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いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚  作者: 遥風 かずら
わたしと僕の日々編

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10.負ける彼と負けない彼女


 父様が僕に家庭教師の様な奴を付ける。そう言っていたから、てっきり強面で厳しい騎士の人だと思っていたのに、まさかの女の子でしかも厳しすぎるなんて……父様、奴とは女の子に言う言葉じゃないです。


「貴様!! 誰が休んでいいと言った! 限界が来るまで走り続けるのだ。盾や剣だけを扱うのが騎士の務めではないぞ。日々の鍛錬で体力を身に着けることが重要だ!」


「はひっ!!」


「よし、次は木刀を使って素振りだ」


「はぁはぁはぁ……えぇ? きゅ、休憩なし?」


 ど、どうしてこんなに叩き込まれるのだろう。僕だって父様について稽古に励んできて基礎は身に着けてるとは思うのに。


「あ、あの、シャンタルさん。ど、どうしてこんなに鍛錬ばかりするのですか?」


 僕はもっと護衛に近いことを学びたいのに。そうじゃないとルフィーナを守れないよ……


「アスティンは騎士になりたいのだろう? それも王族を守る騎士に」


「そ、そうです。僕は王女の傍に仕えて、彼女を守っていきたいんです」


「ルフィーナ姫であったか? 彼女を守り抜くには今の貴様では程遠い。貴様よりも彼女の方が強いからだ。その意味が分かるか、アスティン」


「ルフィーナが僕より強い? えっと、わがままな所が強いから……かな」


「全然違う! 姫はとても心がお強いのだ。しかし貴様……アスティンは心が弱い。すぐに音を上げるようではいつまでたっても騎士の試練は乗り越えられないぞ」


 ルフィーナよりも僕は心が弱い……? そ、そうなのかな。確かに僕の方がすぐ泣くことが多いけど。


「で、でも、こんな走ったり木刀を振るだけじゃ強くなれる気がしないです」


「では、何をやれば貴様は強くなれる?」


「え、えっと……えーと、えーと……」


 いきなりそんなこと聞かれるなんて考えてなかったよ。なんか、何か上手く言葉が出て来ない。何て言えばいいんだろ。あ、そうだ……守るのが役目なんだからきっとそれだよね。


「こ、困ってる人を助けたり、敵を退治することです!」


「困ってる人? それは城の人間か? それとも外の人間か」


「ど、どっちもです」


「よし、ならばアスティン。今すぐ、城門へ向かうぞ。そこで人助けをしてみるがいい」


「え?」


「早く支度をして、向かえ! 我もすぐに向かう」


 シャンタルさんに言われるがままに、僕は城門に向かうことにした。まさかこんなすぐにやれだなんて言われるとは思わなかった。


 ジュルツ城門に来るなんてことはほとんど無いけど、こうして来て見ると沢山の人や馬車が国へ来ているんだなあと、僕は感動してしまった。


「アスティン、待たせたな。何を見ている?」


「い、いえっ、僕は城の外をじっくりと見たことが無いのですごいなあと思ってて」


「見習い騎士は危険が及ぶことのない城内しか見ていないのだったな。今までさほど危ない場面に遭うことは無かったということだな」


「穴に落ちたり森で迷ったりは……」


「それは危険なことに入らぬ。さて、アスティン。丁度そこに馬車が通りがかる。よく見て、そして馬車を助けて見せよ」


「馬車を? で、でもあのまま放っておいても大丈夫なんじゃ……」


 こうして僕とシャンタルさんが会話をしている間にも、馬車は次々と門を抜けて行っている。それなのに、馬車を助けるなんてどういう意味なんだろう。


「何も起こらないですよね……?」


「……いや、よく見てみろ。先程から列に並ぶ馬車の馬が退屈をしているだろう? アレはそろそろ動く」


「へ?」


 馬車の様子をじっと見ていたら彼女の言う通り、待機列で進めずにいた馬が急かすように勝手に進み始めた。動物だから仕方ないと思うんだけど。


「アスティン、あの馬を止めてこい!」


「ええっ!? わ、分かりました」


 馬は大人しい性格のはずだし、僕でも止められる。そう思いながら、馬の近くに行ってみると暴れる勢いで僕の顔を睨んできている。そうだとしても、きっと止められるはず。


「ど、ドウドウドウ……」


 なるべく馬の目を見ないようにして、顔の近くを撫でながら落ち着かせようとした時だった……。なだめるどころか、いきなり興奮し出して僕の方に向かって馬車ごと進もうとしてきた。な、なんで?


「ま、待って、待って。止まってー! す、すごい力だ……こんなに強いの? ぼ、僕の力じゃ止められないよ」


 いよいよ押されて飛ばされる! そう思っていたら、彼女が僕の前に立ち塞がった。


「アスティン、我の後ろに控えてろ」


「は、はい」


 僕の前に立ち塞がったシャンタルさんは、馬の押し出す力にびくともしないでその場から前にも後ろにも動かずにいた。無駄だと分かったのか、馬は大人しくなった。危険が去ったことに御者台の人も安心したのか、何度もシャンタルさんにお礼をしている。


「す、すごい。武器も盾も無いのにあんなことが……」


「アスティン。いくら馬相手でもバッシュを使っては駄目だ。何者をもはね返す壁となることが出来れば、騎士としての務めも果せよう」


 た、確かに動物相手に強く打ってしまえば怪我をさせてしまうよね。それにしても、シャンタルさんはどれだけ強いんだろう。


「では、鍛錬に戻るとしようか」


「あの、人助けは?」


「今は無用であることが分かっただろう? 貴様は負けたのだ」


「あっ……そ、そっか。だから必要なんだ」


 暴れ出す馬にもビクともしない彼女の後ろ姿はもの凄く頼もしくて、すごく綺麗だった。こういうのが騎士なんだ……! 僕もシャンタルさんのようにならなければ駄目だ。そして彼女の様に何者にも負けない強さを身に着けるように、今は頑張るしかないよね。僕はきっと、強くなって見せる――

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