魔女狩り
胡桃の次に透を見つけたのは雉沢だった。フルネームで雉沢 直。彼女も超能力者であり、能力は透視だが基本能力は低かった。人混みの中の一人だけを透視するほどの精度はない。動いていない物の透視がやっとのところだ。その代わり100m走後ぐらいなら精度が落ちない持久力はある。しかし体格は縦に狭く横に広いため、足は遅い。
今の彼女の役割は割り当てられたエリアで待ち伏せをしターゲットを見つけ次第、尾行をしつつ位置を胡桃に報告することだった。
雉沢に戦闘能力はない。能力が透視である上に武術の心得はない。そのため常にサポートに回っている。そんな裏舞台の役回りだが彼女は満足していた。縁の下の力持ちとは自分の体格にふさわしい役回りと誇りとすら考えていた。
今回もその地味な役回りをまっとうするつもりだ。
ポケットからスマートフォンを取り出す。一週間前に出たばっかりの最新機種でそれもRAMは128GBと学生にしては贅沢すぎる性能だ。開発者がそうしていたように、ストラップやケースは一切使わずに常にシンプルにこだわっている。
「もしもし、胡桃。魔女を見つけたぞ、これから尾行に入るぞ」
魔女と呼ばれたターゲットは倉庫の時からずっと同じ帽子を被っている。それが目印となっていることに未だ気づかないようだった。
「魔女は恐らく駅の周りを歩いて南口に向かっているのかもしれないぞ。待ち伏せしてくれ、挟み撃ちにするぞ、ぐふふ」
笑いを浮かべたと同時に透は走り出した。
「おぉ、魔女が走りだしたぞ! これから追いかけるぞ!」
大事なスマートフォンを持ちながら走っては危ない。ちゃんとポケットに入れてから、と思い、目は透を捉えたままで手探りだけでポケットに仕舞って走りだす。
しかしすぐに右ポケットの軽さに気づく。
「しまったぞ、落としたか!」
彼女の予想通りに落ちていた。
しかし落ちたのは床ではない。
彼女のスマートフォンはマルコの手に落ちていた。
「あぁ! 金髪の少女!」
そう、透を意識し過ぎるあまりに金髪の少女を見落としていた。
彼女らの中ではマルコの優先順位は低く、脅威である透の確保が最優先とされていた。
「あの、すみません。ほんとすみません……」
「謝るぐらいならすぐ返すんだぞ! それは子供のおもちゃじゃないぞ!」
「はい、ちゃんと返します……ただし、ちょっと借りた後にですが」
そう言うと右翼手がフェンスからホームに直接送球する時にように振りかぶる。
「お、おい、ちょっと何を考えているんだぞ」
時間は惜しい。野球はほんの一秒もあれば逆転してしまう。
「……僕、どちらかというとピッチャー志向なんですよね」
マルコはビルの屋上に目掛けて投げてしまった。
「そんなことは聞いてないぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
投球は見事にビルの屋上に届いた。
「ぞうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
絶叫する雉沢は役割を忘れ、人生で最高の俊足でビルの屋上へと走っていく。
「ほんとに悪いことしたな……」
マルコは罪悪感を抱えながらも、雉沢のスマートフォンをポケットから取り出す。
彼が屋上に投げたのはスマートフォンではない。ただのポケットティッシュだった。
電源ボタンを押すとロック画面が表示される。ちなみにロック画面の画像は美少女ゲームの美男子の画像だった。それと何故か半裸だった。
「あ、ロックがスワイプだけで解除できる。不用心だなぁ」
画像は気にせず、あっさりロックを解除し履歴を確認する。メールやチャット等は昨日まで分しか残っていない。通話の履歴を確認するとこの一時間で何個も連絡を取り合っているようだった。
「あちらの動向が探れたらよかったんですけど……」
念のためにGPS機能をオフにして再びポケットに戻す。持っておけば敵の情報を傍受できるかもしれない。用が済んだら交番の前に届けるつもりだ。
すぐさまマルコは透にメールで成功を伝える。
返信は来ないがこれも打ち合わせ通りだ。
作戦は簡単だ。
透が餌となり、釣れた一人をマルコが不意打ちで交信不能状態にする。囲まれないうちに見つけ次第、迅速にあらゆる手を使ってでも。
そのためにも必ずしも倒さなくても良い。連携を崩し、混乱してくれればそれで達成になる。あとは混乱している隙を突いて逃げ切るだけだ。
成功確率は決して高いとは言えないが、それでもその時その場で出せた最良の案がこれしかないのだから後は全力で臨むのみ。




