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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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魔女狩り6

 白壁の百貨店が茜色に染まると多くの人が集まる。それも一階のスーパーは特に混雑していた。暑さのピークを超え、雨が降る心配も消えたために晩餐の用意に主婦が大挙して買い物にやってくる。子連れも多い。マルコと同い年ぐらいのやんちゃな少年が菓子売り場を目指してトマトが積まれた棚の前を走って行く。

 瞬は歯軋りした。透という女が逃げ方が上手で、また本気であることにより苛立たされる。

 負けるものか。絶対に捕まえる。そう覚悟して踏み入れた。


「こうも人が多ければ簡単には読めないだろう……」


 瞬は猿若の証言を信じていた。証言を信頼するだけのシーンを彼女もまた見ていた。服を拾ってきた際にも、曲がり角の不意打ちを回避したことも、透がテレパシーだと言うなら頷ける。

 テレパシーが通じないなら後は原始的、かつ根本的な視力の戦いになる。神経を研ぎ澄ませ、周囲を見渡す。手がかりの一片も見逃さない。

 しかし、とある一角から喧々囂々が嫌でも耳に届き、つい、そっちに目が行ってしまう。

 どうも鰻のタイムセールが開催され、それに主婦が群がっている。なお今日は土用丑の日ではない。まだまだ先の話だ。

 耳、目だけでなく嗅覚も引かれてしまう。鰻にかけるタレの芳香に、口から息を吐き、鼻で深く吸ってしまう。

 瞬はその集団に近づいて行った。香りを嗅ぐためでも、ましてや買うためでもない。


「見つけた……」


 その集団の中に天パ頭に帽子を被っている女性が紛れている。

 木の葉を隠すなら森の中、しかし新緑の森に紅葉は隠せない。

 後ろから近づくなら気づかれないように抜き足差し足忍び足がセオリーだが、回りくどいことをせずに帽子の女性の肩を捕らえた。


「捕まえぞ、透!」 

「はい?」


 帽子の女性は振り返った。ただのおばさんだった。


「……すみません、知り合いと間違えました」

「あら、そうなの。でもね、あんまり後ろから力強く掴んじゃダメよ?」

「はい、本当にすみませんでした。……ちなみに帽子は奥さんの物ですか?」

「帽子……? あれ、誰のかしら? いつの間に……」


 瞬は勘を発揮させる。すぐさま旋回して走った。


「やられた!!」


 スーパーの壁際、ガラスの向こうで透とマルコが逃げる姿を発見する。

 透は外を出歩く際もオシャレをしない。最低限に済ませるため、服装が地味、普遍的になる。また帽子が目印にされていたことにも気付いていた。目立つ特徴があると他の特徴に目が行かなくなることを熟知し、大事な場面までのとっておきとしていた残していたのだろう。

 しかし裏返せばいよいよ手札を使い切ったことになる。

 瞬は小さく呟く。


「勝利を掴めるのは最後まで諦めない者だけだ……」


 受け売りの格言を心に刻みながら、超能力でガラスをすり抜けた。透明度が高いガラスならこんな芸当も出来る。

 走るも息が切れ始め、足が回らなくなってきた。その様子を見て前を走る透は微笑む。


「余裕なのは今のうちだ……!」


 瞬も更なるとっておき、瞬間移動能力者の意地を見せた。

 歩調に合わせて瞬間移動能力で飛ぶ。それが彼女の得意技だった。地面を蹴って浮遊している間に瞬間移動をし距離を稼いで着地をする。これを繰り返していれば距離は通常の走行よりも変わらないも体力の温存になる。長距離になればなるほど有利に立てる。

 彼女は超能力者としては下手な部類に入る。飛べる距離はたったの1フィート。それ以上飛ぼうとすると衣類を残して自分だけが任意の場所ではなくランダムに飛んでしまう程度には下手だ。しかしその弱点を補える、覆してしまうほどの驚異的な長所があった。

 その長所に透は薄々と勘付き始める。


「ねぇ、マルコ。瞬間移動って何度も使ったら具合が悪くなるんだよね?」

「はい、飛躍限界数と行って、それに近づくと頭痛、めまい、吐き気と最後には立っていられなくなります」

「自分が飛ぶ場合の限界数は?」

「三十回が目安です」

「それ本当?」

「はい、間違いありません。記憶力には自信があります」

「おかしいな……後ろの瞬間移動能力者さん、数えただけでも六十回は飛んでるんだけど」

「……え?」


 永谷瞬の超能力の長所とは、飛躍限界数が天井知らずであること。つまり彼女はトランスポートシンドロームが発症しない原因不明の特異体質だった。

 単純な競走なら瞬が一枚上手だった。距離は縮め、路地に逃げ込もうとしていた透の肩をついに掴んだ。

 振り払う力も弱く、振りほどけない。ぺちぺちと当たるだけで痛くも痒くもない。体力が完全に底を尽いたようだ。


「今度は……今度は逃がさないぞ!」


 両肩とも捕まえると壁に押さえ込んだ。


「あたしから逃げられると思うな!」


 透の顔に瞬が迫る。


「逃げるってのは! 卑怯者がすることだ!」


 縛るように言葉を投げかける。


「これ以上逃げるって言うなら本気で殴るぞ、だから大人しく」


 透の膝が瞬の太ももを掠めた。

 まだ逃げようと言うなら致し方無い。

 瞬は右腕を離して振りかぶった。銃弾や矢と見間違える、武器とも凶器ともなる右腕を構えた。


「させません!」


 マルコの渾身のタックルが瞬を低木で編成された街路樹まで運んだ。瞬の耳、首元をいくつもの小枝が引っ掻く。


「透さん、こっちです!」


 マルコは透の手を引くも彼女の足取りは拙い。

 瞬は後ろ髪に木の葉を生やしつつも二人を追う。マルコも抵抗するようなら容赦なく殴る、そんな気負い、気迫で追いかける。

 路地は短く、すぐに道路に出た。車が行き交うだけで歩行者が1人もいない寂しい空間だった。

 二人を探すもどこにもいなかった。近くに逃げ込めるような店舗はない。

 まるで瞬間移動能でも使ったかのように一瞬で消えた。


「あ、あの、ボス……」


 そこに小見山が追いついた。胡桃たちとは別行動で瞬をサポートするためにずっと追いかけ探していた。


「ちょうど良かった、小見山! すぐに周囲を透視してくれ!」

「は、はい、わかりました」


 小見山は従順だった。そして超能力者で、能力は透視だった。それも犬見、雉沢よりも優れている。

 最初は時計の振り子のようにせわしなく首を振り回すも、次第に扇風機のようにゆっくりとなっていく。


「あ、あの……マルコちゃんたちを探しているんですよね」

「あぁ、そうだ」


 首の動きを止めて、顔を合わせる。


「……どこにもいません。マルコちゃんに、魔女さんも」

「そんなはずはない! さっきまで透もマルコもここにいたんだ!」


 思わず怒鳴ってしまう。


「そ、その、見つけられなくて、ごめんなさい!」

「……ごめん、あたしも言い過ぎた……でも本当にどこにもいないのか?」

「はい、本当です。ビルだけでなく、念のためマンホールの下も透視しましたがマルコちゃんに透さん? もいません」


 瞬はスケアリーモンスター全員の顔も名前も性格も把握している。小見山は嘘を言わない、嘘を言ってもすぐにバレるタイプだ。


「そうか……」


 ふう、と深い息を吐き、


「……っ!」


 電柱を殴った。一度で足らず、二度も三度も繰り返す。


「怪我しちゃいますよ!」


 ポケットから絆創膏を取り出す小見山。


「大丈夫。力加減はできてるし、左手だ」

「どちらだろうと大事な手ですよ! ほら、たくさん擦り剥いてますよ!」


 応急処置を始める。小見山は瑠璃との付き合いから経験は積んで手馴れていた。

 瞬はそんな健気な彼女をよそに上空を眺めていた。 

 空は黄昏れ、月が輝き始めていた。

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