待ち人来ず音信なし
一方その頃、活躍を期待される透はというと、
(……これは参ったな……)
完全に行き詰まっていた。打開策が思い浮かばず立ち往生していた。
彼女は歳にしてはやや狡猾で頭の柔らかくはあるものの、今の状況を打開する策を講じられない。しかしだからと言って慌ててはいけない。ここは冷静に分析し考えよう。
紅茶を唇を湿らすくらいの少量を舌の上に流していく。
(……紅茶美味しい……)
頭脳は極めて冷静だ。抜き打ちテスト(超能力者はカンニング対策に通常別会場別時間で行われるが簡易テストは学校内で別室に移されるのみ)と比べれば時間制限がなく、さらには美味しい紅茶まで飲める。美味しい紅茶を美味しいと確信するほどに余裕がある。
頭脳は極めて冷静だ。ただ、打つ手はなかった。
(……瞬が来ない……)
一番の難関と思われていた張り込む喫茶店の発見は編集者のたゆまぬ努力の結晶といえる地図のおかげで土地勘のない透でも達成できたが、本来の目的達成には一歩も近づけていない。
3時位にお茶を飲みに喫茶店に来るだろうと睨んでいたがあまりに安直だった。来ないのであれば店を出て街中を探しまわりたいが次の当てがまるでない。
そもそも店の中に入る予定すらなかった。節約のためにも店の前でふらふらと行ったり来たり歩行者を演じるつもりだったが店員に見かねられたのか、
「良かったら中までどうぞ」
と優しく声をかけられたために入りざるを得なくなった。
興味があるけど敷居が高いから入るのを躊躇っていると店員の目には映ったのかもしれない。あながち間違いではない。親切な行為に平伏する気持ちになるのにさらには学生だからと水だけでなく紅茶を一杯サービスしてくれた。恐らく正式なサービスではない。2杯目はちゃんと頼むと決心した。ソフトドリンクで一番高い物を頼もう。しかし紅茶は冷めるぎりぎりまで少しずつ飲むという貧乏性は外せなかった。
暇つぶしに借り物の新聞のページを捲る。探偵ドラマならここに穴を開けて向こうのホシを監視する場面をよく見かけるが透視能力者はそんな下品でもったいのない行為をしない。
新聞は情報量が豊富だ。読み方もわからない、見たことすらない漢字が堅苦しい口調でちりばめられている。その情報量は興味の薄い分野までカバーをしている。知識欲を満たし未知の世界にも気軽に触れられるのが新聞というメディアの特徴だ。ただケチをつけるとなるとスペースが限られているばっかりに文章が飛び飛びであり、続きを探すのに苦労する。慣れればさほど苦でもないだろうが教科書でしか活字に触れる機会のない透にとってはエネルギーを浪費させられる。
1ページを読み切る頃には視力が減ったような感覚がした。一旦休憩と紅茶を音もなく啜るとカップは空になってしまった。
もっと時間をかけるつもりがだったが仕方がない。店員を呼び注文しようとしたその瞬間に、
「もう一杯どうぞ」
わんこそばのように注がれた。
「え、ちょ、あの」
「サービスですので代金は頂きません」
注いだたのは中に招いてくれた時と同じ人で白いシャツに黒いエプロンの似合うお姉さんだった。薬指に指輪を嵌めている。
なんてサービスの良いお店だ。何時間でも座っていられる。
「お姉さん! 注文お願いします!」
透は呼び止めて入店してから初めて注文を頼んだ。
「はい。桃のタルトケーキですね。お時間を頂きますのでしばらくお待ち下さい」
透は待つ、瞬と店の中で一番高いケーキを。




