表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想伝心のウィーケスター  作者: ぜてぃー
1/4

最弱の見た夢

 想いが物理的な力になるならば、きっとアイツは最強になれただろう。


 それは、誰もが『彼』に思ったことである。




 ――幼い頃。

 それは、彼にとっては、些細な出来事だったのだろう。

「なにしてんだ、お前。一人ぼっちで」

 誰も、彼女の思いには、完全に共感してはくれないだろう。

「一人きりじゃ、つまんねえだろ?――いや、みなまで言うな。お前の言いたい事は、よーく分かる」

 それでも、彼女にとってそれは、大事な思い出。

「ほら、来いよ!――今、最っ高に楽しいことをしようぜ!」

 彼が初めて彼女の手を握ってくれた、大切な――




「…………くそっ、見えねえ!」

「そんな……」

「俺たちの……今までの苦労はどうなるんだよ!」

 草木の影に隠れながら、三人の男が横に並んで話している。

「まだだ!まだ見れない訳じゃねえ!ここまできて、諦めきれるかよ!」

 そう、勇ましく叫ぶリーダー的な青年は、双眼鏡を目にあて。

 遠く、煙のたつ場所を凝視していた。

「あと、少し――あと少しなんだっ!」

「そ……そうだ、まだ終わってない!」

 青年の右隣の男が希望を持つ――が。

「だが、状況は変わってないんだぞ!?どうするってんだ!?」

 青年の左隣の男によって、絶望しかける。

 しかし、リーダーの青年は静かに答えた。

「……祈れ……!」

「何!?」

「祈るんだ、見えるように、いや、見えますようにと――たとえ一瞬だけでいい、煙が消える、その僅かな可能性に……!!」

「……わかった」

 そして待ち続け、時が経ち。

「…………!!見えたぞおおおおおおっゴブウッッ!!」

 訪れた歓喜の叫びは、瞬く間に潰された。

 その光景を横で見ていた残りの二人が、青ざめた顔で後ろを見る。

 リーダー的な存在であった青年は、その誰かの足によって、頭を地面に埋められ、動かなくなっている。

 そうさせたであろう、三人ともよく知っている人物が、そこにいた。

「先生ねー、女の子のお風呂を覗き見するようなー、わっる~い生徒にはよ~く教える事を教えておくべきだと思うんだ。だからねー、今から臨時補習を行いたいと思いま~す♡」

 自分達が通う学院の、自分達の担任教師。

「「すみませんでした」」

 ――その夜、ゾンビのようなモノを見たと言う人が多くいたとか。




 ヴィレッジェナード学院。

 大昔、トーキョーと呼ばれた場所にあった、壊れかけのとある学舎を復旧しようと頑張った結果の産物。頑張りはしたが、似ても似つかなくなってしまい、全くの別物になったんだとか。

 白く巨大で、中には学習施設だけではなく、宿舎や商店街、温泉などがあったりと、学院とは言い張るが、半ば都市と化している。

 そこで俺達は、高校2年生として、生活している。

 ――その一角の教室。

「ふう……妙に頭が痛いな。しかし、なにか忘れてるような……?昨日の夜に、覗きに向かったところまでは覚えてるんだがなあ……」

 ――昨夜の覗きのリーダー的存在であった青年が、愚痴を漏らす。

 16歳としては普通の身長で、短く所々がハネている赤色の髪に、黒い目。上が白く下が赤い服装に、黒いマントを羽織るという何とも言えない格好をしている。

 これがこの物語の主人公、アスト・レーヴァテイン。紅蓮の炎剣の名を継いだ、この世の人類で最弱の存在である。人を惹き付けるような性格だが、学院の中で一番の問題児でもあり、学院で知らない者はいないほど。

 ――ちなみにどれほど弱いかというと、そこら辺にいるカブトムシに負ける程である。尚、勉学はサボり常習犯だが意外にも平均的である。

「何があったのよ、そんなに疲れた顔して」

 そう聞くのは、アストの幼馴染み。

 ――アストと同じ身長、後ろで結った黒く長い髪、赤い双眸。服装は自由でいいと言われているが、一応存在する学院の白色の制服を着ている。

 レーネ・クノーレス。学習面は平均的だが、戦闘面においてはアストと真逆とも言え、学院内トップ5に入る実力者。

「レーネ、あんた聞いてないの?コイツら、昨日の夜に女子風呂覗こうとしたのよ」

 クラスメイトの女子が、それに応える。

 ――『人間族』の中では少し高めの身長を持ち、切り揃えたオレンジ色の髪、黄色い瞳を持つ。瞳と同じ、黄色を基調としたパーカーに、スカートを着ている。

 チュルネ・クルス。学習、戦闘両面において平均より少し上の成績を持つ。

「また?」

「ああ。あんまり覚えてないんだけどな」

 そう言う横顔が、神妙な面持ちであったことに、レーネは微妙な感覚になる。

「そろそろ諦めなさいよ、もう……何回先生に怒られてるの?こう何回もやってると、停学処分でもくらいそうなものだけれど」

 アストを中心とした男子たちの覗き未遂は、一度や二度ではない。過去にはこのクラスの男子が総動員した事さえあった。それすらも未遂で終わっているが。

「そこは先生が、俺達の思いの崇高さを少しは理解してくれているんだろうさ。ほら、あの人まだ独身だから――」

「はーい、もう一回言ってみようか?ついでに続きも」

 聞き覚えのある声が響く。その声は危険信号を発信していたが、続きを言うよう催促されたためか、気にもせず、アストはふざけたように復唱する。

「あの人、独・身・だ・か・ら~!男の裸見たいのとか[ピ――]したいのとかと一緒で~、それで許してくれてるんじゃないですかね~、ハッハッハっげぼらぁ!!」

 横腹部に強い衝撃が走り、窓から外に蹴り出される。

 そうして、割れたガラス製の窓を親指で指しながら、教師が言う。

「はーい、他の生徒たちー!ああなりたくなかったら、少なくとも口には気を付けるようにしなよー?あっはっはっは」

 青い短髪、藍色の眼。何故かは分からないが真っ青なジャージっぽい服。

 シラク・セルヘグ。このクラスの担任。顔はそれなりのハズだが、性格が災いしてか独身である。年齢は聞こうとしたら殺されかけるので誰も知らない。

 そして、口調も声も笑っている中、目だけが虚ろで笑っていない。

「あの……先生、ここ五階……」

「死んだら運がなかったって事でー!はーい、授業始めるわよー!」

 その後の休み時間、「綺麗な川の向こうに、お花畑が……ああ、おじいちゃーん……」等のうわ言を言いつつも、クラスメイトの尽力で、アストは生還した。


「まったく、声が聞こえた時点で止めればよかったのだ。なぜ続けた?」

 機械的な音声が響く。

 それもそのはず、声の主は人の形をしていない、言わばロボット。

 ――白い肌(装甲)、緑色に光る目。大きさは人間ではあるが、姿の雰囲気は、どちらかと言えばドラゴンに近い方だ。人間:ドラゴンを、4:6ぐらいで割ったような見た目。

 正式名称はTS.G.Mk15236だの、TS.Gは第36世代型の略称だの、数字は生産番号だの、色々説明されたがよくわからなかった。俺達は数字の2と3と6をとって、ニサムと呼んでいる。『機械族』ではあるが、何故か勉学が苦手。戦闘面はそこそこである。一応、性別は男らしい。

「しかたないだろー、勝手に口が動いたんだ」

「何が仕方ないのやら」

 ニサムがため息をつく。毎度思うが、機械がため息をつくっておかしい気がする。

「……にしたって、こうも覗きが失敗するとな。モチベーションが下がるっつーか……」

 そう吐き出す、昨夜の覗きの時に、左隣にいた男。

 ――アストより少しだけ低めの身長、スラッとしている灰色の髪に、『獣人族』特有の、耳と尻尾。上はフードだけを着て、鍛えてある筋肉が露出している。誰得だよ。下は本当にダメージを負って、破けたり、取れなくなった汚れが見える、ガチダメージジーンズ。角度によればパンツが丸見えだろう。履き替えろ。

 そんなんでもアストの親友である、ウルファ・ゼプリオン。オオカミの一族らしく、性格も言動も荒っぽいが、根は仲間思いのいいやつである。バカだが戦闘力は高い。

 ――そんな会話に、艶やかな声がかかる。

「そんなに見たいなら、言ってくれれば良いのに。――私の裸なら、存分に見せてあげるけど?」

 そう着ている服を少しはだけさせ、誘惑してくる。

 ――平均的な身長に、長く銀色に輝く髪、紫に近い、濃いピンク色の眼。はだけてはいるが、白くフワフワとした感じの服。『天使族』以外では鳥種の獣人族にしかみられない、白い翼。

 クピーディエ・ロヴンエイルセッド。クピディの愛称で呼ばれている。天使族の中でも、割と、と言うかけっこうエロいらしい。あと巨乳。学習については天才肌とでも言うのか、授業中は大体寝ている割には、点数が高い。戦闘面においては平均以下。素質のせいか何なのか、エロい妄想をしてしまい、力が入らなくなって負けるんだとか。「負けた後にあんなことやこんなことをされちゃうかと思うと~」なんて言葉を、前に聞いたことがある。それなら妄想なんかしなければいいのに、と思う。

 ――そして、アストはクピディの発言を聞いても、じっとしていた。

「おい、アスト……お前ともあろうものがどうした!?熱か!?病気か!?おい誰か精神安定剤持ってないか!?」

 そんなことを、ウルファが言い出す。

「おいおい、俺は至って平常だ……今だって、出来ることなら飛び付きたいぐらいだ。だが……」

 少し間をおいて、よく聞こえるようにする。

「裸体とは 覗き見てこそ 価値がある!」

「あら、残念。でも、それはあなた自身の信条に反さないかしら?――」

 クピーが次に言うだろう言葉を流石の遮り、アストが言う。

「――今、一番楽しく、嬉しく、最高と思えることをする……確かに、クピディの言うことは正しいかもしれない。だが俺にとって、望んで、挑んで、それを何回も繰り返して……それが一時の気紛れ1つで叶うのなら、それは屈辱でしかない!最高なのは、自分自身の力で苦難を乗り越え、自分自身の力で覗くことなんだ!」

「志は立派だけれど、その真面目さを違う方向に向けた方が良いと思うわ。流石の私でも、聞いてて訳が分からなくなってきたもの」

 そのクピディの発言に、アストが溜め息をもらす。

「はあ……これだから女子は……」

「女子とかそういうのは、今のに関係無いと思うのだけれど」

 そう反論したところで、老人のような声が響く。

「はっはっは、良いじゃないか。ロマンを追い求めるのは、決して悪いことではない」

 その人物もまた、アスト達はよく見た顔だった。

「……学院長先生。女子風呂覗きはロマンの内に入るのかしら」

「ロマンはロマンだよ。と言っても、わからないと思うけどね。さて、と。アスト君は元気にしてるかい?はっはっは」

「はい!……朝から色々ありましたけどね!」

 ――少し低めの身長、長い白髪、眼鏡越しに光る黒い目。学院の制服を豪華にしたような物のうえに、研究者が着るような白衣を被っている。

 アステイル・リビンテッド。ここの学院長である。常に気楽な雰囲気を纏っていて、優しいとか、話しかけやすいとか、まあ生徒達に人気がある人だ。だけれども、誰も学院長の実力を知らない。勉学も、戦闘も。校長だから頭はいいんだろうけど、実はすごく強いんじゃないか、って噂も流れてる。それに学院長先生本人が答えないから、更に深い謎になっているところもあったり。

「でもねえ、アスト君。覗きは駄目だよ?」

「そうだぞアスト。覗きなどしては――」

 ダメだ、とニサムが言おうとしたところで。

「男なら、惚れた女に一途であるべきだよ」

「うむ。私の予想の斜め上をいったな」

 学院長の言葉を聞いて、困っていた。

「……でも、俺には惚れた女なんて……」

 それに真面目に返すアスト。

「いないなら、自分を好いてくれている子を探しだし、その子を抱けばいい。それが――男って、もんだろ?」

「学院長先生っ……!」

 それを、少し距離をとったところから、三人が見ていた。

「ふむ。私は今、どういったリアクションをとれば良いのか、非常に悩んでいる」

「奇遇なもんだな。俺もだ」

「あら、私もすっごく悩んでるわよ?これ、どこからどうやってツッコめばいいのかしら」

 それを意にも介さぬまま、二人の会話は続く。

「――まあ、好いてくれてる子もいなかったら、院長権限で覗きを許可しようじゃないか。かわいそうだしね」

「マジで!?」

 この時、まわりの三人や、他のクラスメイト達は気がついていた。学院長が遊んでいることに。

「あら……気づいてないのかしら?その提案は、クラスどころか学院内の全ての人間の心がわからない限り、許可されないのだけれど。そこら辺わかってるのかしら……それに、それじゃどっちにしても許可は貰えないわよ?」

「え?」

 その言葉に、間抜けな声を漏らす。

「はっはっは、未来ある若者よ、青春したまえ!はっはっはっはっは……」

「え……ちょっ、学院長先生ー!?」

 そう笑いながら、学院長は教室から出ていった。

 それに入れ替わるように、クラシア先生が教室に入ってくる。そこでアストは、『独身女が来た』とふと思い。

「ほら、席につきなさーい!あと、何でか知らないけど腹が立ったんで、アストはこっち来なさい!」

 いつからこの独身は、エスパーになったんだろうなと思わずにはいられなかった。




 その後、理不尽に殴られたりして、授業が終わり――

 ――放課後、校門前。

「はあ……ひでぇよー、俺何にも言ってないのに」

「大変だったのう。まあ、日頃の行いのせいじゃろ。此を機に、悔い改めたらどうじゃ?」

 帰りの途中、そんな爺口調ながらも、甲高い、女の子の声がかかる。

 その口調とは反して、金色で長い髪に、碧色の眼。けっこう童顔で、身長も少し低めぐらいのため、子供と勘違いされやすい。しかし、服は藍色の和服という、絶妙な組み合わせ。

 ミューリエス・アステライド。見た目は変ではあるが、学習・戦闘両面とも成績優秀なヤツ。テストは常にトップ10以内、戦闘もトップ5の中に位置する。身長も胸もそうであるためか、『小さい』という単語には敏感である。尚、仲の良いものからはミュリスと呼ばれる。

「悔い改めよ、って言われてもなあ……」

「そういう怠惰なところがダメなのではないかのぅ……」

「――おーい、アスト。今日のメシ、白鳥亭で食おうぜー!ついでに今日の覗きの件についても話を……」

 そんな陽気な声がかかる。

 平均的な身長、ぼさっとした緑の髪、同じ緑色の眼。何故か何時でもTシャツ短パンというラフな格好をしている。

 スギュラル・ベーダージュ。声の感じの通りに、陽気な性格。成績は学習・戦闘両面とも低め。凄まじい程のポジティブ野郎。

「白鳥亭か。んー……ここ1週間ぐらい、あそこには行ってないしな。行くか」

「おう!それで、覗きはどうする!?」

「そうだな……昨日はあそこでも見つかったから、それ以外かつ見つかりにくい場所……」

「わしの目の前で話す議題として、それは良いのか……それに、御主らはいい加減に止めようとはせんのか?」

「止める?なにそれ?」

「失敗しても、明日があるさ!」

「御主らは……」

「まあ、とにかく白鳥亭に行くか。腹が減ってはなんとやら、ってことわざも昔にあったらしいからな」




 ――白鳥亭(しらどりてい)――

 白鳥亭は、主に鶏肉を使った料理がある、定食屋。学院の生徒達からも人気がある店だ。

 木造で、昔にあった『ワショクテン』っていう店を参考にした造りらしい。出入り口には、木製の扉だけではなく、のれんが掛かっている。あと、メニューの中でも、特に鳥のからあげ定食が人気。定番と化している。

「お邪魔しまーす、おふくろさん」

 店の中にはいると、学院の生徒たちもいるなか、一人の人物と目が合う。

 その人物は、こちらを見たとたん、少し驚いたような表情をしてから。

「ん?……ああ、アストかい。ここ一週間ぐらい見なかったけど、どこで何してたんだい?」

 ――レテル・ナンバレア。ここ白鳥亭の亭主で、アストが言い出した『おふくろさん』という呼び方が定着している。独特の雰囲気を醸し出しており、どこかおちつく。カッポーギという、昔にあった服を着ている。

「んー、男の夢とロマンを追いかけてた!」

「はは、そりゃ青春的な事だねえ。んで、何にするんだい?」

「鳥から定食!」

「あいよ。――そこのミュリスとスギュラは?」

「では、手羽先でも頼もうかの」

「俺も鳥から定食でー!」

「はいよ。じゃあちょいとばかし待ってな」


 テーブルで待つこと数分。おふくろさんではなく、ある青年が料理を持ってきた。

「お待たせ」

「お、センカ。今日も店の手伝いかよー、たまには遊んだ方がいいぜ?」

「そういう訳にもいかないよ。母さんには、迷惑かけられないし」

 高身長に、黒く、目が隠れるほど長い前髪。おふくろさんと同じカッポーギを着ている。

 センカ・ナンバレア。おふくろさんの息子で、非常におっとりしていて、かつ優しい性格。戦闘は苦手なものの、凄く頭がいい。そんなこともあってか、地味にモテる――が、恋愛などについては非常に鈍感。

「センカ。次。早く」

 そこへ、厨房から少女のような声が、センカに呼び掛ける。

 ――低身長、短く薄い青色の髪、黄色の目。なぜかカッポーギではなく、黒いエプロンを着た少女。

 メリアーネ・トラージュナーヴ。一つ一つの単語を区切る、独特のしゃべり方をしている。これでも同じクラスメイトで、ミューリエスよりも子供扱いされることが多いが、本人は気にしていない。センカとは反対で、勉強が苦手だが、高い戦闘力を持つ。センカ本人を除き、メリアーネが彼を好きだと言うことは、クラス全員が知っている。それもあって、よく一緒にいる……というか、だからこそ、白鳥亭で働いている。

「ああ、ごめん。もう少し話していたかったけど、こっちはこっちで忙しいや。またあとでね」

 そして、センカが厨房へ向かったところで。

「センカ、まだメリアーネの思いに気づいてないのかのぅ?」

「多分、ね。でもさ、メリアーネが一番センカの事を好きなんだから、いつかは結ばれるよ!」

「けど……メリアーネは感情表現が下手だからなー。早くしないと、どっかの誰かに捕られるんじゃないか?」

 そんなアストの声が聞こえたのか、メリアーネは遠くでビクッと跳ねていた――

「……センカ。鈍感。(センカは鈍感だ)」

「え?ああ、早く運ばないと、お客さんに失礼だもんね」

「……違う。……センカ。鈍感(違う。……センカは鈍感だ)」

「ええっと……僕、何かしたっけ……?」

「何も。故に。鈍感。確定。(何もしてない。だからこそ、鈍感だ)」

「な、何か理不尽じゃないかな……?」

「全く。理不尽。センカ。(全くもってそうじゃないし、むしろ理不尽なのはセンカだ)」

「僕、何か理不尽なことしたっけ……?」

「……本当に、鈍感……いい加減に気付け、このバカ……」

「え……えぇぇええ!?な、何か怒らせちゃった!?ああ、でも料理も早く運ばないと……わああああ!」

 そんな会話をBGMに、3人は冷めないうちにと食べ始めた。




「あー、美味しかった」

 メリアに怒られるセンカの姿には、誰も特に気にすることはなかった。

「では、わしはここらで宿舎に戻るとするかの」

 そう言うミューリエスは、学院へ戻ろうとするが。

「……ん?なあ、アスト。結局、今日は覗き、やるのか?」

 その発言に、足を止めてしまう。

「いや……昨日の今日だ、やめた方がいいだろう。やるなら明後日あたりだな」

「了解。クラスの皆には伝えておく」

 急に変わった態度と雰囲気に、なぜか悪寒を感じる。

「ああ、たのむ」

 その直後。大きな声でスギュラルが叫び、それにアストが続いて叫ぶ。

「――男の夢と!」

「ロマンの下に!」

 最後は息を合わせ、二人が共に叫ぶ。

「「また明日会おう、我らが兄弟よ!」」

「まったく、お主らは……」

 ミューリエスは、周囲の視線がとても痛く感じた。




「……………………」

 そこは、ヴィレッジェナード学院を一望できる丘。

 そこに、一人の少女がその景色を眺めていた。

 時刻は夜。学院や商店街には灯りが点き、空には星が輝いている。

 細めな身体、銀色の髪、青色の瞳。黒と白を基調としたブラウスに、スカートを着ている。

 アリス・グランディア――元・名家のお嬢様。元と言うのも、幼い頃に家が破産し、父と母も死に、今ではこの学院で引き取っている状態だからである。しかし、本来であれば英才教育でも受けて優秀であったハズだったのだろうが、今では学習平均以下の戦闘もダメダメな――この学院の、一人の生徒だ。

「よう、アリス」

「…………!……アスト、君……」

「いつ来ても、良い眺めだよな。ここ」

「……うん。アスト君が、私の……初めて、この手を握ってくれた時に、つれてってくれた……私の、思い出の場所」

「は、はは、そう言われると、何かこう、恥ずかしいな!」

「あ……うん……そう、だね……」

「なあ」

「……なに?」

「俺さ。昔言ったことあるよな。世界を支配してやるー、って」

「……うん。覚えてるよ」

「んでさ。俺って――今まで、自分で言ったことは、絶対にやって来たんだ。だからさ、この状態を機に――」

「…………」

「ちょっと世界、征服しようと思うんだ」

「…………世界征服……」

「唐突でごめんな?でも……アリスだって知ってるよな。この世界が、また昔と同じことをしようとしてるのが」

「……うん」

「きっとさ、つまんないと思うんだ。殺して、殺されて、死んで、死なせて。誰もそんな世界、本当の意味で楽しむことなんかできない」

「…………」

「それでさ。お前にも、もちろん他の皆にも。来てほしいんだ。一緒に」

「……行くよ……絶対……皆も、そう言う……必ず!」

「わかった。じゃあ、世界征服――開始といこう!」

 そうして青年は、星の河が流れる空に向かって笑った。




 第三次世界大戦、第四次世界大戦、第五次世界大戦、第六、第七――

 人の手による地球汚染は完全な形となり、人々は他惑星への移住を余儀なくされた。

 そして――他惑星で、人は更に進化した。


 ――『獣人族』。とある惑星で成された実験によって、一人目の獣人が誕生し、それからも実験を繰り返す事によって数が増え、種として定着。更に、当初は短かった寿命も種族としての最適化によるものか、通常の人と同じとなった。そのどれもが高い身体能力を持ち、動物によって大まかな種別があり、地を走り強靭な爪や牙、高い運動神経を持つものを『獣種』。空を飛び、翼と強靭な爪を脚に持つ『鳥種』。様々な生物の特性を取り込んだ合成獣(キメラ)のような姿を持つ『悪魔種』の三種に分けられている。一般的には知られていないが、更に細かい種族が別けられている。


 ――『機械族』。ある時、どこかの惑星で造り出された『意志を持つ機械』が人に反乱を起こした。この反乱において、圧倒的戦力差で機械軍は勝利を納める。更には種としてすら定着しはじめ、意志を持つが故、ついには『不完全故の意志の力の検証』を目指す結果に至る。これにより種として完全に定着。機械族は正式に1種族として認識されるようになった。型にも様々な物が存在し、一般的なヒト型、伝承を元に再現されたドラゴン型、それらを合わせた竜人型、獣人型、天使型、悪魔型等、現存する生命体からも参考にし、新たなる型を産み出している。尚、現在に人類が生存する全ての惑星に、超巨大移動式要塞型――実に、直径30キロにも及ぶ機械族――が配置されている。


 ――『天使族』。とある惑星の先住民。その全てが白い肌に美しい容姿、翼を持ち、自由に空を飛び交うことから、古代に存在した文献を元に『天使族』と呼ばれるようになった。その力は通常の人類と比べて非常に高く、とある報告では『天使族の子供一人が、大の人間族10人を一方的に叩きのめした』とされている。しかしながら、機械的技術はまるで無いに等しい。このことから、同族による戦争等は皆無だったと予測される。その力を研究しようとした人間族は数多くいたが、いまだにその全貌が謎に包まれている。


 それに留まらず、純粋な人間族は、更に進化した。

 それが能力(アビリティ)と呼ばれるもの。あるものは翼無き身で宙を舞い、あるものは獣人族よりも俊敏な動きを見せ、あるものは機械族が造り出した超硬質金属を素手で粉砕したとされる。これにより、人類は進化の道を、加速して行く――


 そうした時より、長い時が流れ……


 人は再び、地球へと住めるようになった。


 だがしかし、それでも尚、人の業は潰えず。


 数えることすら忘れ去られた世界大戦が再び、始まろうとしていた。


 その混乱に乗じて、子供の頃にいい放った、荒唐無稽な夢。


 全世界を統一する――地球に限らず、今人類がいる全ての惑星を、支配する。


 それを実現させようと、とある人物が立ち上がる。


 これは、いつか本当に世界を支配する――


 自分の思いを、想いを、意思を、意志を、幻想を、思想を、どこにいようと、どんな時であろうと――


 理想を相手の心に伝達させる能力を持った――




 とある、最弱者(ウィーケスター)の物語。

おはようございます。たとえそちらが夜中でも、おはようございます。

さて、こうして始まってしまった「理想伝心のウィーケスター」。ちなみに、ウィーケスターは英語で最弱を意味する「ウィーケスト」から来た造語です。でもちょっと気になっているのが、ウィーケスターって実際に最弱者という意味で使われているんじゃないか、といったところです。一応はグーグルで検索してます。大丈夫だといいなぁ……

設定は盛りました。ええ、盛りました。正直、これいつか失踪する気が……ああ、毎日更新ではありません。早くて一週間、遅くて三ヶ月ぐらいの幅広いペースでやっていきます。そこら辺期待していた方々、すみません。でもこれ、ホント書いてて思ったのが真面目に書いてたら完結に何年かかるんだろう……?……ネガティブはダメですね。主人公があれなのに。まあ、とりあえず今回はここらへんで。では。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ