無力でも非力でも
透たちは次の日を早めに起きた。とは言っても目をつむっているだけで、ほとんど眠れなかった。
早起きの理由は物部が黒幕だという事実を明るみに出したかったからだ。証拠はあった。超能力ではなく、物的な証拠があった。
透のガラケーの中に物部の供述が録音されていた。
透は発炎筒を二本投げ煙幕を張った後、逃げられないのであれば捨て身で証拠を残そうと考え、録音機能を起動させてから咄嗟に服の下に隠した。果敢にもナイフより証拠を優先させた。その録音をマルコがパソコンでちゃちゃっと編集し、交通事故の件を物部の声だけで残したデータにし、一枚のロムに焼いた。平穏な生活のためにも脅迫文と誘拐は握りつぶした。
後は封筒に入れて職員室に誰にも気付かれないようこっそり置いてこようとそう考えていたが、事態は思わぬ方へ転がっていた。
学校に登校するとすでに物部は事件の容疑者になり指名手配されていた。その理由は全く間抜け極まりなく、彼女の愛車が現場付近で多く目撃されていたからだった。あの独特なシルエットが仇になった。また独身男の不審な行動も仇となった。物部は捜索願を届け出なしで独身男に単身で行わせようとしたため、不審に思った同僚が調べてみると違法行為が発覚。他にも芋釣り式に不祥事が発覚した。
結局のところ、透の捨て身で勝ち取った証拠は必要がなくなっていた。
学校全体でニュースになっていたが透個人にとってそれよりも重要で身近な事件が立て続けに起きていた。
馬詰が急に転校してしまったことだった。
これについては煌から説明を聞いた。元々、双方の家は近所で仲が良かったが娘同士の問題が発覚すると馬詰家は早々に土尾家に謝罪しに行き、お詫びに転勤と転校をその場で決めたらしい。両親同士顔を合わせづらいだろうし溝が深まる前に距離を取るのは賢明な判断だと言える。
急な転校なのにクラスメイトは消えた担当教師の噂で持ち切りだった。影の薄いフェードアウトに透は馬詰に同情した。
事件は立て続けに起きる。次の日には今度は煌が転校することになった。
馬詰の急な転校の件では煌も負い目を感じていた。どちらかというと武美にではなく、その両親にだった。子供同士の問題に親を巻き込んでしまったことを悔やんでおり、自分だけが今の学校に留まるのが申し訳なくなった。理由はそれだけではなく、彼女の超能力である発火能力を研鑽してより深くコントロールできるようになるという意志を固めていた。今までは臭いものを蓋を、見て見ぬふりをしていたが、ついに直視する決心ができたのだった。
転校先は国内有数の超能力研究開発機関を母体とする優秀な超能力者だけが入ることを許されたエリート校だ。転校する前日には馬詰の転校の件と一緒に透は煌からその話を聞き、誘われてもいた。嬉しい好意だったが透はこの話を断った。透視能力者の将来的価値は低い上に、超能力者全体の割合も多い。透視能力者としては能力が高い透なら受かる確率は五分五分だったが、
「授業料が高い上に寮代も都心物件並か……全額免除になるためには勉強、超能力とも主席のみ……う、うーん……ごめん、煌には悪いけど」
「ううん、いいの、気にしないで。こちらこそ急に無理言ってごめんね」
「興味はなくはないんだけど……やっぱりお金がなぁ……お金だよ……」
透はこの一週間半で超能力に対する態度が変わりつつあった。煌と同じように超能力と向き合うようになっていた。
自分は超能力があるものの無力で非力な存在だと思っていた。しかし、身近にとあるお手本を見てから、自分にも許された力があるのだと思えるようになった。




