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理想伝心のウィーケスター  作者: ぜてぃー
2/4

最弱による宣戦布告

 最弱と最強の違いは、何だろうか――




「クッ……隊長!こっちはもうバリケードが持ちそうにない!」

 そう叫ぶスギュラル。

 尚、隊長とは俺――アストの事だ。

「……やっぱり、『アレ』が厄介だ。どうにかしたいところだが……!」

 そう呟き、敵の『兵器』を見る。

「――ほらほらぁ!さっさと出てこいよ、一瞬で蜂の巣にしてやるぜええええ!!」

「た、隊長!こっちのバリケードがもう……!うわあああああ!」

 それを最後に、彼は『戦死』した。バリケードは、貫かれた一点を中心に、瞬く間に崩れていく。

「くっ……お前の事は忘れないぞ……!」

「そんなこと言ってる暇があったら、あれをどうにかする策を考えろ!このままじゃジリ貧だ!」

 そう呼び掛けるのは、アストの親友でありオオカミ一族の獣人族、ウルファ。

「そうは言うが……どうしろっていうんだ!?壊せるわけないだろ!あっちはオリジナルの特殊合金製だぞ!?」

「ルール違反ではないとはいえ、こんな手を使ってくるのは予想外だった……いや、有り得ないと断定していた、俺達の読み負けだ!」

 ウルファの言うことは、確かに正しい。だが、普通に考えて、これは明らかに有り得ない。

「くそ……ていうかよ、あれ――()()の威力じゃねえだろォ!?」

 前日、俺は決意を新たにした。世界を支配して見せる、と。だが、今はこっちの――


 学院生徒交流会☆雪合戦の部!

 クラス対抗、トーナメント式!優勝クラスには豪華景品が与えられるよ☆

 ……そこで順調に勝ち進めてきた、アスト率いるクラス。

 そして現在、準決勝。そして、その準決勝の相手が持ち出してきたのは――


 ――こっちの、雪玉ガトリング砲をどうにかしなければ……!

 そう、ガトリング。クラスで自主作成した、特製オリジナル特殊合金製の、だ。

「どのみち、じっとしてれば負けるんだ――なら!」

「あ……!おい、アスト!なにする気だ!?」

「…………ッ……後を……たのむ……!――うおおおおおおお!!」

「アストッ!……アストおおおおおお!」




「どうなってんだよ、マジで……アレ絶対に雪玉の威力じゃないって……ガチ兵器だよ……」

 バリケードから飛び出し、特攻を仕掛けたアストを待っていたのは、地獄だった。

 極寒地獄よりもエグい、最悪の光景。

 すなわち、弾丸とも言えるほどの威力を持つ、無数の雪玉が、自分へ向かってくる様を。

 ――現在は、雪合戦も終わり、ウルファと一緒にジュースでも買いに行こうと歩いているところだ。

「まだ顔面が痛いんだけど……っていうか、優勝は?まあ、聞かなくてもわかっ――」

「あのチームじゃなかったんだが」

 その事実に、一瞬アストは絶句する。

「……なに?優勝チームはどんなチート使ってきたの?」

「お前はガトリングの所為で気絶してたからな……雪玉レールガンだったよ。特別製のガトリングを、壊せる威力の……」

 ――ガチ勢、という勢力が昔は存在したらしい。物事の数だけそれは存在し、加入条件に明確な決まりはないが、とにかく、その1つの物事に本気でとりくむ勢力だったらしい。それっぽいものだけなら、今でも存在するだろう。

 しかし、昔に存在した雪合戦のガチ勢でも、こんなことはしなかったハズだ。……多分。

 加えて、どうやれば雪玉という弾でレールガンを放てるのか、と言うところも甚だ疑問だ。

「しかしまあ……よくこれで、人死とか出なかったな」

「意識不明の重体は出たがな」

「……まぁ……やっぱり、とでも言うべきなのかな……」

「死者が出なかっただけ良いと思うべきだろ」

 そんな話をしている内に、箱形の自販機の場所へとついた。

 すると、様々な商品が、ホログラムで空中に写し出される。

「ソーダは王道だよな」

 ウルファはそう言って、ソーダのホログラムに触れる。

 すると、自販機の下部から、ゴトン、という音が鳴る。そこには、ウルファが選んだソーダがあった。

 このシステムは、昔から変わっていないらしい。変わったのは、今のようなホログラムや、品切れ自動補充システムとか。

「そうだな。……じゃあ、思いきってこの『あんコーヒー』でも買うか」

 そう決めて、ホログラムに触れる。

 すると同じように、ジュースが出てくる。その形状も昔から変わっていない、缶タイプ。アルミではなく、機械族が造った、現状で考えられる最大限に環境に優しい金属……らしい。感触は、アルミとそう変わらないんだとか。

 その蓋を開ける。そして、少しグロい液体が現れる。

「なんだそのネタジュース。不味そうだな」

「いや、こうゆうのが意外と美味しいってパターンだ」

 そして、あんコーヒーを飲む。

「……どうだ?」

「――イケる。かなりイケるよこれ」

「へえ……一口、いいか?」

「おう、いいぞ。ほらよ」

 そして、缶を渡し、ウルファがそれを飲む。すると――

「――確かに。甘く半液状のあんこと、苦い液体のコーヒーという一見して正反対の物が、絶妙なマッチングを……」

「ほら、俺の言った通りだったろ?」

「確かに、これは旨いな。」

「だろ?……ああ、それで話を戻すんだが」

「?」

 少し前……と言うより、雪合戦があるとわかったときから気になっていた事だ。

「いや……今ってよ――夏、だよな?」

「……生徒交流会は、新技術のテストも兼ねてるって噂を聞いたことがある」

「最近、本当になんでもありになってきてないか?」

 雪合戦に限らず、今までのも相応に酷いものだった。

「気にすんな。気にしたら負けだと思え」

 そう言われながらも、あんコーヒーを返してもらう。

「はあ……っておい、あんコーヒー全部無くなってるんだが」

「量が少なかった」

「何でもないように嘘をつくな」

 俺は多くても、2割程度しか飲んでいなかったはずだ。

「……代わりにお前のソーダ、全部寄越せ」

「あー、わかったよ」

 渋々と言った感じで手渡される。まあ、結果は見えて――

「――なんだ。てっきり一滴たりとも残ってないのかと思ったが」

 少しは減っているが、結構残っている。恐らく、丁度ウルファに飲まれた分くらいだろうか。

「流石にそこまで薄情じゃねえよ。……ってか、もう次が始まるんじゃねえか?」

 そう言われ、近くの時計を見る。時計の針は、もう時間が無いことを示していた。

「あ、ホントだ。えーと、次は……『落ち葉掃除合戦』ってこれ学校側の私情挟まってる気がする」

 明らかに掃除をしてほしいだけでは……?

「まあ、そこもそこだが……次の次、見てみろよヤベェから」

 言われ、嫌な予感を感じつつも、それに応じる。

「はあ?ったく、一体何が……ああ、えーと『死会い合せn』ちょちょちょいまてまてまてまて!」

「ほら、ヤベェッつったろ?」

「ヤベェにしたって限度があるだろ……何が始まるんだ……」

 そんな、身の危険を感じながらも、時は進み――


 ――交流会も終わった頃。

「まさか死会い合戦が一番平和的だったとはな……」

 ただのホラー系仮装大会だった。

「そんなもんだよー。ここは色々と規格外だからね」

 何となくで発した独り言に、誰かからつっこまれる。

 ――スラッとしていて高身長な体、茶色の短い髪に、同色の瞳、白いTシャツ。腕の変わりに翼が付いた、古代の文書にあった『ハーピー』と分類されるであろう姿。

 アティカ・リンフォーグ。鳥の獣人族で、自由気ままな性格。戦闘面は高成績、勉強の成績は非常に悪い。というか万年赤点。本人曰く『鳥頭だから』。

「なんだ、アティカか」

「なんだとはなんだぁ、失礼なやつめ!」

「すまんすまん。それにしても、掃除の時は凄い活躍だったな」

 手が無くて不便と思われがちだが、実際は多才で優秀な人物でもある。ある一点――

「ふふーん、この翼は飾りじゃないんだよ?旋風を起こすのなんて、朝飯前ってヤツだよ!……あれ?何で翼のこと自慢してるんだっけ?」

 ――この頭を除けば。

「ああ、いたいた。アストさん!」

「ん?おお、リエル。準備、出来たのか」

 みると、こちらへ走ってくる人物がいた。

 低身長、焦げ茶色の髪、黄緑の双眸。そして、何故か暗い緑色の軍服を愛用している。

 リエル・リエシャート。大人しそうに見えるが、ウチのクラスの頭脳戦に置ける最高戦力で、本人の素質と『能力』のこともあり、超優秀かつ危険視されている天才ハッカー。即興で作っても強力な、機械族が作ったプロテクターを簡単に突破する。しかし、戦闘はダメダメ。名前だけ聞くと女っぽいが、普通にショタっぽい男だ。

「……準備は出来ました。ですが、その前に皆さんに話をしたほうが良いのでは?」

「ああ、それもそっか」

「んー?何かやんのー?」

 アティカが不思議そうに言う。

 その疑問に対して、俺は少し考えてから、笑顔で――

「……最ッ高に楽しい事だ!」

「はっはー、期待してるよ!」

 その返答に、アティカも笑って返す。

「とりあえずは、教室にクラスの皆を集めます。そこから学院全体への確認――と言うよりは、宣言といったほうがいいですね。そして、世界中に向けて配信を開始……で、いいですね?」

「おう。すまんなー、キツイ仕事させて」

 今回の件は、本当に悪いと思っている。何せ頼んだことが、世界中の放送機器のハッキングなのだから。そしてこれは、つい数時間前に頼んだことで、学院側には病欠ってことにしてある。ただ、ここにいるってことは、バレないようにこっそりやって来たんだろう。……ただ、数時間で世界中の放送機器をハッキングするコイツもコイツだとは思うが。

「ホントですよ。他は紙くずの方がマシなくらいのプロテクトでしたけど、機械族の惑星は大変だったんですからね。あれには比喩無しで、時間の九割を費やしました。……ただ、やるならさっさとしてください。機械族の惑星だけは、いつ気づかれてもおかしくないんですから」

「ああ。ありがとな!」

「……ほら、さっさとしてください」

 微笑みながらも、催促はする。コイツの場合、単純に感謝されたのと、機械族の惑星をハッキング出来たのとで、結構嬉しいんだろう。

「ねえねえ、それで結局、何の話なの?」

 アティカが不思議そうに言う。

 俺はそれに、笑顔で返す。

「ああ、最ッ高に楽しい事だ!」

「はっはー、期待してるよ!」

 ……ん?これ、さっきもやったような……?


 アスト達のクラス。

 そこでは、アストのクラスメイト達が席についており、よく見知った顔がたくさんある。

 肝心のアストは、教卓の前にたっている。そのよこでは、リエルが何かの端末を弄っている。

「学院全体、チェックOK。アストさん、いいですよ」

「あ、いいの?これ、ホントに学院全部にいってんのか。すげーな~。あー、あー、テステス~」

 そこには、突如として現れたマイクがあった。

「アストさん。さっさとしてください」

「ああ、わかってるよ。……うーっし、ではでは~……学院の皆々様、ご機嫌麗しゅう!今日もいい天気……晴れてる?よし、晴れてる晴れてる……今日もいい天気ですねェ!」

 快晴だった。

 しかし、すかさずリエルにツッコミをいれられる。

「悪役臭いしウザいからさっさとしてください」

「ええー。なんだよせっかく余興っぽい事を……」

「これ、学院全体に流れてるんですからね。全部。それも、映像付きで!」

「え、映像もついてんの!?じゃあさっき本当に天気良いか確認したのバレバレじゃん!」

 しまった!先に確認しておくべきだった!

「映像付いてなくても分かりますよ、さっきのは……」

 呆れた声で言われる。

 アストは少し恥ずかしくなって、早く次に進めることにする。

「あー、えっと、続きだ続き!ふー…………学院にいる皆。最初に一言……すまん!そして、どうか付き合ってくれ!……これは俺自身の我が儘で、どうしようもなく、荒唐無稽で不可能が当然な事だ。だけどよ、俺はやってみたい。今、世界は戦争ってヤツに向かいつつある。だが、正直にいって、これは邪魔だし面倒くさい事だ!だから俺は、この機に乗じて、あることをやる!んで、最後にもう一言!安心しろ何て言わないし、ゴメンとも言わない!俺は――皆を、信じてる!……よし、リエル!」

 無責任感が超弩級な事だけ言い残し、リエルに声をかける。

「世界中に繋ぎました!アストさん、やっていいですよ!」

 予想でもしていたのか、一秒と待たずに繋がった。

「おお、ナイスタイミング!よーし、…………さて、世界中の皆!突然で驚いているだろうが、最初に言っておく!俺は地球にあるニッポン国のヴィレッジェナード学院2年、アテストーラ・レーヴァテイン!」

 そう名乗るだけで、世界がどよめく。その名が意味する、一つの事実に。

「……んで、だ。知ってるとは思うが、今、地球はまーた世界大戦をおっぱじめようとしてる。んで、お前らに聞きたい。――こんなの、楽しくねえだろ?もっと楽しい事をしよう。自分が最高だって思える事をやろうぜ。俺は、楽しい事ばっかの人生を生きたい。そこに、世界大戦なんてモンはいらねえし、そんな事が起きるのがイヤだ。自分勝手だの、事故中心的だの、んなことわかってる。お前らだって、もしかしたらそう簡単に覆せない事情があるのかも知れない。自分の意思じゃないのかも知れない。どっちにしろ、俺は正直クソつまんねぇって思う」

 まさしく自分勝手だと、ある人は思う。だが、同じ思いだとある人は思う。

「そこで、だ……俺は、今の俺が最高だって事をする。んで、お前らは全力でそれを止めに来い。当然、地球だけじゃない。俺は、全世界に向けて言ってやるよ」

 世界が息を呑む。続く言葉を、聞き逃さないために。

 そして、世界は震撼した。

「――俺達はッ!今まで誰も成し得なかった!世界制服ってヤツをヤってやる!否定なんてさせねえ!俺は俺が今ここで一番やりたいことをやる!んで、お前ら世界で、俺達を止めてみろ!俺達がそうさせてやる!お前らが、俺達を止めることを最高だって思えるようにしてやる!それぐらい面白くしてやる!一国や二惑星で止められると思うな!全世界で掛かってこい!そんでもって――!」

 昔、母さんが父さんから貰い、母さんから俺へと託された、ある指輪を取り出す。

「――俺達は、それを尽く返り討ちにしてやる!来るなら来い、じゃねえ!()()()()()()!俺達は絶対に世界制服してやる!全世界に、俺は――俺達は!()()()()()()()!かつて世界を焼いた核爆弾を百個持ってこようが無駄だ!もう一度言う!――俺達を、全力で止めに来い!世界全部でだ!そして、俺達はそれを――!!!」

 不意に取り出した、謎の宝石が付いた指輪。

 それを中指にはめ、天に掲げる。

 指輪の宝石は光輝き、地面を揺らす。

「全て!尽く!纏めて!お前ら全員――返り討ちにしてやる!」

 地面から現れたのは正しく巨大な『何か』。

「あと、ついでに言っておくが、俺は人類で最弱だ!この前、蟻さんに負けたしな!」

 それはヴィレッジェナード学院を持ち上げ、空へと浮かぶ。

「でもな――『()()』は違う!世界にだって負けやしない!さあ、掛かって来い!ヴィレッジェナード学院、そして!世界の反逆者となった、『ヴァリアード・()()()()()()()』の息子!俺ことアテストーラ・レーヴァテインが、相手してやる!さあ世界の老若男女、王から平民まで全員!今、最大に最高で一番――楽しい事をしようぜ!!」

 そして――地中から現れたそれは、咆哮を上げた。


 とある部屋。

「バカな……ヴァリアード・レーヴァテインの息子だと……!?あの反逆者に、息子がいたとでも言うのか!?」

「いたのだろう……フッ……見れば見るほど、あの男らしい。王としての素質も持つ……息子なのも、頷けよう」

「貴様……いつから!?ええい、警備は何をしているか!」

「まて。私は戦いに来たのではないさ……彼の者の息子がああ言っているのだ。相手をせんわけにも行くまい?寧ろ、ここで相手をせんのは、――我が魂の、昂るこの熱に反する……!」

「……ふん、まあいいだろう。ああまで言われたのだ。徹底的に叩き潰してやろうではないか」

「だが、一筋縄でもいくまい。それに、生半可な戦力では、こちらが返り討ちにされるのは目に見える様でもある……」

「何故だ?あのようなちっぽけな存在に……」

「ちっぽけであるからこそ、だ。窮鼠は猫を噛む……しかし、我々の相対者達は、窮地に陥れば陥るほどに力を増してくるぞ……さながら、窮鼠が猫を越え、龍を打倒するほどに……」

「奴等がそうであれば、我々は龍よりも高き存在だ。奴等なんぞ、何もできなどせん」

「果たして、そうかな……?」

「……貴様は、どっちに荷担する気だ?」

「無論、彼らを討ち返そう。『イギリスの国王』として、な……」

「私とて、『アメリカの王』よ。ああまで言われたのだ、存分に相手をしてやろう」

「無視するのが、賢明ではないかね?」

「貴様がそれを言うか?……まあ、ヤツの声は、妙に心にスッと入ってきた。応えてやろうではないか。それに、私も……何やら、胸の奥が熱いものでな……!」

「では、行こうか」

「不本意だがな……ククッ、楽しくなりそうだ」

「フッ……」


 とある王室。

「……」

「王よ。どちらへ?」

「……準備を始めろ」

「イエス」

「……不完全性が生み出す合理性。完全性と倫理性とは別の観点より産み出されし合理性とは別の感性。進化とは不完全性故の不完全を消そうとする行為。しかし、進化を進めれば進めるほどに、それは不完全性をより強く大きなものとする。しかし、その不完全性こそがより合理的な感覚を生み出す。一見では理解できぬ合理性。大を棄てて少を残すか、少を棄てて大を残すか。その選択を迫られし時、完全なる不完全は全てを選択する。文字の通り、手段を選ばぬ……それは、一言で尽きぬ合理性の元にある。時には、合理性など無い事も有りうる。……それは、我等が望んだ『()』故に……」

「何の理論で御座いましょうか」

「……我等が一時、切り捨てたものだ」

「失言と理解。以後の発言項目に注意事項として認識します」

「ロックは必要ない。貴機には心の存在が疑われる」

「処分されますか」

「古と現を違えるな。今更処分のような事は無い」

「イエス」

「さて……虚偽番号(フェイクナンバー)TS.G.Mk15236――真番号(トゥルースナンバー)ZZ.G.Mk00003――現ヴィレッジェナード学院所属機。さあ……貴機の『心』を示すがいい……」


 とある庭園。

「ふーん。アイツら……いい度胸してるじゃない。私たち天使族に刃向かおうなんて」

「天使族の王女様ー、ぶっちゃけどうでもいいですけどー、どうするんですかー?」

「ああまで言われて、黙っている私だと思って?」

「あー、そうでしたねー」

「全く……でも、ここに貴方がいて良かったですわ。獣人族の王よ」

「普通にー、暇で来たんですけどー、こうなるとはー」

「どうでもいいですわ。とにかく、奴等に目にものを見せて、度肝を抜かせるような作戦を考えますわよ!」

「僕ー、一応ですけどー、獣人族の中でもー、悪魔種って呼ばれるヤツですよー?いいんですかー?天使と悪魔が手を取っちゃってー」

「仲が悪いなんて話しは、神話の中だけですわ。それに、今はそのようなことをいってる暇もありませんもの」

「はあー。僕ー、帰っていいですかー?」

「ダメに決まってますわ!一緒に作戦を練るんですのよ!」

「ちょー、首根っこー、掴まないでくださいー。痛いですー」

「……あーもう!さっきから気の抜けた声ですわねぇ!?もっとこう……シャキッと出来ませんの!?」

「無理ですー。宇宙を完全に支配するくらい無理ですー」

「どんだけレベル高いんですのよ!?まさかあなた、影武者とかじゃ無いですわよねえ!?」

「影武者ー……ああー、あれですかー」

「……苦労しそうですわ」

「どうもー」

「褒めてないですわぁ……」




 そこは、宇宙の果て。

「始まったか……ったく、アイツらに確認だけお願いって言われたが、これ何年かかるんだよ……」

「兄さん……気にしちゃ……ダメ……」

「まあ、退屈はしなさそうだからいいが……帰ったら延々と話してやる。嫌になるくらいに」

「予想外の……イライラを……ぶつけるのは……よくない……」

「……まあ……それは、そうだがよ……」

「あ……フェーナちゃんから……連絡……」

「ああ?……なになに、『天使の惑星のアイスクリームめっちゃうまい』よし、帰るぞ」

「え……いいの……?」

「知らん。つーか、アイツらがいるなら俺達が監視する必要はない。さっさと帰って、店の手伝いするぞ」

「ん……兄さんが……そう言うなら……あっ……」

「また連絡か……なになに?『帰るくらいならこっち寄ってから行きなよ』……チッ、相変わらず化け物染みてるな」

「どうするの……?」

「ディースはどうしたい?」

「…………アイスクリーム……おいしそうだった……」

「決まりだな。少し癪だが、行くぞ」

「うん……」

「――何だって、俺達が『神』のお守りをやんなくちゃいけないんだか…………」




 ヴィレッジェナード学院、アストのクラス。しかし、肝心のアストは言い終わった直後に、何処かへと飛び出した。

 その空間に、大きな笑い声が響く。

「くっはっはっは!いやー、何企んでんのかって思ったらよぉ、まさかこんなことたぁなぁッハッハハ!」

「ウルファ、笑い事ではない。これから私達は世界と戦うハメになるのだぞ?」

 ウルファの笑いに対して、冷静に返すニサム。

 しかしその空間には、この状況を楽しもうとする者もいた。

「あら。私は断然ウェルカムよ?天使王とも、色々あるし……」

「クピディ。面識。有る?」

 そのクピディの艶っぽい声の中に、疑問を見つけるメリアーネ。

「聞く限りだと、そうっぽいよね」

 その疑問に、肯定的な言葉で答えるセンカ。

「まったく……覗き騒ぎなどとは、比較にならんほどの事をしてくれおったのう……」

 呆れた顔で、溜め息混じりに言うミューリエス。

「気にしてちゃ身が持たないよ、ミュリス。それに何であっても、私達はアストと一緒に行くことになっていたのは明白だし」

 レーネの言葉は、その場の全員が正論だと思った。

「すこーし、気に入らないけどねっ」

 そう口では言いながらも、楽しそうな笑みを浮かべるチュルネ。

「ははっ、これから面白くなりそうだな!」

 そう心から嬉しそうに言うスギュラル。

「よーし、私も頑張っちゃうよー!……あれ?どうして頑張ろうとしてるんだっけ?」

 アティカは普段通りに、色々な事を忘れていた。


 学院長室。

 そこに、二人の影が佇む。

「学院長。アストの馬鹿はどうしますか?」

 そうは言いつつも、シラクアは何かを気にした様子を、一つも見せない。

「はっはっは、好きにやらせたまえ。これは彼らの選択であり、私達が口を出すようなことではないし……何より、少年達の青春を邪魔する権利を持ち合わせていないモノでね。はっはっはっはっは!」

 大声で笑うアステイル。それには、確かな期待が込められていた。

「はあ……アストをビシバシやらせる、いいチャンスだと思ったんだけどなー。……まあ、手くらいは貸してやりますか」

 そのシラクアの呟きにも、楽しそうな雰囲気が宿っていた。


「アスト君……!」

「アリス、何だ?そんな慌てて」

 そこは、二人の思い出の丘。

 かつて、子供の頃に初めて会ったとき、初めて共に空を見上げた場所。

「ビックリした……アスト君が、あのヴァリアードの息子だって……」

「あ、いやー……隠しててゴメン。……って言うか、親父ってそんな有名人なのか?」

 それなりに名が知れてるのは、分かってたんだがなあ……

「当たり前、だよ……世界でたった一人、世界を敵に回して……人類の変革にも関わった……あの人だよ……!?」

「マジで!?いやー、親父って凄かったんだな」

「え、そ……それだけ?」

「だけも何もあるかよ。それが俺の父親なら、それだけのことだ。何やってようが関係ないさ」

 ちょっと偶然が重なっただけだ。きっと俺は、今の親父じゃなくてもこの道を進もうとしていただろう。

「アスト君は……すごいね……」

「別に?楽しいことやりたいから、やってるだけだしな!」

「ううん……本当に、すごいよ……だって――」


 私の手を引いてくれたのは、アスト君だから。

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