悪戯のち不眠
風薫る5月の夜。垂れた藤の花がしなやかに揺れる。マルコが静かに寝息を立てる横で蠢く影。
その影の正体は季節外れのサンタクロースではなく、透だった。彼女は枕元の腕時計に手を伸ばす。狙いは質屋に売り飛ばすわけではなく、早速思い付いた悪戯を実行するためだった。
ケイトに悟られないように音を立てずに持ち上げて、トイレへ。悪戯には大声を要すのでマルコを起こしてしまわないための配慮だった。
顔の前に腕時計を垂らし、腹式呼吸で空気を貯めこんだ後に、
「わっ!」
腕時計に向かって大声を上げた。
しかし期待していた反応はなく、ただ平然と秒針がチクタクと動くだけだった。
「……」
無言で腕時計を元の位置に戻し、透は再び布団に潜る。
「……っぅぅ!」
自分の行いが時間差で恥ずかしくなり、座布団に顔をうずめ、サンドイッチのように耳まで挟む。切り落としたくなるほど耳が熱い。
「……私は馬鹿かよ」
すぐさま眠って忘れようと思ったが、一度眠ってしまったばかりになかなか寝付けなかった。




