シャッターチャンスを逃すな
狭い部屋に全米が泣いた映画を観たわけでもないのに目が充血している者が二人いる。
そのうちの1人が正座の姿勢を崩し立ち上がる。
「そろそろ帰るっす。ほんとに色々と迷惑かけたっす」
もう一人が、
「また帰るの? 別に泊まってもいいんだよ?」
充血していないけどもマルコも止める。
「そうですよ、もう暗いですし」
「お気持ちは嬉しいっすけど、これ以上は迷惑かけられないっす。それに、あんな泣き叫んだ手前、顔を合わせているのも恥ずかしいっす……」
頬を掻く瑠璃は口調だけでなく、いつもの調子を取り戻していた。
「もしスケアリー・モンスターに異変があったらすぐ伝えるっす。こみやんとの繋がりは完全に断ったわけじゃないので出来る限り情報は引き抜けるはずっす」
「いいの? 裏切り行為じゃん」
「今のスケアリー・モンスターはスケアリー・モンスターじゃないっす。ボスのいない今は、真の姿とは言えないっす」
「まだボスを慕ってるんだ。胡桃なんかのやつの言うことだけホイホイ聞いて、ウチの言うこと全く聞いてくれないって言ってたのに」
「一字一句誤字脱字のない復唱やめてくださいっす。復唱しろって言ったのはウチっすけど」
目だけでなく顔も赤くなる。しかし恥じる様子なく、彼女は言う。
「ボスは、ウチの暗闇の割合が多い宇宙に浮かぶ、大きな大きな星のような存在っす。消えて無くならないんすよ、もう」
「ポエマーだねぇ」
透が茶化すも、
「えへへ、よく出来てると思うんすよ」
瑠璃は気にしない。盲目的になるまで夢中になっている。
「あ、そうだ」
鞄を漁り出し、カメラを取り出した。話にも挙がったインスタントカメラだ。
「写真一枚良いっすか? お二人の写真を撮りたいっす。記念に」
「えー、このタイミング? 私、目が赤いんだけど」
「瑠璃さん、また今度に出来ませんか?」
「今! この時を! 撮りたいんす! せめてマルコちゃんだけでも! 時間は取らないっす!」
「……わかりました、僕だけでも撮ってください」
しかし撮影会は時間は取らないと言ったはずなのに思ったより白熱する。
「マルコちゃん! あの時見せてくれた上目遣いを所望するっす!」
「あ、あの、それはちょっと……」
透の前であの媚び媚びの女々しいぶりっ子はしたくなかった。抵抗するも、カメラマンは相変わらず話を聞かない。
「いいじゃん、やってあげなよ。終電間に合わなくなっちゃうよ」
そんな男心を知らず、透は急かす。
「一回だけですからね! ちゃんと撮ってくださいよ!」
マルコは肩をすくめ、首を傾げる。両手を胸の前で力なく、手を合わせる。
眉を八の字に、不安げに自信なさげに表情を伺うように見上げる。
瞳は並々に潤い、雫が今にも零れそうだった。
「いただき!」
シャッターを押すと早速その場で写真が出来上がる。
その出来を見て、瑠璃は、
「あ、失敗っす。もう一度お願いするっす!」
あっさりと失敗を宣言した。
「ちゃんとやってください!」
「事故っす、こればかりはどうしようもないっす。もう一度っす」
話を聞かず瑠璃は出来上がった写真を裏返しにテーブルに置いた。
「あの時はもっと可愛かったすけどねぇ、もう一回あれを越すのお願いするっす」
「失敗した上にハードル上げてきた!?」
「まあまあ、マルコ。応えてあげなよ」
「それなら透さんも映ってくださいよぉ、元々二人で撮る予定なんですから」
こうなったのも透が原因だ。だけど目が赤いまま映るのは乙女心が許さないのだろうと思い、庇うつもりでモデルになっている。
「……もしかして可愛く撮れないのは制服じゃないからかな? 着替えてもらっていいっすか?」
「よし、それならすぐに着替えよう。マルコ、部屋へ」
「……透さん」
男心が解されず、マルコは泣きそうになる。いっそ泣けば目が充血し、撮影を回避できるかもしれない。だけどもそれは出来なかった。女性の前で涙を流せないのもまた男心だった。




