から惚れているよ。もちろん、わきまえていることさ。でもルフィーナの想いは彼だけのものだ。私が付け入る隙間などありはしないよ」
「まぁ! 嬉しいことを言ってくれるのね。優しいあなたにも相手がすでにいると言っていたわよね。その人にはすでに伝えているの?」
私に長く付き従う騎士カンラート。彼にもまた決められた相手がいる。聞けばその人はカンラートよりも4つ年下でおまけにヴァルキリーと言われている最強の騎士。どんな人なのか、いつか会ってみたいものね。
「私が姫様に付いているように、彼女も指導役として騎士候補に付いているんだ。だから、会えては居ないし、しばらくは会えないだろう。そのことを彼女は寂しく思わないし、私も同じ想いなんだよ」
「大人なのね。彼女が4つ下ということは、わたしよりも4つ上と言うことになるわね。益々、会ってみたくなったわ!」
「そうだね、城に帰還を果たす時にはきっと会えるだろう」
カンラートは友達と行かないまでも、2年も経てば話し方もこなれてきていて初めの頃よりは硬さが消えている感じ。それでも、入国した時や外交で傍にいる時は、騎士として確実に遂行してくれているのはさすがだと思った。
馬車の中で話をしている空間は、とても穏やかに時が流れ、とても落ち着いている。
「もうすぐ次の国に着く頃だね。次は国と言っても、大きな城があるわけではないんだ。行けばきっと、姫様は喜ぶ場所になるはずだよ」
「期待しているわ! ……っとと、ず、随分、揺れるわね。何かしら?」
「――む」
よほどの荒れ道を通らない限り、馬車は揺れることが無いのにガタガタと揺れて乗り心地は最低になってしまう。何かに気付いたのか、カンラートは勢いよく扉を開けて外に躍り出た。
外に出たカンラートが眺めた先には、身なりがボロボロの男たちが数人立っていて、何かを要求しているようにも見えた。
「お主ら、何用か?」
「騎士が付いているってえことは、そん中には大層な身分のモンが入ってんだろ~? 金目の物でも置いてけばいいし、姫でも王女でも構わねえぜ?」
「断固として断る。私の気の許すうちに去るがいい」
何なのあの男たちは。一人に対して複数でかかるなんて臆病な人間もいるものね。
「はっ、バカな騎士だ」
カンラートに対して、馬鹿にした口調を吐き出した男たちが一斉に襲い掛かる。剣を鞘から出すことも無く、カンラートは装備していた重厚な盾のみで男たちを跳ね除けた。
「……な、何なんだお前。並の騎士ではないな。だが、金目のモノはきっちり頂くぜ」
「何っ? ひ、姫様……!」
やけに外が静かになった。もうカンラートは退治してしまったのだろうか。外を覗き込もうとすると、先程見たボロボロの身なりの男が、無理やり馬車へ乗り込もうとしている。
「な、何なの、あなたたち!」
「大人しくしろ!! 金目の物を出せ!」
「馬鹿ね、お金なんて持ってきていないわ。あなたたちは相手を間違っているわ」
「生意気なガキだ。騎士に守られているコイツは金になりそうだ」
「離してくれる? あなたたちに捕まるほど、わたしはお金にはならないわ」
無理やり降ろそうとするので、手を引っ掻いたりやってはいけないけど、足で彼らを何度も蹴るわたし。わたしの蹴る力が通用しないことくらい分かってはいたけれど、何度も蹴って追い出そうとした。
「く、くそ、あぁ、めんどくせえ!」
次第に疲れて来たわたしの機会をうかがっていたのか、隙が出来たわたしは口を布で塞がれて持ち上げられてしまった。これは誘拐と言うやつなのかしら。カンラートはどこ?
「姫様!!」
「カ……」
あぁ、叫べなくなってしまったわ。馬車とカンラートのいた場所とは距離があったわ。そこを狙われてしまったわけね。んーこれはゆゆしき事態ということなのかしら。
「な、何てことだ!! 何たる失態――! 姫様、必ずお助け致します。どうかご無事で」
カンラートが付いているとは言え、いつかこうなることが起きるとは思っていたけれど、本当に起きるとは思わなかったわ。目には何かが被せられていて暗くて何も見えないし、口は利けないし、困ったわ。
「騎士には手こずったが、金になりそうなガキは手に入れた。ひとまず町に向かうぞ」
なっ!? 誰がガキですって? 全く失礼するわね。町? 町に向かうのね。それならきっと――




