準備はできたか?
「透さん、餃子もっと食べていいですか!」
「全部食べていいよ」
律儀に半分残していたが透は躊躇いなく譲った。
「ありがとうございます!」
このテンションの高まりよう、恐るべし餃子。レンゲを放した手はテーブルの下に隠れて透の目から見ても少々行儀悪く見えたが今日のところは多めに見た。
すでにマルコ分の食器は空き始めていた。育ち盛りの男とはよく食べるもので見てるほうも気持ちよくなる。
そろそろ会計の準備をしなくては。透は財布を開き中身を確認する。財布の中は空っぽだった。
「……んっ」
まさかまさかまさか、飯を奢りに来ておいて一文無しとはそんなわけはない。今度は透視をして財布の中を要チェック。良かった、レシートの中に五百円玉が一枚隠れていた。一文無しではなかった……そういう問題ではない。五百円だけでは二人分どころか一人分も足らない。
「ごちそうさまでした」
マルコが満足気に笑っている。美味しいものを思う存分に食べた幸せに満ち足りた笑顔だった。守りたい、この笑顔。
「マルコ、食べ終わってたなら外の空気吸っておいで。涼しくて気持ちいいぞ」
「わかりました、外で待ってますね」
何の疑いもなくマルコは鼻歌混じりで外に出て行った。制服のスカートがふわふわと上機嫌に揺れる。その愉快なパレードの後ろ姿を見送った後、透はため息を漏らす。
透はレジに向かう。ただし、お金の準備はできていない。できていたのは本日の二度目の土下座の準備だった。