未だ羽ばたかず
主人公の里見透が中学3年生の頃の話です。この時はまだ超能力者登録せず、友人間でも透視能力だけでなく自分が超能力者であることも秘密にし、唯一の家族である母親との仲も良好でした。
「透。着替え終わった?」
「はーい」
「透。支度できた?」
「はいはーい」
「……透。入るわよー」
「だめでーす」
娘の言葉を無視し、母親は問答無用で入る。
「……これはどういうことかしら」
部屋には家具のクローゼット、本棚が置いてある。年頃の少女にしては物が少なく、やや殺風景。机の上の本棚には小説のような活字の類はなく、漫画ばかり収まっている。全て左から右に巻数順に並べてあり整理整頓は行き届いていた。
部屋のほとんどの物がきっちりと直線に整理されていたが、ほぼ真ん中にチョココロネのように布団が丸まっている。
布団が喋る。
「これはどういうことかしら、とはどういうことでしょうか」
「なんで芋虫のままなのかしら」
「違うよ、お母さん。これはサナギだよ」
「……はあ。来年高校生になる娘が子供みたいな屁理屈をこねられると怒る気も失せるわ……」
「じゃあもうちょっと寝てますね」
「じゃあじゃないわよ、じゃあじゃ!」
掴みかかるも娘は布団にくるまったまま、顔を隠したまま、器用にかわす。
娘は透視という超能力を持っていた。
「超能力は使わないっていう約束忘れたの?」
「お母さんの前ではセーフって約束でしょう」
「……はあ。いつまでも寝ていなさい、フレンチトーストは全部私が食べるわよ」
「え、朝食はフレンチトーストなの?」
サナギが羽化直前のように蠕動する。
「そうよ、香りでわからない?」
部屋の戸を全開にすると僅かながら香りが部屋に流れてくる。
「は! この甘い香り……まさしくフレンチトースト!」
布団が天井高く舞い上がる。中から体操着姿の里見透が姿を現す。
「おはようございます!」
「朝から元気ね。朝食は着替えてから」
「汚れるかもしれないので、先にいただいてきまーす!」
母親の言葉を無視し、娘は出て行った。
「やれやれ……手がかかる……」
代わり映えのしない朝に母親は嘆きながらも静かに微笑んだ。




