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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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片鱗

 厚義市は確かに都会だった。道路を自動車だけでなく路線バスが多く走っている。バスターミナルには幾つもの路線が存在し、その数だけバス停が立っている。しかも数分ごとにバスはやってくる。そのためか、タクシー乗り場の方は渋滞気味で運転手はシートを倒して眠ってしまっている。

駅前の交差点は二又で、大量の歩行者のために横断歩道が交差点全体に引かれている。通常のスクランブル交差点なら横断歩道で三角形を作っている。

 厚義市は都会だ。ただしそれは華枕以上、櫻濱未満だ。

 華枕市は所謂古都であり12世紀頃の歴史的建造物が立ち並んだ観光地のため、人混みはよく見かけるが高い建物はない。

 櫻濱市は華枕市と比べれば歴史は浅いものの、県庁所在地の名に恥じない発展ぶりを誇っている。


「まずはバスに乗るっす。支払い方法は後払い制っすよ、乗る時に機械に……おっと、ICカードはお持ちっすか?」

「はい、あります」


 ちなみにマルコの所持するICカードは無記名式だ。本名が漏れないようにするためだ。


「お、緑色っすね。ウチはピンク色っす」

「あ、ほんとだ、違いがあるんですか」

「詳しくはわからないっすけど、同じようなもんすよ。むしろなんで違うのか、疑問っすね」


 乗るバスはすぐにやってきた。言われた通りにスキャナーにタッチする。降りる時は後ろの出口のスキャナーにタッチすれば支払いが終わる。


「前払い式は降りるバス停の名前を言わなくちゃいけないんすよ。それにお客さんに嘘言われたら運転手に話しかけるのドキドキするんすよね」

「意外です、もっとフレンドリーに話しかけるほうだと」

「あはは、やっぱりそう見えるっすか? ウチはこう見えて結構人見知りなんすよ?」


 発車時刻になるとバスは走り出した。車内の客はマルコ達しかいない。あまり人気のない路線のようだった。


「これから郊外のほうに向かうっす。歩いても行けなくはないはない距離っすけど、入り組んでて慣れてても迷子になりやすいんすよ」

「どっちなんですか……」


 駅前を少し走ると高い建物はすぐに消えた。繁華街からオフィス街、住宅街へと町並みは姿を変える。空が広くなり、遠くを見渡せるようになる。


「山が近い……」


 マルコは窓から見た光景の感想を単著に述べた。華枕市も山に囲まれているが、厚義市はより標高が高く、広大な山に囲まれている。


「ちなみにあそこの山に湖があるんすよ。ダム建てて人工の湖っす。建てる前は村もあったみたいっすけど水没しちゃったみたいっす。可哀想だけど今の発展があると思うとなんか複雑な気分っす……」

『あら、意外と真面目な話もするのね』

「ん、なんか今言ったすか?」

「言ってません! 何も言ってません!」


 マルコは右耳をぽんぽんと叩く。次イタズラしたら腕時計を外すという合図だ。


「ちなみにちなみになんすけど、その湖まで今の駅からバス一本で行けるんすよ。そこはちょっとしたレジャー施設になってましてバーベキューとかできるんすよ。ここでこの前皆と一緒に……おっと何でもないっす」

「学校のお友達と行ったんですか?」

「んー、まー、そんなところっす。それよりもダムの目の前まで行けるんすよ。今日は行かないっすけどまた今度如何っすか」

『日本のダムってチンケなのよねー。何もかもでかいアメリカのダムで目が肥えちゃって』

「……!」


 マルコは光の早さで腕時計を外し、ポケットに突っ込んだ。


「またまた何か聞こえたような……」

「運転手さんではないでしょうか」

「綺麗な女性の声だったような」

「それなら気のせいじゃないでしょうか、ははは」


 マルコは何度も右耳を叩く。


「どうしたんっすか? さっきから耳を叩いて」

「さっきから耳に水が詰まってまして……」

「あー、そうなんすか! 水、といえば山の方から黒くて厚い雲流れてきてるっすね。こりゃ一雨来そうっすね」

「……屋根はありますよね?」

「当然のごとくあるっす! その点心配ないっす!」


 天気予報を見忘れ、雨具の準備も忘れた。

 後でコンビニで買っておこう、とマルコはそんな呑気な算段をした。

 

 山の頭の上を浮かぶ雲は重厚にして軽快。白黒が入り混じって斑に見え、まるで蛇の鱗のようだった。その片鱗にマルコも瑠璃も、カレンすらも気づけずにいた。

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