二度目の敗走
マルコ達はワゴン車に乗っていた。彼らは後部座席に座り、その後ろの荷台には50ccのオフロードバイクが斜めに積まれている。その逆の前には、
「いやぁ、奇遇だなぁ。まさか厚義で会うとはな、マルコ」
「はい、本当に、奇跡としか言いようがありません、葉石さん」
瞬を吹き飛ばし逃げた先で偶然にも葉石達の車が通りかかり、乗せてもらっていた。間一髪で乗車するところも見られなかった。
華枕のコンビニで連絡先を交換した葉石千佳が座っている。なお彼女は運転席ではなく、助手席だった。運転席には彼女の友人の津久井山梅という女性が座っている。
「葉石ー、こんな可愛い子たちがいるんなら紹介しろよー」
「前言っただろ? 面白い子と連絡先交換したって」
「写真も撮っておけよー」
「お前に写真渡したら何に使うかわかんないから」
「うわ、わたしの信頼低すぎ?」
恐らく冗談を言い合っている。
「はぁ、可愛いねぇ、マルコちゃん……このまま誘拐したい」
これも冗談だ。冗談であってくれ。
「すみません、わざわざ乗せて……いただいちゃって」
お礼を言い終わると欠伸をする透。瞼を開け閉めしている。長距離の走行に加えて超能力を酷使したために疲れは溜まりに溜まっていた。
「寝たいなら寝てもいいよー? ここから渋滞に捕まって1時間以上かかるからー」
「いえ、乗せてもらってる身……から着くまで……起きてま……す。それに聞きたい……ことが……」
「はいはい、着いたら幾らでも聞くから、おやすみ」
優しい言葉に逆らえず、透はガラスに額を着けて眠ってしまった。
「だいぶ遊び疲れてたようだな、何してたんだ?」
「ちょっと、壮絶な鬼ごっこを」
「ははっ、壮絶か。バイクで鬼ごっことか?」
「そんな世紀末ではないです」
「はははっ、世紀末ではないか!」
いや言っておいてなんだが案外世紀末だったかもしれない。
「二人とも姉妹か何か?」
ハンドルから手を離し、手のストレッチを始める津久井山。前方はテールランプの赤が連なっている。
「学校のお友達です。僕が転校生で、透さんにお世話になってるんです」
「保護者でもあるんだよな? 真っ先に寝ちゃったけど」
カーオーディオをいじる葉石。ラジオを流し、交通状況を確かめていた。
「今日は必死に頑張ってましたから」
「女子高生を必死にさせる……一体どんな鬼ごっこが繰り広げられたんだ……」
「それは……内緒です」
口の前で人差し指を立てる。
「いいじゃんいいじゃん、お菓子あげるから教えろよ?」
運転席と助手席の間のテーブルスペースに置いてある開放済みのスナック菓子をマルコの眼前に持ってくる。
「夕ごはん前なので食べられません!」
「お菓子の誘惑でもダメか……あ、別に食べてもいいからな」
そう言って葉石は前に向き直った。
「お二人はバイクで遊んでたんですか?」
「そうそう、厚義には川沿いにオフロードがあるんだよ。そこを代わりばんこで遊んでたんだ」
「へぇ、凄いですねぇ」
マルコが何気なしに褒めると津久井山がぼやき始める。
「何も凄くないよ? まるで自分の功績のように語ってるけどね、コースを見つけたのは私だし、バイクの用意と整備したの私だし、行きも帰りの運転も私だよ? 千佳ちゃんは何だ? 殿様か?」
「だから往復のガソリン代も、装備もこっちが全額払ったじゃん」
「かぁー、金で解決ですか、やっぱり殿様だわ」
「逆にお前は一銭も払ってないよな、バイクはお前の実家の在庫だし、車だって親父のだろ。それに四輪のほうはAT限定しか持ってないんだから仕方ないだろ」
「仕方ないよじゃないよー、渋滞の時のMTがどれだけ大変か、お前知らないだろー、もう左足ぷるぷるだよー」
「あ、あの、おふたりとも喧嘩はそこまでに……」
最近こういう場面によく遭遇する気がする。止めようとするも、杞憂だった。
「わかったわかった、後でマッサージしてあげるから頑張れよ」
「約束だよー?」
「はいはい」
「マッサージオイル使ってだよー?」
「はいはい」
「……嘘つくなよ?」
「ドス効かせてないで運転に集中しろ」
自然と収拾して行った。目にも鮮やかなコントに、
「実はお二人は漫才師なんですか?」
「そうそう、夫婦漫才で」
「学校のお友達です」
ふざけようとした津久井山を遮ってまで葉石は正解を答えた。
「なんでよー、面白くなる流れじゃんかよー!」
「子供ってのは真に受けちゃう時あるから、ちゃんと本当のこと話すの」
「変なところで真面目だなー」
保育士だからなのだろうか、やや正義感が強い。
「お二人はいつからお友達なんですか」
「高1だな」
「きっかけは何だったんですか」
「きっかけ、か……」
返答に困る姿を見て、津久井山はクスクスと笑う。
「マルコ、内緒ってことでいいかな?」
「答えたくないなら別に……聞かれたくないこと聞いて、すみませんでした……」
「そんな! 謝ることはないぞ? ほら、お菓子全部食べていいぞ!?」
「いやぁ実はさ、今は保育士なんてやってるけど昔は」
「お前は運転に集中しろ!」
車内は賑やかになる。それでも透の睡眠は鉄壁のように崩れなかった。
30分が経過した。交通はスムーズに流れ始めていた。運転手以外は騒ぎ疲れたからか、大人しく眠っている。
前との車間距離に余裕があったので左の葉石を横目で見る。次にルームミラーでマルコと透を見た。
「ふむ、美少女が選り取りみどり……本当に持帰するか?」
右ウィンカーを点けて車線変更の意思を後続車に伝える。
次の交差点を右折すれば実家への近道だった。
だがしかし、
「……起きてるぞ、津久井山」
「………………起きてるなら言ってよ、千佳ちゃん」
本気で残念がりながら右ウィンカーを取り消した。




