緊張と
瑠璃は薬局ではなく改札の前に立ち、テニスの主審のように何度も首を振っていた。尋ね人はただでさえ小さい。人混みの中でいち早く、誰よりも発見するための努力、不可抗力だったが不審者度がうなぎのぼりだ。
偶然にも違う改札を出たマルコは話しかけるか否かを彼女の死角で躊躇っていた。彼もまた迂闊に動いて目立つわけにはいかない。瑠璃以外のスケアリー・モンスターが近くにいるかもしれない。
辺りを見渡す。特に胡桃周辺に警戒しなければならない。
横断歩道を渡る時のように、右、左、右と確認し、声をかける。
「瑠璃ちゃん!」
今のは呼び声はマルコではない。小見山だった。彼女はたすき掛けしたポーチをばたばたと音を鳴らせながら瑠璃のもとに駆けつけた。
マルコはとっさに物陰に隠れた。胡桃周辺と同様に小見山にも警戒は必要だ。もしかしたらそれ以上かもしれない。
小見山の超能力は知っている。透視能力だ。だから、すでに見つかっている可能性が高い。それを確認するためにも小見山の死角となる背後に回った。その過程で少しでも気付いてる素振りを見せれば黒になる。
状況はもっと深刻な可能性がある。瑠璃が小見山を呼んだのかもしれないからだ。言い方が悪いし事実をねじ曲げた表現をするが裏切られたのかもしれない。魔女の手先を捕まえるためにスケアリー・モンスターを招集した可能性もある。
確認するためにも二人の会話が聞く必要がある。人混みを上手く利用したら、背後にはすんなりと回れた。予想以上の結果だが成功したのはマルコの隠密スキルが上がったのではなく、小見山が瑠璃との会話に夢中だったからだ。
「わぁ瑠璃ちゃん久しぶりー!」
「そっすねー! 久しぶりっすー!」
嬌声を上げて抱きつく二人。離れ離れになった時間はさほど長くないはずだ。この様子だとここで出会ったのは偶然のようだった。
「今日はどうしたの? 暇?」
「えと、今日はっすね……」
「暇だよね! だったらさ、一緒に皆のところに行かない?」
「皆って……」
「スケアリー・モンスターのところだよ! 騙されていた瑠璃ちゃんが脱退なんておかしいよ! 悪いのはマルコちゃんと魔女だよ!」
小見山の訴えにマルコは心が痛む。正体を知らなかったとはいえ、あの場では優しく接してくれた少女に咎められて何の呵責も感じないほど超人ではない。
だけども彼女の言うことをまるごと鵜呑みするほどお人好しでもない。何せ、それを否定するためにも彼はこの場に立っている。自分だけでなく、透の無罪を証明するために彼は暗躍している。
ふと、透の言っていた写真の使い道についてを思い出した。彼女は脅迫するなんて道理を外れたおっかない提案をしていた。だけど今になってみて、その真意や彼女の見通しには驚嘆させられる。きっと、ここまで見通していたのかもしれない。隙は多いけど侮れない人だ。
ここで写真を材料に脅迫すれば自分たちの安寧な生活に支障が出るが、瑠璃はスケアリー・モンスターに復帰できないけども大切な親友とは復縁できるだろう。透の懐の深さは中央アメリカ海溝より深い。だけども、まだまだだ。彼女はまだ、甘いし、甘えている。
「お二人は悪くないっす! 悪いのは」
「そうです! 悪いのは胡桃さんたちです!」
隠れるのはここまでだ。マルコは大見得を切り、火蓋を切り、博打に踏み切った。
「ま、マルコちゃん……」
小見山は驚くも、眼差しが鋭くなる。睨みつけてるつもりだろうが、アリクイの威嚇並みに可愛らしい。
明らかな敵対にもマルコは動じなくなっていた。目の前に親友の不幸の原因、さらには親友の汚名返上のチャンスが転がってきたのだ、気が引き締まっているに違いない。しかし気合が入っても彼女は無力で非力だ。こちらは格闘技の腕に覚えがある上、念動力という隠し玉を持っているのだから何の脅威にもならない。
だから彼女の次の一手は簡単に読め、対策を打てた。
バッグに手を伸ばす彼女の手首をすかさず掴んだ。
「すみませんが電話ではなく、もうちょっと僕と話をしてください」
「……っ、この!」
もう片手が平手打ちしようとするも空を切る。その手もあっさりと捕まえてしまう。当然振り払おうとするも念動力と柔術の組み合わせで抑えこんだ。
「ど、どうして離れられないの!」
「今はそれにお答えできません。それよりも今は」
力技で説得しようとしても抵抗は終わらない。
「瑠璃ちゃん! 今だよ! マルコちゃんを捕まえるチャンスだよ! これで、瑠璃ちゃんの無罪を証明できるよ!」
機転が効くようでマルコは少し焦る。
逆に言えば、少し焦っただけで後は静かに見守っていた。
「……」
「瑠璃ちゃん……何してるの……早く、しないと」
瑠璃も静かに何もせずにいた。
「こみやん、黙っててごめんっす……悪いのはウチっす。マルコちゃんも魔女……透さんもウチが呼んだんす」
「なんのために」
「胡桃さんを追い出すためにっす」
「……本当なの」
「本当っす」
そう言い切られ、小見山は沈黙する。
街は動き続ける。三人の諍いも街の一部として当たり前のように受け止められ誰もが気を止めない。
「なんで……」
マルコの手にも彼女の震えが伝わる。
「なんで言ってくれないかな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
小見山は脱力し、膝から崩れ落ちた。




