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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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キャンプの夏

 深夜の小さな工業地帯の一角。とある倉庫だけが明かりが灯っている。残業でも無ければ消し忘れでもない。


「これで全員揃ったか」


 整列した面々の前で腕を組むのは胡桃だった。彼女の目の前に立っているのは作業員ではない。全員スケアリー・モンスターの所属している者だ。日中に一度は解散したが、その日のうちに招集させられていた。


「ボスと、広見さんだけはいません」


 小見山が後ろから声をかける。


「広見ぃ??? ……あぁ、ボスに色目使ってたババアビッチか」

「……ババアってそんな歳変わらないじゃん」

 

 整列している誰かの小声の発言に、胡桃は過剰に反応する。


「誰だ、文句あるやつはいるかぁ!? いるなら出てこい!?」


 当たり前に名乗り出る者はいるはずがない。


「おい、田中。今、文句が聞こえたよな?」

「はい……確かに聞こえました……」


 答えたのは佐藤だった。


「誰か、言ってみろ」

「…………わかりません」


 気に入らない答えをするものだから、胡桃は拳を振り上げた。


「ひぃっ」


 かと思えば、あっさりと下ろした。


「ちっ、どいつもこいつも弛んでやがる」

「胡桃がビビり過ぎなのよ……ふあぁ……」

 

 呑気に欠伸をするのは猿若だった。


「はぁ!? ビビっているんじゃねぇ! 対策をしているだけだ」

「ふぅん、そう……というかメイク落としたいんだけど、抜けていい? そろそろ限界なんだけど」

「〜っっ! 好きにしろぁっ!」


 許可を貰うと倉庫の端っこに移動し、ピンク色の化粧ポーチから道具を出し厚化粧を落とし始める。


「胡桃、そろそろ本題を話せぞ。犬見がそろそろ寝てしまうぞ」

「……」

「犬見はいつも起きてるか寝ているかわからんから放っておけ! ったく! どいつもこいつも緊張感がないのか!」


 縮まらない意識差に、思わず爪を噛む。子供の頃からの治っていない癖でイラつくとどうしても噛んでしまう。右の親指の爪はすでに噛みきってしまったために今は左を噛んでいる。


「あの、胡桃さん。そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか、皆も起きているの限界みたいですし。それに早く帰らないと」

「帰る? バカ言え、これからキャンプが始まるんだ」

「キャンプって……テントもないじゃないですか」

「野宿のキャンプじゃねぇ、トレーニングの方のキャンプだ」


 言ってしまったのだから仕方ない。胡桃は前倒しで説明を始めた。


「来る魔女との決戦に備えて、これから30時間の短期集中強化合宿を始める! あたしたちは泣けるほどに弱い! だから1人の魔女すら捕まえられなかった! これは黒歴史だ! 一生に残る屈辱だ! 1人の馬鹿のせいで、あたしたちは初めて敗北してしまった! あまつさえ! あたしたちを信頼して卒業していったボスの手助けさえ受けてしまった! これは一生に残る恥だ!」


 説明というよりも演説だった。しかし拍手は一切起こらない、皆が細い目で見つめている。しかし誰も文句を言わずに終わるのを今か今かと待っている。

 その中で唯一不服を申し立てる人がいた。


「ちょっと待って……そんなこと一度も聞いてないよ」


 小見山だった。彼女だけが最後の良心だった。

 しかし良心なだけで、権力も超能力も非力だった。不服だけで何も変えられない無力だった。


「当たり前だ、教えていない。外に漏れたら大変だからな」

「……あなた、正気なの。これじゃあキャンプはキャンプでも強制収容所(キャンプ)だわ」

「少なくともお前のお友達よりは正気のつもりだ」

「瑠璃ちゃんは……正気だった。彼女は無実の罪を着せられている」

「どうだか。しっかし、よくまああんな奴に熱心になれるな」

「当たり前じゃない、親友なんだから」

「はっ、せいぜい友情ごっこしてくれ。あたしはあいつで魔女が釣れればそれでいい。今度こそ、ぶちのめしてやるんだ」

「個人の都合に皆を付き合わせるの」

「魔女に関しては個人じゃないだろう。れっきとした強襲にあった」

「強襲たってマルコちゃんを救うためにやったかもしれないじゃない」

「何度も言わせるな、そのマルコが魔女と一緒に協力して逃げまわってたんだよ」

「あなた達が追いかければ、そりゃ逃げるでしょう!」

「あぁ! もう、うっせーなぁ!」


 瞬間移動能力で小見山に尻もちを突かせた。


「大人しく言うこと聞けってんだ! お情けでお友達をもう一回入れてやってもいいんだぞ! それとも入れてほしくねぇのか!? あぁあん!?」


 瑠璃について脅されると最後の良心も尻込みする。それを見ていた仲間たちはやっぱりダメかとため息を漏らす。

 聴衆内で諦めムードが蔓延し支配している。


「お前ら、ぼさっとするな! まずは倉庫内を10周だ! 魔女は足が速い! 今度現れた時のために足腰のトレーニングだ!」

「ちょっと待つぞ、サンダルもいるぞ。何も用意していないどころかパジャマの奴もいるぞ」

「ああああああ! たるんでる、ほんとたるんでる! それじゃあ走れない奴はスクワットと腹筋を朝までやり続けろ!」


 まっこと理不尽な命令が終わるとシャッター前に移動したソファに腰を掛ける。


「着替える発想はないのかだぞ」

「今からシャッターは30時間は出入り禁止だ、あたしの許可が無ければ誰も通さない。ここは今から合宿地であり、要塞でもあるんだ」

「あぁ、だからソファをシャッター前に動かしたのかぞ」

「ついでにシャッターに異変があればすぐに気づける」

「でもいくら魔女とはいえ、鍵の閉まったシャッターを破れるかぞ。結構頑丈だぞ」

「わからん、でも仲間を呼ぶ可能性だってある」

「鍵は持ってるぞ?」

「ほい、ここに」


 ソファの下に無造作に投げ捨てる。


「スペアは瑠璃が持ってたままぞ?」

「それは追放した時にボスに返却した」

「飯はどうするぞ」

「小見山1人に買い出しをさせろ。あいつは良い駒だ。魔女と繋がっている瑠璃を釣れるしな」


 そう言うと胡桃は欠伸をしてソファに横になった。


「お前は寝るのかだぞ」

「当たり前だ、魔女が来た時に一番に戦える奴が眠かったらどうする」

「倒せるのかぞ、ボスの一撃も避けたと聞いたぞ」

「倒せるかじゃねぇ、倒すんだよ」

「人の話ちゃんと聞いてたかぞ」

「うっせー、寝るから黙ってろ。見張ってろ。デブ」


 泥のついた靴を履いたまま、眠ってしまう。サンダルから履き替えたのは恐らく、魔女との鬼ごっこで本来の走りを発揮できなかった反省からなのだろう。根は真面目なのか、不真面目なのか、決めがたい。ただはっきり言えばどこまでも面倒くさいタイプだ。

 諦めているのは雉沢も同じだった。何を言っても聞きやしないのだから、怒鳴られる前に大人しく言うことを聞いている。

 彼女も迫り来る波の大きい欠伸を耐え切れず、思わず身体まで反ってしまう。


「……ん?」


 ふとシャッターの裏側に見覚えのない鍵が追加されていた。それとも元々くっついていたのだろうか。

 それは背の高いボスでも一番背の高い犬見でも手が届かない、はるか頭上に備わっている。よほど高い脚立でなければ届かなそうだ。一体誰が何のために、珍百景に登録できそうなまでに謎が深い。


「おい、くる……」


 聞こうとしたが辞める。彼女は命令には真面目に返すが、優等生のような自主的かつ率先としたホウレンソウは行わない。それに今は黙ってろと命令が下っている。無理やり起こしてもデブとしか罵倒しないだろう。


「そもそも、ここは謎が多いところぞ」


 誰も使っていないはずなのに電気も水道も通っている。それなのに誰もお金を請求されていないしましてや払ってもいない。見つけてきた胡桃すらそれも知らない。

 どうやってここを知ったか聞けば、知り合いに紹介してもらったと答えるだけで、その知り合いは誰かと問われれば「うっせー! デブ!」と何も答えようとしない。

 ほんと疑うのも今さらの話だ。もう激安のスーパーを利用する時と同じように見て見ぬふりをするしかない。流れに身を任せるしかない。

 雉沢のこの現実を受け止める能力はとてつもなく高く、スマートフォンの液晶が割れた状態で帰ってきた時も何とか、かろうじて、すんでのところでトラックに轢かれる直前に正気を保った。割れた理由は恐らくボスが踏んでしまったらしく怒るにも怒れなかった。

 この怒りは魔女にぶつけるつもりだ。あとその手下のマルコとやらにもお仕置きで尻を百叩きくらいしなければ気が済まない。だからこんな暴君の下で一応は協力をしている。逆上しやすいものの超能力者としては優秀なのでそこそこ頼りにもしているつもりだ。


「ぐかぁー」


 しかしそんな暴君も今は野生を失った檻の中のライオンのように間抜けにへそを出して眠りこけている。


「……長い夜になりそうだぞ……」


 そう呟くもあともう四時間で日の出の時刻になる。

 しかし彼女の何気ない呟きは思わぬ形で現実のものとなる。

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