目指せ、ギャル
「時にマルコ……私は今時の若者だろうか……」
「突然何ですか……」
ゲームセンターに来たものの、二人はゲームをせずに真っ先にアイスを買いベンチに佇んでいる。透は抹茶、マルコはチョコを食べている。
「こう、何か感性が昭和っていうか……キャピキャピ感がないような……」
キャピキャピという言葉がすでに昭和の遺物だと知らずに使う透。
「どう思う? マルコ」
「えーとそれは……」
質問を迫られる。認めてしまえば透が所謂年増と言うことになる、それだけは絶対に避けなくてはいけない。
「透さんは透さんのままで良いんですよ?」
決まった、と内心ガッツポーズするも、
「……否定しないのか、はあ……」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「マルコは素直だからさ、聞けば正直な答えが帰ってくると思ったからさぁ……超能力はあっても女子力はないのかなって」
「だから認めたわけでは……というか女子力って何ですか」
しどろもどろになるマルコにカレンは助け舟を出した。
『それじゃあキャピキャピかどうか、ゲーセンの中からあなたの感性でやりたいと思ったゲームを選びなさい。それで私達が採点するから』
「むぅ……自信はないが、やる価値はありそうだな……」
透はアイスのゴミを捨てて、大股で通路を闊歩する。その後ろをついて行きながらマルコは助言を与える。
「透さん、馬好きじゃないですか? 動物好きなのって女の子っぽいと思いますよ」
「うん、なるほど……馬か……馬を探すか」
「ほら、くるくる回る奴あるじゃないですか、あれなんかとても……」
マルコはメリーゴーラウンドに誘導しようとする。それをカレンは諌める。
『こら、何のためのテストだと思ってるの?』
「だって女子力がないとか思ったら透さんがますます可哀想じゃないですか」
『ないならないって教えてあげたほうが身のためじゃない?』
「それはそうですけど……」
『あなたは透が透のままでそれでいいんでしょう? それが一番よ』
「それも……そうですね、どんな結果になろうと僕はありのままの透さんを受け止めたいと思います」
『それでいいのよ、男らしく大きく構えていなさい』
二人の秘密の会話が終わると同時に前に進んでいた透が足を止めた。
「私、この馬のゲームで遊びたい!」
『どれどれ…………ってあなたね……』
透が足を止めたのは競馬のゲームだった。
マルコは自らの愚かさを猛省する。メリーゴーラウンドのような大型の遊戯施設が通常のゲームセンターに置いてあるはずがなく、必然的に競馬に誘導される。しかし透側にも問題はある。どこをどうしたら競馬が女の子っぽいと考えるのか。
「ほら、馬だし、くるくる回るし、女の子っぽくない!?」
カレンは採点する。
『0点』
「なんでさ!? じゃ、じゃあマルコは!?」
「……0点」
「何故!? Why!?」
『当然の結果よ』
「すみません、僕が間違った助言をしなければ……すみません……」
「ぐぬぬ……次行くぞ、次」
透は移動を始める。その後ろをマルコはついていく。
『普通、競馬に行くかしら……』
「わかりません、でも透さんの感性を僕は受け止めたいと思います」
マルコは真剣だった。どんな事実であろうと真摯に受け取る態度だった。
そんな凛々しく男らしい弟にカレンは、
『マルコ……ダメな時はダメって言ってあげるのも必要なのよ?』
的確なアドバイスを与えた。
「さっきと言ってること違ってますよ!」
『それはそれ、これはこれ』
「ダブルスタンダードです……難解です……」
『難解なのは目の前の歩く女よ』
「そんな……透さんはそんなに難しい方じゃ……」
前を歩く彼女は何か呟いている。
「……女の子っぽい……動物……うさぎとか…………はっ、バニーガール……!」
何か分かったかのように顔を上げるが、またもズレた答えが出たようだった。
『あれ見て同じこと言える?』
「……ノーコメントでお願いします」
二人の会話が終わると同時に透は足を止めた。スロットルの目の前で足を止めた。
採点は0点と0点だった。
「…………」
透は放心状態だった。何となく首を上に向け、握ったペットボトルを膝の上に置いている。瞑想、否、迷走状態に陥っていた。
意識が飛んでいるので手の中からペットボトルが落ちる。マルコはそれを拾って透に握らせる。
「透さん、何かあったんですか。やっぱり様子がおかしいですよ?」
回りくどいことができず、マルコは素直に直球に尋ねる。
「んーまーちょっとね……」
「さっきの二人組と何か関係あるんですか?」
「ん……鋭いな、マルコ……」
「その……酷いこと言ってましたもんね。透さんが気にしてることを無神経に言うなんて酷いです……それでもしかして、女性としての自信みたいなものを探してんじゃないですか」
「……まあ半分、正解。頭いいね、マルコは」
「気にすることはありません。透さんは透さんのままが一番なんです」
「うーん、そうかなー……」
好みのジュースを飲んでも透は元気を取り戻さない。マルコは何としてでも回復してほしく策を講ずる。彼女には彼女の魅力があると知ってもらうためには何がいいだろうか。考えに考えた末、ひとつの名案を思いついた。
「透さん、行きたいところあるんですけどついてきてください」
透のペットボトルではなく、彼女の手を握る。
「うん、いいけど、どこに行くの?」
「着いてからの楽しみです」
そしてマルコは透の手を引き、UFOキャッチャーを避け、レーシングゲームを避け、店の一角に着いた。
「これ、日本の文化なんですよね。ちょっと興味があったんです。僕に教えてくれませんか?」
「こ、これは……あの、伝説の……」
透は慄く。そしてようやく自分では辿りつけなかった真理を見付けた。
「……プリクラ!」
恥ずかしながら今の今まですっかり忘れていた。キャピキャピで若者と言ったら、これではないか。
透は目が笑っていない笑い方をする。
「……ははは、灯台下暗しとか言うのかな。アメリカの少年に先に真理を出されるなんて」
「それは今はどうでもいいですから! 僕とこれに入って下さい! 僕はこれに透さんと入りたいんです! 透さんはすごく美人なので写真を残したいんです!」
マルコは強引に透を引き込んだ。
「……そんなに私なんかと撮りたいの?」
「なんかじゃありません。透さんと是非撮りたいんです」
「……うん、わかった」
透は笑顔を取り戻した。
梅雨晴れした時のような笑顔にマルコはほっとする。どんな時の彼女は一番なのに間違いはない。でも笑っている彼女がマルコは一番好きだった。
『マルコ、よく出来たわね』
カレンは作戦の成功を祝う。
「お姉ちゃん……」
マルコは憧れの姉に褒められ、胸を張りたい気持ちだった。
『……あなたには100点よ』
「しばらく黙っててください」
ついにマルコは腕時計を外した。腕時計は緘黙化する。
透はたどたどしく、おっかなびっくりとタッチパネルで操作する。細かい設定は特に考えず適当に決める。
アナウンスが始まり、撮影が始まる。
ここに来て、ひとつの問題が浮上する。
「時にマルコ……プリクラってどう撮られればいいんだ……」
「え!? 知らないんですか!?」
狭い空間内に眩いフラッシュが満ちる。
「ああ! 早くも一枚撮られた!」
「実は私、プリクラ初めてなんだ……へへ、ぼっちだったからな……」
「落ち込んでる場合ですか! どうするんですか、透さん!」
「え、えと、ひとまず、気をつけ!」
二人は背を伸ばして直立になると同時にフラッシュ。
「……なんか証明写真を撮ってるようですね」
「プリクラなんだからもっとフリーダムじゃないと! 今度は好きなポーズを取ろう!」
二人は各々の好きなポーズを取った。
透はグリ●のポーズ。
マルコは仮面ライダーOO●の変身ポーズ。
「……一緒に入ってる意味あるんですか、これ」
「まるで仲が悪いみたいじゃないか! これじゃ駄目だ! 同じポーズ取る!」
二人は相手のポーズに倣う。
透は仮面ライダー●OOの変身ポーズ。
マルコはグリ●のポーズ。
「透さん、右左逆です。こうです、こう」
「呑気に修正してる場合か! 次で最後だぞ!」
「……日を改めてまた来ましょう」
「日を改める必要はないだろ!」
マルコは諦める一方、透は悪い流れに抗って仲の良いポーズを考える。彼女が限られた時間で考えられる答えは一つしかなかった。
「えいっ」
透はマルコの首で腕を巻いて抱きついた。
「んっふふー。落ち着くー。やっぱこれだねー」
頭に強めに頬ずりしても金色の髪は癖にならずに自然と垂れていく。同じシャンプー、同じ食べ物を採っているというのに彼女の髪の質とはまるで別物だった。
「透さん! こういう過度なスキンシップはよしてください!」
「あぁ、いいにおい~。くんかくんか」
「嗅ぎもしないで下さい」
「ほらほら、写真を撮る時はスマイルだよ、スマイル。笑って笑ってー」
「終わったら放してくださいよ!?」
促され、言う通りに、しかし、恥ずかしさを隠せずにぎこちのない笑顔になるマルコ。
最後の最後に無事に撮影は完了した。
「終わりましたよ。放してください」
「うーん? まだ撮影の後もタッチパネルで操作しなくちゃいけないみたいよ?」
「それじゃあそれも透さんにお任せしますね」
「はいはーい」
それでも透はマルコを放さなかった。
「あの、透さん、話を聞いてますか?」
「このままタッチパネルの前までつれてってー」
「……もう、仕方ないですね」
マルコはため息をこぼしながら一歩前に進む。するとズルズルと透も一緒に一歩前に進む。
そこから後数歩でタッチパネルに手が届くがしかし、マルコはそこで立ち往生してしまう。
「……」
「……どうしたの? 前行かないの」
「そ、そうですよね、前行かないと駄目ですよね」
「そうだけど? 大丈夫? 熱あるみたいだけど」
「大丈夫です! 熱は気のせいです!」
問題は密着状態にあった。透はマルコに抱きついている。するとどうしてもマルコの後頭部には透の彼女の歳にしては多少出っ張り気味のふわりとした撓わがくっついたり離れたりする。
マルコだって男だ。リボンが似合い、スカートも似合い、女装をすれば女性よりしばしば可愛くなるが男の心を失ったことはない。現に今も撓わに興味を隠さずにいられない。歩くたびにこっそりと背を仰け反って後頭部を胸に押し当ててより感触を確かめたいがその一方でその感情を疚しいと非難する理性もあった。気づかれないことを良いことに恋人でもない相手にそのようなセクハラまがいなことをして、男として、惚れている者として情けないのでないか。尊厳な態度で当たっていると指摘し距離を取ってもらうのが紳士的と言えるのだがしかしこれは彼女のサービス、アピール、お礼という可能性もあるのではないだろうか。わざと押し付けてくれている可能性も否めない。それならばその好意を無下にするのは逆に男としてやってはいけないことだ、据え膳食わぬは男の恥。だがしかし彼女が異性として認識してなさそうな自分に対してそこまでやってくれるだろうか……などと熟考していた。
左と右の撓わがせめぎ合うように、また、マルコの本能と理性もせめぎ合っていた。
散々悩んだ挙句、マルコはなるべく胸が当たらないように素早く前に歩くという微妙な着陸地点で妥協した。これはは文句なし、議論の余地なしの結論ではない。この後やっぱり思春期らしく下心に従っていればよかったと後悔する。
「運搬ご苦労さま」
そう言われてマルコは開放される。鼻腔に満ちていた良い香りからも解放される。人肌で温められた髪の熱が次第に冷めていく。それが嫌で寂しくて、
「透さん、僕にも操作させて下さい」
下心に従い、タッチパネルの操作に勤しむ透の横にくっついた。




