ヒントは思いがけないところに
再び透は帰路に着いていた。頭の上に浮かぶ月は糸のように細かった。
自宅を目の前にして、透に話しかける人物がいた。
「あら、透ちゃん。お帰り。今日は遅いのね」
ご近所のおばさんだった。離れているわけでもないのに会話の声がやたら大きく、ひそひそ話に向かない主婦だった。
「ただいまです。ちょっと用事がありまして」
「美人なお母様は元気? この間お世話になったお礼がしたいんだけど」
タイムリーな話題を振られる。話すか、話さないか悩んだ末、
「はい、元気です。用件でしたら私の方から話しますけど」
有雁が入院したなどと話せば近所で噂になりかねない。悪意はないだろうが、そういう風に有雁が見知らぬ誰か、見知っているご近所さんにもひそひそ話をされるのは少し嫌だった。
「いいのよ、いいのよ。お礼と言っても海外旅行のお土産渡したかっただけだから」
そう言ってコアラのキーホルダーとカラフルなブーメラン、外国語で中身がよくわからない菓子折りを渡す。
「いやー楽しかったわ、オーストラリア。どれも大きかったし綺麗だったわー」
お土産を渡すだけと言ったのにざっくりとした土産話を始める。
透はあまりオーストラリアの知識がないため、相槌に困り、
「へぇ、高かったんじゃないですか」
若さゆえに話の幅が狭く、下賤な話を振ってしまう。
嫌な反応をされるかと思ったが、
「それがね〜〜〜!」
その言葉を待ってたとばかりに顔を近づけて、
「飛行機から宿泊代まで全部子どもたちが用意してくれたのよ〜!」
さらに大声で叫ぶ。
(なんだろう、噂で広めてほしいのかな……)
透は立ち尽くすように話を聞く。
「……それは良かったですね。あれ、失礼ですけどお子さん、いたんですね。一緒にいるところ見たことないですけど」
「いるわよー、16人」
「16人も!? 今まで気付かなかったのが恥ずかしい!」
「しかも全員男」
「すごい豪運!?」
「旦那と私も加えれば野球の試合できる人数ね」
「あ、はい……野球が何人でするルールかは知りませんけど」
「全員自立して自分の時間が戻ってきたーと思ってた時にまさかこんなプレゼントされるなんて夢にも思わなかったわ」
「……その、なんですか、親として子供が自立するのって嬉しいものですか」
「そりゃそうじゃない? いつまでもスネ齧りなんて嫌でしょう」
「……そうですよね、そりゃ、そうだ」
神妙な面持ちになる。
「それじゃあ旦那がお腹空かせてるだろうから帰るわね。お母様によろしくね」
ご近所が立ち去っても、しばらくその場で考え事を続けた。




