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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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闇の中に咲く夜顔

 瑠璃は扉を閉めるとその場で深く息を吐いた。

 計画も計算も大いに外れた。

 そもそも宝くじが当たるよりも成功率の少ない博打に過ぎなかったが、それでも博打を打たなくてはいけなかった。打たざるを得なかった。もしかしたら事態は悪化するだけかもしれない。もしかしたら早めに諦めてなにもしないほうがいいのかもしれない。

 つい弱気になってしまい、顔を挟むように両頬を両手で叩いて活を入れる。

 逡巡など自分らしくない。

 すぐに作戦を練り直さなくてはいけない。

 体力は限界まで消耗し、この上なく眠い。しかし時間が惜しく電車に乗っている間も考えなくてはいけない。

 瑠璃は歩き出すと同時に透の部屋の隣のドアが開いた。


「こんばんは」


 金髪オッドアイの子供が開いた隙間からひょっこりと顔を出した。

 瑠璃はひりひり痛む頬を歪めて、笑顔を作る。


「おー! スクールゲートでエンカウントしたベリキュートな子じゃないっすかー!」

「覚えててくれたんですね、良かった」

「こんな可愛い女の子、そう簡単に忘れられるはずがないっすよー!」

「あはは、あははは……」


 マルコは素直に喜べず、ぎこちなく笑う。


「あの、これ、よろしかったらどうぞ」


 マルコはビニール袋を渡す。中にはスポーツ飲料に駄菓子の詰め合わせが入っていた。


「これは幻か、まやかしか……」

「……」

「今のダジャレっすよ。笑ってもいいんすよ?」

「あ、やっぱり、そうでしたか……それでしたら、cake付けにどうぞ」

「おー、ポテチにうまい◯にキャベツ娘に盛りだくさんっすねー!」


 cakeと景気をかけたダジャレに気付かれなかった。しかしマルコはそのことを黙っていた。


「いやはや、こんなにたくさんどうもありがと……」


 瑠璃は昼から何も食べていない。

 よだれを垂らしながら受け取ろうとするが慌てて手を引っ込める。


「ダメっす! 小さい子から恵んでもらうなんて一生の恥っす!」


 しかし身体は正直で大きな腹の虫が鳴る。

 繰り返すが瑠璃は昼から何も食べていない。学校が終わったらすぐに厚義市からこの街華枕市に移動し、どこにも寄らずに校門に陣を構えたからだ。その後も教頭からお叱りを受け、あまりの壮絶さにしばらくは固形物が喉を通らなくなっていた。出されたみなごろし、はんごろしにも結局は手を付けられなかった。

 

「本当でしたら、もっと栄養価の高い物をお渡ししたいんですけどこれぐらいしかなくて……!」

「いえいえ、そこまで気を使っていただくなくても……この恩、どうお返ししたら……」


 その言葉を待っていたかのようにマルコはすかさず言葉を挟み込む。隙を逃さず入れ込まねばこの女性の話題はすぐにあさっての方向に飛ぶ。


「それじゃあ、僕にスケアリー・モンスターを見学させて下さい!」

「聞いてたんっすか?!」

「盗み聞きしていたわけじゃないんですよ? なにせ古い建物で壁が薄いので会話はすぐに聞こえちゃうんです」

「これまた不覚っす……割りと秘密の会話のつもりだったんすけど……」

「結構、大声で話してましたよね?」

「それを言われると弱っちゃうっす……」

「あ、あの、もし見学させてもらったらお隣に口添えもしますよ」

「お二人はお知り合いだったんすか? いや、まあ、お隣ならそれが自然っすね」


 瑠璃にとって絶好のチャンスだ。マルコの効果の有無は定かではないが、それでも他に打つ手がない。打開策になるやもしれない。


「でも何で、見学する気になったんすか?」

「それはその……興味があるじゃダメですか?」

「いえいえ。ダメではありません。ダメではありませんけど何でかなっと思ったんスよ」


 妙に懐疑的な瑠璃に対して、マルコは不本意であったが、アレを使うことにした。

 アレとは欽慕する姉のカレンから教えこまれ、鍛錬に鍛錬を重ねて習得した必殺技だ。いつか他人のため、はたまた愛する人のために、その時にだけ使うことを許されている。そして一撃必殺の技だ。必ず一撃で仕留められるわけではなく、一撃で仕留めないといけない諸刃の剣だ。使うにあたっては大変なリスクを背負う。失敗すれば致命傷になるがそれも彼は厭わない。何故なら、彼は勇者だったからだ。

 刮目せよ、世界。

 これが彼の勇姿だ。


 マルコは肩をすくめ、首を傾げる。両手を胸の前で力なく、手を合わせる。

 眉を八の字に、不安げに自信なさげに表情を伺うように見上げる。

 瞳は並々に潤い、雫が今にも零れそうだった。その瞳が瑠璃の顔を離さない。


「……ダメですか、瑠璃お姉ちゃん」


 必殺技、それはーー上目遣いだった。

 変に台詞にこだわらず、あくまでシンプルかつ押しは控えめにし、さらりと言ってしまうのがコツだとカレンは言う。


「そ、そんなの……」


 瑠璃の身体がわなわなと震える。

 何かが彼女の身体を襲っている。

 寒気だろうか、痺れだろうか。いや、違う。


「良いに決まってるじゃないっすか!」


 彼女を襲うのは圧倒的庇護欲。花持ちの短いアサガオのような刹那的な儚さに心を打たれて快諾する。おまけに両手の親指を立ててサムズアップのジェスチャーを取った。


「えへへ、ありがとうございます」


 こみ上げてくる羞恥心と罪悪感に苛まれながらもマルコはお礼を言う。死にたくなっていたがお礼をしっかり言った。


「それじゃあ今週の土曜日13時に駅に集まりしょうっす! 午後から集会があるっす! お昼は食べてきて下さいっす」

「厚義駅に行けばいいんですか?」

「おっと、大事なことを忘れてましたっす。気をつけて欲しいんすけど、降りる駅は厚義は厚義でも本厚義駅っす。似た名前で厚義駅ってあるんすけどそこは全くの別世界なので」

「世界が別なんですか、どういうことなんですか……」

「とにかく、本がつくほうで降りるっす。待ち合わせ場所は黄色い看板に人名みたいな薬局やがあるのでそこで集まるっす」

「はい、わかりました。……そうだ、念の為にSNSのアカウントを交換しませんか」

「いいっすよー。迷子になったらすぐに連絡下さい。三秒で駆けつけるっす!」

「レスキューより早いですね……瞬間移動能力者テレポーターなんですか?」


 つい詮索するような発言をマルコは漏らしてしまう。


「ははは、だといいんすけどね……」


 それに対し、瑠璃はどこか自嘲するような笑いを見せた。その笑顔の面影を彼は見覚えがある。自分が来日した頃の透の笑顔によく似ていた。

 マルコは何となく彼女も何かしらの超能力者なのではないかと勘付いた。勘付いたというよりも確信した。カレンは薄々気付いていたようでマルコにだけそのことを話しており、半信半疑であったがこの時になり、姉の鋭感に感嘆する。


「おっと、そろそろ急がないといけない時間っすね」

「呼び止めてすみませんでした。今週末はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくっす。それじゃっ!」


 瑠璃はビニール袋が引きちぎれそうなほど腕を振って駅へダッシュする。

 それを見送るとマルコは静かに扉を閉めた。

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