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51 爆砕


「さて……では前進しますか。撤退させたのは後方の集団だけです。行く手にはまだ無数の敵が残っているんですからね」

「まだ道程の半分くらいだな。ソフィア、レイル、遅れるなよ」

「オーヴェルを倒すまでは前進するだけよ。遅れてなんていられないわ!」

「行こう、ジン!」

「ああ。一気に駆け抜けるぞ」


 迅の号令が合図となった。

 足下を蹴り、四人は前方へと疾駆する。


 若干の傾斜がつけられた石畳の路のため、軽い登坂運動が前進に加わる。が、四人はそんな些事を気に掛けていなかった。むしろ駈ける速度は天井知らずに上がってゆく。


 行く手を遮る敵すらも、ただの的に過ぎない。

 さながらモグラ叩きの要領である。視界に捉えた次の瞬間には、攻撃を敢行している。「見つけ次第撃滅せよ」を地で行く戦術――。迅は銃と短剣で、蒼衣は二本のナイフで、それを実現していた。先刻の騒動が伝わっているのだろうか、もう人質を取ろうと目論む者はいない。


 侵攻は、続く。


 なおも四人は走り続ける。

 走りながら、銃弾や斬撃を確実に命中させていた。


「ぐグぉあア!」

「ひぎっ」

「ぅああガあ……あ、あ……!」


 四人が通った後に残るのは、倒れた傭兵のみ。

 敵は完全に圧されていた。

 もはや物の数ではない。出てきた側から、迅と蒼衣が各個撃破を繰り返している。


 ソフィアもレイルも魔術で敵を迎撃しようと、再三試みてはいた。が、照準先は既に迅が銃弾を送り届けているか、蒼衣が急速接近し斬撃を放っているか。そのいずれかに終始している。

 つまり現状、ソフィアとレイルは領主館へ続く路を、ただ走っているだけ。


「……ねぇ姉さん。僕たち、やる事なくない……?」

「うん。私も同じ事を思ってた。というかジンとアオイが異常なのよ。これじゃ完全に私たち役立たずよね……」

「そんな事はねぇよ」


 敵への攻撃を停止せぬまま、迅が応じた。


「お前たちは魔瘴獣との戦闘が控えてるだろ。むしろ領主館からは、魔術を使えない俺と蒼衣が役立たずになるんだ。今のうちに楽しておけ」

「そ、そう言ってくれるのはありがたいわ。ありがたいけど……」

「だよねぇ……」

「気にしてるのか? だったら今から武器に魔術付与(エンチャント)を始めてもいいんだぜ。『付与魔術の重ねがけ』みたいな事だって出来るんだろ? 五分でタイムリミット、その度に再度付与、ってのはさすがに面倒だ」

「重ねがけ……? 確かに出来るけど、……武器に魔術付与(エンチャント)を多重詠唱しても効果は極めて薄いわよ? 一回目の付与で100だとしたら、二回目以降は1かそれ以下しか強化されないわ。制限時間だって、付与対象の質量だけで決定されるし」

「なるほど。ならベディウスと交戦するまで温存だな。……しかし何ていうか、いちいちルールの多い魔術だよな、魔術付与(エンチャント)って。覚える事多すぎだろ」

「ルールなら他にもあるわよ? たとえば武器を振るときの速――、」

「……っと。ソフィア、無駄話はそこまでだ。見えてきたぞ」

「え?」


 迅の言葉に、走りながら目線を持ち上げたソフィア。

 途端驚愕した。まるで気付けなかった、意外なほど近くに目的地が迫っていたと。それだけ必死に迅と蒼衣に追随していたのか。


 言うまでもない。領主館だ。


「……ついに辿り着いたわね、ここまで。元凶の根城!」

「初めて間近で見るが……割とデカいな」


 エピーヌ領主館――。この町における、最大の屋敷である。

 それは入口に立ち見上げるだけで容易に理解できる。どれもこれも、建造時の領主の財力を物語る装いなのだ。


 まず「三階建て構造の建築物はエピーヌに唯一つ」という事実。元の世界では低い部類であるにも拘わらず、いざ目の前にすると迅は妙な威圧感を覚えた。恐らくは慣れの問題だろう。町に存在する二階建ての家々に感覚が狂わされたのだ。赤茶色の煉瓦造りという色彩も、迫力を増しているように感じられる。

 敷地周囲は町の入口と同じように、円形の壁で囲われている。ソフィアの話によると、屋敷への出入り口はこの西側大通りにしか無いらしい。


 そして、……門には、古代エジプトのオベリスクもかくやという威容を誇る柱。

 半径で1メートル、高さにして約5メートル。それが左右に一本ずつ立っている。


 迅がニヤリと口元を歪めた。

 これが要の柱――そう呟きながら。


「ソフィア。当初の予定どおりだ。ようやく出番だぞ」

「……確認なんだけど」

「ん?」

「ほんとにいいの? 本気で撃っても」

「ああ。遠慮は一切いらない。思い切りブチかましてやれ」

「そ。――まあ遠慮はしないけどね。私が一番好きな魔術を全力全開で放てるんだからっ!」


 悪辣な笑みがソフィアの口元に浮かぶ。

 右手にいつもより意識を集中させ、魔力を高めてゆく。

 ――いける。

 確信を伴い、ソフィアは疾駆の加速を殺さぬまま、なおも意識を高めてゆく。


 四人の旅路は、既に最終段階へと移行していた。

 門を通過するまで5メートル。前方にまだ敵の姿は見えない。


 4メートル。

 敵はまだ見えない。


 2メートル。

 尚も敵は確認できない。

 このまま前進しても問題なしと判断。


 1メートル、……――通過。


 瞬間、ソフィアは後方へと振り向く。

 次いで魔力の満ちる右手を、勢いよく突き出した。


 柱と柱の間、門の中央(・・・・)へと。


「撃つわ! みんな離れてっ!」


 敵にも味方にも。この場に存在する全ての者へ向け、高らかに叫ぶソフィア。

 そして魔術を撃ち放つ寸前、数時間前の「行動指示」の光景が脳裏に去来した。


 ――フロエの泉を発ち、このエピーヌを目指す道すがら。

 ソフィアはひとつの指示を迅から受けた。

 それは「後続の敵を分断する」という目的に準じたものだ。


 幾ら迅と蒼衣が一騎当千の戦士とて、後続部隊投入が続ければ消耗は避けられない。ましてや領主館には、敵側の最大戦力が待ち構えているのだ。魔瘴獣ベディウスという、戦力バランスを根底から崩壊させる敵が。そんな獣との戦闘中に水を差されたくはなかった。ここまで目立って、出来る限り後続となる敵を排除したのを無駄にはできない。

 故に「敵を領主館に近寄らせない」策を講じる事となった。


 解決の糸口は、領主館をよく知るソフィアの発言であった。

 「柱を倒せばいいんじゃない?」――この提案により、方針は確定した。


 即ち。

 二本の柱の爆破(・・・・・・・)である。




「――『爆劫衝刃〈滅閃〉イラプション・ブレイズ』!」




 「ズゴオオォォォオン」、と。


 詠唱と同時、辺りの空間が爆ぜた。


 衝撃。

 轟音。

 熱波。

 閃光。


 それら全てが一度に、一瞬に。

 周辺一帯の酸素を食らい付くし、地を抉り、赤い爆炎の姿を得る。

 

 そして、衝撃は狙い過たず。

 二本の柱の根本へと、その業炎の顎で食らい付いた。


 ――ぐわん。グラリ。


 下部を半分持っていかれた白亜の巨柱が、その安定を失ってゆく。


「ぅおああァッ!? ……に、逃げろオオオォッ!」

「倒れるぞ!」


 周囲に集う兵も気付いたらしい。我先にとこの門からの逃走を開始した。

 下敷きになれば無傷では済まない規模である。先刻の爆発で、すでに近寄ろうとする者が居ないことも功を奏した。


 やがて……「ドォン」と衝撃を伴って。

 二本の柱は、折り重なるようにして倒れ、門を完全に封鎖した。


「よしっ! 作戦どおりね!」

「さすが姉さんだ、これで後方の連中は領主館に入れない!」

「永久無限に通行止めって訳にはいかないけどな」

「いずれ復旧されるでしょうね。短く見積もって20分くらいでしょうか。でも迅とわたし、それにソフィアとレイルがいれば充分すぎる時間です」

「ああ。とっとと屋敷に入ってケリつけるぞ。復旧されるまでがタイムリミットだ」

「内部の案内は僕たちに任せておいて。数年前まで住んでいた所だしね!」

「ジン、私たち姉弟もここからは本当の戦力になれるわ――。鬱憤が溜まっていた分、存分に暴れさせてもらうわよ」

「ああ、ベディウスに叩き込んでやれ。数年分の鬱屈を。……――っと、早速お迎えだ」


 言葉を切って刹那。

 屋敷の直近に控えていた傭兵たちが駆け付けた。


 迅は銃を構え、数発銃撃した。


 が、一切焦ることもない。先刻の突破芸と何ら変わることもなく、彼らへと鉛の弾丸をお見舞いした。

 蒼衣も二刀を手に、それへと続く。


「迅、残弾数は」

「マガジン一本プラス11発。……今さらに一発減った」

「つまり25発ですね。優秀です。喜んだ事でしょうね、室長がここにいれば」

「あの人がここに居たら中央突破はまず許してくれないだろ……」


 目的地を目の前にし、状況は幾ばくか楽になっていた。こうして二人が攻撃中、軽口を叩けるほどに。


 蒼衣による追撃もあり、傭兵はすぐに数を減らしてゆき……。

 やがて、立っている敵兵の数はゼロと化した。


「排除完了、ですね」

「……予想より少なかったな。拠点なんだから山ほど敵がいると見積もってたが」


 カラン――……。薬莢が石畳を叩いて、転がってゆく。


 この門内の敵兵は、人数にして七名程度だった。

 屋敷へと至る最終防衛地点としては些か心許ない数である。おそらくは大勢が町の警邏、そして残りが屋敷内の守備固めに廻されているのだろう。

 実にオーヴェルらしい兵員配置である。「自分さえ生きていれば何度でもやり直せる」、あの男はそう考えているフシがあった。


「フン……やり直させやしねぇよ二度と。ここで終わらせる。全部」


 少しだけ。ほんの少しだけ、静かになった周囲。

 迅は唯一騒がしい後方、柱の瓦礫に塞がれた門を振り返った。


 傭兵達の叫び声、呻き声、怒号。様々な陰鬱サウンドが聞こえてくる。

 が、それらに興味はない。迅の視線は倒れた二本の柱、ただそれだけに縫い止められていた。


 ――こんな大爆撃、凡百の魔術師には破壊など不可能だった。

 が、ソフィアの魔力は無尽蔵であり、魔術など際限なく放つことができる。またそれに加えて、彼女はトップクラスの魔術師。故に上位の爆発魔術を「魔力上乗せで」詠唱する事が可能になった。本来の爆発魔術の出力では、あの柱を倒すまでは至らない。

 ソフィアだからこそ出来た芸当と言えよう。


「迅。どうしたの?」


 ソフィアの言葉で現実へと引き戻される。


「……凄ぇ爆破解体だな。いつもお前が放つ爆発魔術とは、威力が段違いだった」

「それは当然よね。『爆炎招来(エクスプロード)』の上位術『爆劫衝刃(イラプション)』、さらにそこへ範囲拡大を追加、ダメ押しとばかりに魔力の上乗せ(アディッション)まで施したんだから! まぁ最後の上乗せは気持ち程度ね。さっきも言ったけど、大した効果は上げられない方法だから」

「……何かよく分かんねぇ。が、お前の凄さだけは理解したよ」

「えっ? う、うん? な、何か……初めてあなたに褒められた気がするんだけど……」

「そうか? 常々評価してるつもりだけどな。レイルも含めて」

「そう。じゃ、じゃあ事ある毎にもっと褒めてもい、いいわよ! わわわわ私って褒められて伸びるタイプだからっ! ……い、行くわよ!」

「ああ」


 門から屋敷まではすぐだ。

 レイルと蒼衣は既に扉の側へと接近し、内部の気配を窺っているようであった。遅れを取るわけにはいかない。そそくさと先行しているソフィアに追随する。


 ……が。

 あえて、迅はもう一度だけ、肩越しに後方を振り返る。

 次いで極めてささやかに、誰にも聞こえぬ声量で。小さく呟いた。


第一段階クリア(ワン・ダウン)


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