86°F
駅に着き、言われた通りの場所にマルコは立っていた。人の目から隠れるためにフードを被り、太陽から隠れるために日陰に避難していたものの、白い肌は汗ばんでいた。
「日本の夏は暑いですね」
『今のマルコはまるで鉄板の上のステーキね』
「焼き加減はローでお願いします」
『こまめに水分補給するのよ』
言われたとおりにスポーツ飲料で水分補給をする。ハンカチで顎の下の汗を拭いていると不意に後ろから目を塞がされた。
「だーれだっす!」
汗ばみながらもなんだか良い匂いのする手に、そこはかとない柔らかさがマルコを襲う。
一発で誰かが分かった。しかし戸惑いと羞恥が先走り、なかなか言葉に出せなかった。
「え、えと! その、あの……!」
「んー? もしかして名前忘れられちゃったすか? ヒントは色の名前っすよ」
ぐいぐいと前へと押し込まれると首を絞められたわけでもないのに息が苦しくなる。
「ほうらるりさん! 間違いありませんよね!」
「ぶっぶー! ほうらるりさんさんではありませんっすー!」
多少抵抗を感じながらも年上の女性を呼び捨てで呼ぶ。
「ほうらるり!」
「ですが……漢字ではなんて書くでしょうかっす?」
「早押しみたいな引っ掛け問題!? あとそこまでの解答は無理ですから!」
「仕方ないっすねぇ、今回は特別っすよ」
今回は、ということはまたするのだろうか。後ろから襲われるきらいがあるマルコは今後の背面からの急襲対策を講じなくてはいけない。
マルコは解放され、改めて瑠璃と対面する。
「お久しぶりっす、かれこれ10年ぶりっすかね。ずいぶんと大きくなって……」
「親戚のおばさんですか」
「だんだんお母さんに似てきたわねぇっす」
「親戚のおばさんですか!」
「勉強はちゃんとしてる? 学校でいじめられてない? ボーイフレンドはできた?」
「だから親戚のおばさんですか!」
暑いというのに熱くなってしまった。マルコは一息つくためにスポーツ飲料を飲むと空になってしまった。
「そこで親切なおばさんから、これ、あげるっすよー」
瑠璃はカバンからカメラを取り出した。
「うわ! これはあげられないっすよ!」
今度こそ、出したかった保冷バッグを、その中から新たなスポーツ飲料を取り出した。
「これも贈呈するっす」
夏の定番、塩飴も渡す。
「こんなにもらって悪いですよ」
「遠慮しなくていいんすよ? 困ったときはお互いSUMMERっすよ?」
「瑠璃さん……」
マルコは反省する。初対面では人の話を聞かない人だと感じたことを恥じる。本当は気配りの出来る優しいお姉さんだと認識を改めて、
「って、誰が親戚のおばさんっすかー! ウチはまだそんな年じゃないっすー!」
認識を改めて、やはり掴みどころがない人だった。




