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生き残り学園   作者: スクアーロ
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プロローグ

 何だか騒がしかった自己紹介イベントが終わって1週間がたった。


寮を出てコンクリートで囲まれた無機質な道をゆっくり歩く。


学校入り口正面の掲示板に新しい張り紙がでている。


  〔来週よりスキューバダイビングの授業があります。皆さんしっかり習得してください。〕


「へぇ。この学校ってダイビングの授業があるのか。変わってるな」


 俺の名前は村上哲人。一般的には高校2年生になるのだが、この現世うつしよ学園に転入した時点で普通の高校生とはいえない。公にはその存在さえしられていない。所在地不明。入学条件は重い借金を抱えていることだ。ほとんどの生徒は親の借金のために入学することになる。一族や家族の暮らし支えるため、あるいは半強制的に入学するのだ。


「転入してもう2週間になるけど今のところ何もないんだよな」


全寮制で卒業まで地下での監禁生活。壮絶な学園生活を想像していたが地下と言う要素を除けば意外に快適だった。日向ぼっこするエリアも点在している。なぜか最新技術で空や擬似的な太陽光が再現されていて地上と勘違いしてしまえるほどだ。


 購買部・食堂のメニューもそれなりに充実している。生活必需品も支給されるので普通に暮らす分には日々の生活に困ることはない。嗜好品等も高価なものでなければ仕入れてくれる。ここではお金は使用せず、専用のカードでの支払いとなる。卒業すれば借金も含めて全て無料となる。


 借金についてはこの学園で実施される特別授業で良い結果を得られると返済することもできるようで、晴れて地上へ開放されるようだ。


「そろそろ朝のホームルームが始まるな。行きますか」


 2-1組に到着した。学園では1クラスが基本30名。1学年3クラス編成となっている。クラスで欠員が出ると各地から補充されるらしい。欠員とはなんなのかあまりイメージが湧かないな。


 クラスの雰囲気はどんよりしている。転入初日の明るさとは一変してどんより暗い。誰もが黙って座っているだけだ。たまにどこかでヒソヒソ声が聞こえてくる。席に座ると担任の六角先生が来た。中年の少し調子のいいおっさんだ。


「おーっす。みんな。今日も元気か。ホームルーム始めるぞ」


「早速だけど来週から4泊5日の修学旅行がある」


そのとき教室の空気が変わった。何ともいえない緊張が走る。


「山あり海あり楽しいぞ。ダイビング経験のない奴は授業でやるからこの機会にしっかり習得するように。」


「今回はスポンサーがいっぱい集まったから盛大なモニター作業になるぞ。皆がんばれよ」


言うだけ言って先生は出て行った。


 さっそく修学旅行があるのか。皆の様子だと尋常ではなさそうだけどこれが特別授業に分類されていそうだな。スポンサーからのモニター作業って何だろうか。やっぱり誰かに聞いてみるしかないな。


  -昼休み-


「あのー。ちょっといいかな」


クラス委員長の大谷さんに話しかける。


「何?転校生の村上君」


訝しげそうにコチラを見ると眼鏡を直す。


「ああ。聞きたいことがあるんんだけど」


「何」


冷たそうな声音で聞き返す。


「この学校のこととか、クラスの感じとかこの時期に修学旅行とか色々・・・・・・」


「・・・・・・・・あなたのせい・・・・・・ってだけでもないのだけれど。答えられないわ。いづれわかるし」


「えっと・・・・・・・そうなの」


一瞬静寂が流れる。


「じゃあね」


そう言うと踵をかえして廊下の奥へ歩き始めた。


「なんなんだよ」


なぜ邪険にするのか意味がわからない。


「村上君」


廊下の奥からこちらを見ている。


「ダイビングの授業を真剣に受けたほうがいいわよ」


言い終わると角を曲がって消えた。


「本当に意味がわからん」


・・・・・・・・・・・


 それから淡々と時間が流れる。海の生き物は好きなのでスキューバの授業も悪くない。他の皆もキビキビと授業をこなしている。


 潜水訓練の施設は充実している。休憩所・道具・照明・広いプールで深度も様々あり海水を使用している。その無意味さに疑問も起こる。


 授業で使う潜水用具はシンプルで先進的なデザインで高価なものそうだ。タンクは軽量で水中でも酸素の交換・供給が可能となっている。全体的に装着しても軽く動きやすい。


 夜間用のダイビング訓練もあり、その徹底ぶりにも呆れてしまった。暗い水の中をライトだけで進むのは好きではない。一瞬何もない暗闇で何かが見えたような気がした。音も聞こえる気がする。何もない空間に自分だけが漂う中で時間の感覚がなくなる。


 ふと我に帰る。上下感覚も覚束ないまま淡い光の方向へゆっくり水面に向かう。


 プールから出ると他のクラスメートも撤収準備にかかっていた。もうさっさと帰りたい。


 特に雑談することもなくぞろぞろ歩いて帰る中、ふと口から言葉が漏れた。


「もしかして嫌われているのかな」


・・・・・・・・


-修学旅行当日-


 教室にいたはずなんだが、気がつくと船の上だった。ここはどこだろうか。見渡す限り青い海に青い空・暑い日ざし、久々の地上の空気を思いっきり吸って心が開放されそうだ。おそらく日本ではないだろう。どこか外国の南の海と言ったところか。カモメが飛んでいる。


 ボーっと景色を眺めていると六角先生がやってきた。


「オリエンテーション始めるぞ。しおりを配るから目を通せよ」


 配布されたしおりを見て目を見張る。本気なのか。ダイビングの実戦経験が乏しいだけに不安しかない。下手をすると死んだりしないのか。


「いいか。今回は100社から最新技術の詰まった製品が提供されている。その性能テスト及び心理実験及び諸々が今回の修学旅行の目的なので皆がんばるように」


「いつもどうりだがもし不幸な事故が起こって死亡した場合も借金は減額される。それまでにモニター試験に貢献すればするほど遺族にお金も入る事例も多々あるので安心してほしい。」


「ただし参加者同士で直接殺傷することは禁止する。発覚した場合ペナルティが発生するからな」


「今回は水中カメラでモニタリングされている。様々な種類のカメラが配置されているが特に気にする必要はない。特別に1つ披露してやろう。あそこを見るんだ」


 指の先には海があるだけなんだけど。と思っていると何かが海にいる。クジラのように大きい。巨大な背びれが海面に出ている。アレは巨大なサメではないか。恐怖の悲鳴が甲板を覆った。


「静かに。あれは最新技術を駆使して作られたシャーク1号君だ。本来は映画撮影用や調査用として作られたものだが今回はカメラ機能も搭載されている。」


 大きな口を開けると悠々と船の周りを泳ぎだす。アンテナも飛び出てきてどうやらロボットのようだが無駄に本物そっくりな迫力がある。なんとも心臓に悪い。


「あれが何対か配備されているから気にしないように。」


「では全員そこに積んであるケースを1個ずつ持っていくように。必要なものが入っているからな。2時間後に始まるからそれまでに準備するよう。解散」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 波の音だけが聞こえる。皆がケースを受け取り準備を始める。取りあえずケースをもらうと船の端に移動した。ケースを開けると携帯食料やライト・小ぶりのナイフが入っている。それらを耐水ポシェットに収納するとケースの底に紙束が入っていた。


「??なんだこれ。海洋生物調査レポート?」


 ここに書いてあるのはどうやらこの海域に生息している危険生物の資料のようで、主にサメについて記されている。

「この海域に生息しているサメはイタチザメ・ホホジロザメ・オオメジロザメ・シュモクザメ・ヨシキリザメ・ヨゴレザメetc・・・・・・・ってほとんど危険なサメじゃないか。」


 資料にはサメへの対処方法も記載されている。これによればサメによる被害は実はそれほど多くなく、正しい知識と冷静な行動を取れば被害を防げるそうだ。


「・・・・・そんなことができれば苦労しないっての」


 急に遭遇することを考えてみれば恐ろしい。さらにサメについては解明されていない部分も多く、最終的には運・不運が影響されそうである。


「んっ?これは?メガロドン計画?」


 最後のページには実験体についての記載もある。ホホジロザメをベースに改良されたものがいるらしい。品種改良された種がサメ以外の生物でも3種ほど表記がある。この海域に放されているそうだ。記載がそこで終わっている。


 とんでもない嫌な予感しかない。この海の下でとんでもない生き物たちが口を開けて待ち構えているような気がする。しばらくその場で海中を見つめ続けた。

















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