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See you again  作者: 田村ケンタッキー
透視能力者 里見透の悩み

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任務失敗


 用事を早急に済ませてしまい、暇になってしまう。特に用事が思いつかないまま、駅の周辺をふらついているとマルコがとある店を見つけた。

「電器屋さん、寄っても良いですか!」

 日本製の商品が並ぶ家電量販店が物珍しいらしく○ロリアンと際会した時と同じくらい興奮していた。男の子らしく無条件で機械が好みだった。二人で駅前の家電量販店に入った。

「うげっ」

 透だけが呻き、タコと出くわしたエビのように瞬時に後退した。中は自分の呼吸する分の空気が残ってないと思わせるほど人が密集していた。

「マルコ……やっぱ止めとかない?」

 だが返事はなかった。それどころか、姿がない。すぐにわかった、今の一瞬だけではぐれてしまった。

「やれやれ、これだから子供は」

 ケイトとの約束を忘れ、人混みの中は疲れるため飽きて戻ってくるのを入り口で待つことにしたが、そのせいでとある人物と遭遇してしまう。

「あっれー、透じゃーん。ぐうぜーん」

 発泡スチロールの擦れる音よりも不快指数を上げる声が耳に届く。学校の教室でもよく耳にする声だった。よりにもよって馬詰武美と際会する。膝上まであるデニム生地のパンツ姿の活発な格好をしていた。話し相手の渋面を気にせず、明るいトーンで話しかけてくる。

「何? デート? 男いたの?」

「……」

 透は今回も無視して乗り切ることにした。

「あ、わかった! マルコちゃんだな、一緒にいるの」

 心臓が飛び起きた。まさか男だと見破っていたのか。

「だからデートじゃないかぁ。子持ちは大変ですねぇ。せっかくの美人なのに男が寄ってこないのは残念だねぇ」

 そうではないようだ。透は胸を撫で下ろす。

「ねぇ、暇そうだしお茶しない?」

「……」

「あ、マルコちゃんも一緒にどう?」

「……マルコはいない」

 なるべく一緒にさせたくなかった。ケイトのような教育ママではないが、彼女は教育上害悪に指定している。

「いいよ、お茶でしょ。行けば良いんだろ、行けば」

 ここにいるとマルコがいつ戻ってきて接触してしまうかわからない。そして何より馬詰は先程から無意識にポケットに手を伸ばし何かの感触を確かめる仕草をしている。透視してみるとその正体が物騒なものだとわかった。

「お、誘ってみるもんだね。どんな風の吹き回し?」

 誘っておいて失礼なことを言う。

「今日はマルコちゃんは一緒じゃないんだ。いつもは金魚の糞みたいにくっつているのに」

「金魚の糞は、そこにいる紙袋のお化けだろ」

 もう一人、会話に参加しないがクラスメイトが側にいた。首から下を大量の紙袋でコーディネートをした奇妙な格好をした土尾煌という名前の眼鏡でお下げで名前の漢字に対して目立たない影の少女だった。見た目通り臆病で争い事を好まず押しに弱く、馬詰との相性は最悪だった。馬に索引される馬車のような自分一人では前に進めない存在に成り下がっている。

「あんまり親友を悪く言うと怒るぞ。あいつは俺の荷物を持ってくれる親切な奴なんだ」

 馬詰の行いに苛立ち、土尾の境遇を哀れに思えた。土尾とは体育でたまに二人組みを作る時ぐらいの親交はある。

「少し持とうか」

 ほんの気まぐれで手を差し出すも、

「い、いえ……大丈夫ですので」

 丁重に断られた。


 馬詰を先頭に人気のない方向に誘われる。

「繁華街とは逆に行くんだな」

「こっちに穴場があるんだよ」

 思考を読むまでもない、嘘なのは明白だった。

 少し歩いたところでビルとビルの隙間に入り行き止まりで馬詰は足を止める。

「間違えたのか、なら戻ろうか」

「いいや、ここで合ってる」

「野点でもするのか」

「……悪いな、お茶会は中止だよ」

 馬詰が振り向いて右手に握った折りたたみナイフを見せびらかす。

「そのナイフでケーキでも切ってくれるのか」

「このナイフは兄貴から借りてきたんだよ」

「お兄さんはパティシエか何か」

「いつまでもお茶会にこだわってんじぇねぇ!」

 ナイフを突きつける。逃げようにもどんくさそうな紙袋のお化けが退路を塞いでしまっている。

「お金欲しいの? 悪いけど帰りの電車賃しか持ってないよ」

 透に一点の焦りもなかった。いつかこうなることは予想し、切り札の準備は出来ていた。むしろその切り札を試したくてうずうずしてしまっている。

「貧乏人から取り上げるほどお金には困ってないよ。私は里見透の超能力について知りたいんだ」

「横になって一秒で眠りにつくことができる」

「そういう冗談はいいからさ。念動力、透視、瞬間移動、テレパシー、サイコメトリー、パイロキネシス……このうちのどれなのか、聞いてるんだよ」

 挙げたのは全て現在確認されているごく一般的な超能力だった。つまり透を観察しても超能力が何なのか、無様にも断定できなかったと露呈してしまったことになる。

「知ってどうする?」

「お前には関係ないだろ」

 透は今の質問で思考の透視をし、馬詰の狙いがネットで実名付きで超能力の種類を広めることだと知った。

「……何のために知りたいのかわからんけど、お前なんかに教えられない。私の平穏な人生のためにも教えるわけには行かない」

 そう言いながらポケットから赤い筒の形をした切り札を取り出す。

「なんだ、マーキングペンでナイフと一騎打ちでもするのかよ」

 そしてキャップを開ける。キャップの底は火を起こすマッチの構造をしていた。

「させるかよ」

 ナイフを持っていない左手で透の腕を強く掴んだ。左が利き手なのか、痣ができるぐらい痛いがそれでも透は怯まない。

「無知なお前のために教えてやる、これは車に付いてある発炎筒というものだ」

 ゆっくりとキャップの底面と筒の先端を擦り合わせて火を起こした。

「そしてただの発炎筒ではない、改造した特殊な発炎筒だ」

 先端の火から白煙が大量に吹き上がり、閉鎖空間を飲み込み始めた。急な出来事に馬詰の掴む力が緩んだ隙に振り払い、逃げようとするも、愚かなことにまたも悪戯を思いつき、実行に移してしまう。

 透視能力の数少ないメリットがある。そのうちの一つが煙幕の中でも透視を行えば方向感覚を失わないことだ。これを透は偶然発見した。七輪でサンマを焼く際に目が煙たくて目を瞑って瞼を透視したら同じように煙をも透視できた。その経験を生かし、透は煙幕を武器に選んだ。

 透は馬詰の背後に静かに周り、今までの恨みを込めて尻を蹴飛ばす。

「……チッ! 今の里見透か!?」

 勿論返事などしない。次は左側面から忍び寄り、ほんの少し首を撫でる。

「くっ、こんの!」

 逆上した馬詰がやけくそに右腕を振り回す。当の本人はその手にナイフを握っていることを忘れてしまっていた。

「うわ、やば」

 透はすぐに距離を取ろうとするが、運が悪いことに鈍くさく煙の中を彷徨っていた土尾と背中がぶつかる。

 状況は先ほどから何ら変わらない。退路は塞がれままだった。馬詰のむやみやたらなナイフは見失ったはずの透を目掛けていた。元々広くない場所で回避できる余裕がない。透は判断を間違えてしまった。切り札を使うにしても使ったらすぐにその場を離れるべきだった。ナイフに当たったら軽傷では済まない。わかっていたが、特に反射に優れているわけではない彼女は体が動かず、避けることがままならなかった。しゃがめば間に合うかもしれないが、そうなると今度は後ろにいる土尾が危ない。

 透は顔に大きい切り傷ができることを覚悟、いや諦めて目を強くつむった。

『透! 伏せなさい!』

 幻聴か、ケイトの声が聞こえ反射的に伏せてしまう。

 煙の中から突如、紙袋が姿を現す。二つも三つも飛来し、その内の一つが馬詰の腕に命中し、ナイフが地面に落ちる。

 剣戟の脅威が消え、透は伏せたまま移動する。その途中、鈍臭い土尾の手を引き、煙の端まで案内する。

『透! こっちよ!』

 またケイトの声がした。ケイトの姿を探すが見つからない。わかるわけもない。透視で周囲を見渡すと電柱の陰でマルコが手を振っていた。

 透は土尾の手を離し、

「じゃあね、また明日」

 マルコの方向へ走る。

「ありがとう、危ないところだった」

『礼なら後で良いわ。それより消防車が来るかもしれないから早く逃げましょう』

 透は一瞬振り返る。ほんのちょっと手を加えたつもりだったが、煙は今も絶えず発生し、ビルの背より高く上り、遠くから見れば火事が起きたかのように見える。残った二人はまだ煙の中だった。

 脱兎のごとく透とマルコは駅の方へ走る。マルコは今日買った男物の服の入った紙袋を持っていないおかげで足が早い。

 改札を通り、ホームへ下りるとちょうどよく電車のドアが開いたので乗車客が降りるのも待たず二人は飛び乗った。息を整えながら改札に繋がる階段を睨む。電車の扉が閉まるのと同時に安堵の溜息を漏らした。

「透さんはいつもあんなものを持ち歩いているんですか」

 息を整えながらマルコの素朴な疑問をする。

「まあね。女子高生の必需品よ。世の中物騒だからね。実際役に立ったし」

「車内には他にも女子高生はいらっしゃいますけど全員持ってるんですか」

「あぁ持ってる持ってる。ケータイのストラップにする奴もいるよ。ランドセルの防犯ブザー感覚でみんな持ってる」

「……大人気なんですね、発炎筒」

 しばらくの沈黙の後、

「……薬品の分量をグラムとキログラムで間違えたかもしれない」

 料理みたいなものだと思って軽い気持ちで行った工作でまさかあそこまで大事になるとは。今更ながら自分のしでかした行為が怖くなってきた。消防車の音が遠くで聞こえる。

「マルコー。私、捕まっちゃうのかなー」

 透は涙ぐむ。普段見せない珍しい表情にマルコはどきっとする。

「大丈夫ですよ」

 マルコは紳士的に手を握って慰める。

「……でも透さんは女の子なんですからね。もうあんな危ない真似はしちゃダメですよ?」

「うん、もう発炎筒を改造したりしない……」

 ストックが家に五本残ってるから作らない。

「そっちではなく、馬詰さんについて行ったほうです。まだ二人だったから良かったですけど仲間に待ちぶせされてる可能性もあったじゃないですか」

 透は改めて省みる。確かに切り札があったからとは言え、それに頼りすぎて思考停止をしていた。軽率な行動の末、顔に大傷ができていたかもしれない。

「僕が付いていたので良かったですけど。怪我はありませんか」

 マルコは煙の外にいたのでわからなかった。透が本当に危機だったということを。

「……そうだね、本当に助かった」

 透は小さきヒーローの頭を撫でる。そして感謝の言葉を告げる。

「マルコのストーキング力が上がっていたことに感謝だな! 尾行されていたのに全く気づかなかったぜ!」

 素直に言えば良いものをねじ曲げて褒める。

「そっちですか! もっと褒めるところがあるでしょう!」

 マルコは褒めて欲しかった。成り行きとはいえ目覚めた力を初めて有用に利他的に使えたことを誰よりも透に褒めて欲しかった。

 怒るマルコに透は相好を崩す。

「ところで明日からなんだけど今日の一件もあるから馬詰には要注意だ。なるべく一緒にいるようにしよう」

 とは言ってもこの一週間は二人はべっっっとりとくっっっついていた。

「お風呂までついてこようとする人が何を言ってるんですか……」

「あれ、そうだっけ。まだそれぐらいだっけ? なら明日からもっとべたべたしなくちゃね」

「もう抱きつかないでください! 電車の中ですよ!」

 マルコは声を荒げたが、あまり抵抗はしなかった。

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