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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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大作戦

 大見得を切りながらもマルコは勝つために作戦を立てていた。彼は作戦と称するが、それは単純明快であり、作戦と呼ぶにはあまりにもお粗末だった。

 マルコが頭の中でイメージした光景は近づいて胡桃を背負投で投げ飛ばすというだけだった。身長差、体重差はあるものの不可能ではない。彼には女性にしか宿らないはずの超能力の一つ、念動力がある。それに原点にして頂点であるカレンから直々に技能を学んでいる。その鍛錬も一日として怠ったことはない。

 不安はなかった。確固たる自信で塗りつぶしていた。今はまるで負ける気がしなかった。


 対する胡桃は瑠璃の身柄を犬見に預け、意気込みや力もを感じさせずにマルコの前に出る。ぺたぺたとサンダルと足裏がくっついては離れる音は間抜けている。


「そんじゃちょっとマルコ師範代の胸を借りるとしますか」


 そう言うが、なんの構えもしない。ただの棒立ちでいた。

 格闘技の経験は柔道しかないもののマルコは彼女の立ち姿を見て、確信はないが格闘技の経験がないと判断した。隠している様子もない。アキレス腱はくびれのない寸胴で、太ももは慎みのない肉の付き方をしている。腕が太いのは生まれつきか、バランスを考えていない部分的で極端な筋トレのせいかもしれない。

 敵は大いに自分を舐めている。好都合だ、一泡吹かせやろうとマルコは先手必勝、一気に胡桃に駆け寄った。

 胡桃はマルコの速さについていけないのか、まるで防御に出ない。

 もらった。確信してマルコは胡桃の手を掴んだ。視線を地面に変えて、後は魚を釣り上げるように身体を傾けて全身の筋力、念動力で相手の身体を持ってくる。

 ここまでは全てマルコのイメージ通りだった。しかし異変は前触れもなく起きる。

 ふと手から胡桃の感触が消えた。逃げられたか、と状況を把握してるうちに今度は地面が目の前で一瞬で近づいていた。

 顔が衝突するすんでのところで空きになった両手で着地し、事なきを得る。


「どこ見てるんですか、しはんだ〜い」


 呆然としているマルコの後ろで胡桃がせせら笑う。

 幻覚でも見ていたのだろうか、いや違う。確かな感触が手に残っている。だとするなら、これはきっと……超能力の一種。

 胡桃は紛うごとなき女性だ。女性であるなら誰もが持ち得る能力、それが超能力だ。


「あなたは、瞬間移動能力者ですか……」

「聞いたところで、はいそうですと答えると思うか?」


 胡桃は応えないが答えは思わぬところから飛んで来る。


「マルコちゃん! その人は瞬間移動能力っす! だから戦っちゃダメっす!」

「犬見! そいつの口もふさいどけよ!」


 瑠璃は口と鼻を覆われ、声は出せても届かなくなってしまった。


「大丈夫です、瑠璃さん……。こんな奴、すぐにやっつけますから」


 マルコは笑って返し、改めて作戦を立て直す。彼は幼稚であるが無知ではない。自分の念動力以外の知識も大人以上には持っていた。それも超能力研究の第一線に携わっていたカレンから直々に教わっている。

 マルコはここでおしゃべりの姉が無口になっていることを思い出す。左手首の開放感にポケットの重量感で腕時計の在り処がわかる。

 助言でも貰おうとも考えたが辞めた。すでに瞬間移動能力の弱点を突く作戦ができていたからだ。


 瞬間移動能力は念動力、透視に次いで三番目に多い超能力だ。全体数は低いが発見当初の注目度と期待度はどの能力よりも高かった。念動力と透視もエネルギー、原理ともに不解明であるが現代の科学で似た技術が存在する。しかし瞬間移動、つまりワープは長年の人類の夢であり目標でもあったために多くの学者がその時携わっていた研究の手を止めて瞬間移動の研究を専攻した。もしもこの研究が成功し、ワープ装置を発明したとなればインターネット以来の世紀の大発明になる。研究者ではない人たちも期待し応援を惜しまなかった。そして一年後、その結果は……無残に終わった。念動力、透視と同じようにエネルギー、原理は不解明なままで終わってしまった。しかし一部の特性についてはある程度は判明した。

  瞬間移動能力には人間の利き腕のように大まかに3つのタイプが存在する。そのうちの1つが対他干渉型。自分以外の物体を移動させることを得意とする。これは右腕に当たり、最も多いタイプだ。胡桃はこれに当たる。2つ目は対自干渉型。対他干渉型とは真逆で自身を移動させることを得意とする。これが左腕に当たる。残る3つ目は両利きに当たる自他一如型などと呼ばれている。これらの呼称はいつ誰が起源、由来は不明だが憶測で瞬間移動能力プロジェクトに哲学者も参加していたからだとされている。また勘違いされやすいが弁証法では対自から対他へと発展していくがこれに瞬間移動能力の名称とは当てはまらず、あくまで名称を借りているだけに過ぎず、対自より対他が優れているわけではなく、あくまで得意不得意のカテゴライズに過ぎない。

 瞬間移動能力の弱点について話を戻す。瞬間移動能力には瞬間移動能力特有の最大の弱点であり、研究の最大の障害になった特徴がある。それは超能力の酷使によって引き起こる瞬間移動能力酔い、もしくはトランスポートシンドロームと呼ばれる原因不明の自律神経の失調状態のことだ。その症状は平衡感覚の乱れや頭痛、吐き気と乗り物酔いに酷似している。逆に似ていない部分となると通常の乗り物酔いより回復が遅く、回復するまで一日かかることもある。一大プロジェクトではこの足がかり的難題を第一に克服する至急の課題だったが最後まで乗り越えることができなかった。

 発症するまで個人差はあるものの、一般的に対他移動なら一日五十回、対自移動なら一日三十回までが目安となっている。距離、質量ではなく回数が関係し、さらに失調を起こすのは必ず被干渉側ではなく干渉側という初歩的な事実の判明がこのプロジェクトの最大の成果と言えるのだから涙を禁じ得ない。


 さらに話を戻す。


 マルコは睨みながら再び胡桃に掴みかかろうとする。

 睨まれたほうは何の威圧も感じていない。ただ、楽しい時間が続くのだと童心に返って喜ぶ。たとえ手首を掴まれても飛ばして転ばせてしまえばいい。

 今度の胡桃は軽く走って逃げる。するとマルコは怒った表情で必死で追いかけてくる。それを見て愉快な気持ちになる。


「あはは、捕まえてごらーん」

「……」

「と見せかけて……」


 胡桃は急に立ち止まり、手を伸ばしてマルコの額に触れた。

 急に止まれなかったマルコは飛ばされて転倒する。今度は肘から落ちた。


「あははっ、残念でした……」

「……」

「お、まだやんの? いいぜ、とことん付き合ってやるよ」


 巻き戻し、再生を繰り返すかのようにまた掴みかかっていく。

 今の彼を当てはまることわざがある。七転び八起きということわざがある。人生には浮き沈みがあるという真髄を語る格言だが、今の状況は文字通りにぴたりと当てはまる。しかしこれから彼は七転びだけでは飽きたらず何度も何度も転ぶことになる。つまり……マルコの作戦とは、胡桃の限界が来るまで何度も特攻しようというこれまたお粗末な作戦だった。

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