マルコの身辺整理(おんがえし)
煌が転校した次の日。平日最後の金曜日。この日になっても物部が発見されず、次第に生徒の興味も薄れ始めていた。そして、この日はマルコの留学が終わり、帰国する日だった。この日だけは元から予定された通り、ささやかなお別れパーティーが開かれる。マルコは透から引き剥がされクラスメイトと一緒に写真を撮られたり、頬を弄ばれたりする。
閉会間際、別れの挨拶をするためマルコは登壇した。手に巻かれた包帯を心配する者が多くいたが、マルコは平気ですと強がった。とりあえず多めに包帯を巻いとこうという透の不適切な処置だったが、彼にとって何よりの武勲の証だった。
「今まで大変お世話になりました。親切な方ばかりでこの二週間寂しい思いをすることはありませんでした」
歓声が上がる。その中に透はいなかった。
透はパーティー中ずっと窓際の席に座り、一人でつまらなそうな表情で窓の外を眺めていた。
マルコはクラスメイトから寄せ書きを貰うと一人の女性の名前を探す。
察しの良いクラスメイトがマルコの探す女性の名前を指差した。磨かれた爪の先に透という文字と一緒に「達者で」と淡白なメッセージが添えられていた。
ぽかんとなるマルコに対し、フォローを入れる。
「気を悪くしないでね。きっと寂しいだけだと思うから。恐らく悪い人じゃないのは知ってるから……たぶん、だけど……」
霧吹きを吹きかけたように額に汗を溜めるクラスメイト。透は教室では孤立状態にあるが、決して馬詰のように関係が劣悪なわけではない。端的に言えば、クラスメイトたちは赤子のように無力なはずの透を恐れていた。政府やマスコミが超能力者のイメージアップの謳い文句を連日連夜流していても彼女たちの不安は拭えなかった。近づこうとする心優しき者もいたが、やんわりと遠ざけられ、途方に暮れていた。そこに二週間ほど前にマルコという異分子が現れ、怖かったクラスメイトの想像の付かない姿を目の当たりにできた。その姿を見ていなければ、全くの無関係者である透は馬詰の殺人未遂の容疑者として、残りの学校生活を送ることになっていただろう。
「こちらのほうこそ、何やら透さんが迷惑かけたようで申し訳ありません……」
「なんでマルコちゃんが謝るの、いやだなもー!」
額から大量の汗を拭きながらクラスメイトは取り繕う。
「汗大丈夫ですか、尋常じゃないほど出てるんですが」
「平気平気。手汗で携帯電話ショートするぐらいだから」
「それ平気なんですか!?」
「生まれつきだから平気平気」
「理由になってませんよ!」
汗を拭い終わると、今度はしおらしい顔になる。
「本当に行っちゃうの? みんな寂しいよ」
できるならこれからもマルコにはスポークスマン(ウーマン)になってほしいのがクラスメイトたちの心情だった。
「……一番寂しくなるのは透さんだと思います。だから、仲良くしてあげてください」
しかしマルコはそんなのは必要ないと信じていた。
「悪い人じゃないのは確かです。ただちょっとひねくれてるだけなんです。それでも本当に優しい人なので機会があったら話しかけてみてください」
出来悪い子のオカンみたいなことを言う。それがマルコに今できる透への唯一の恩返しだった。




