バターになる前に
長い苦悩の末に勝利を掴み取った瑠璃が一番初めにしたこと、それは……。
「すみませんっっっっす!!!」
土下座だった。コンクリートの地面はひんやり冷たくザラザラしている。
「僕は気にしてませんから顔を上げてください……」
「汗顔の至りっす! ウチが暴走したせいでマルコちゃん、いやマルコさんに怪我をさせてしまったっす!」
「だから本当に気にしてませんから」
「かくなる上はジンジャーエールを一気飲みするっす!」
「はいはい、そこまでだよ〜」
「こみやん介錯! 介錯をお願いするっすよ!」
「そっか〜瑠璃ちゃんは助けてもらったのにないがしろにするような子なのか〜」
「……」
「それじゃあ瑠璃さん。厚かましいですけど恩人の僕からお願いがあります。周りを見てください」
涙目ながら瑠璃は顔を上げた。涙を拭きとって周囲を見渡した。
そこには仲間たちが精悍な顔つきでそれぞれが役割を持って粛々働いていた。ある者はけが人を看病し、ある者は捕虜を厳しく見張っている。捕まえた後にリンチなどと言った野蛮な真似はせずただ目を光らせているに留まっている。誰に言われたまでもなく彼女らが彼女らの正義、理念を持って規則正しく行動をしている。
「この光景はきっと、僕だけでは出来ませんでした。もしあのまま上手く行ってたとしたら彼女たちは暗い顔のままだったかもしれません。でも瑠璃さん、あなたが、スケアリー・モンスターの一員のあなたが頑張ったから仲間が勇気を持てたんだと思います。僕が救いたかった人達をあなたは救ってくれたんです。ありがとうございます」
「……えへへへへへへへそっすかねーえへへへへ」
謙遜もせずに照れ笑いする。くすぐったくて全身をくねらせる。
「小見山さんもありがとうございます。おかげで瑠璃さんにこの光景を見てもらえました」
「お礼を言いたいのはこっちのほうだよ、マルコちゃん。そのお礼じゃないけど、ちょっと横になってくれない? 怪我がないか診察するから」
そう言って半ば強制にマルコの頭を膝に乗せて透視を開始する。服の下、皮膚の下へと彼女の視線は落ちていく。彼女の見える光景は人によっては一目見ただけでも卒倒する地獄絵図だ。内蔵がぴくぴくと鼓動し、筋肉がせわしなく収縮を繰り返し、血液が一周する瞬間を覗ける動く(・)人体模型だ。肉を深く切ってしまった時に骨が見えるなんて話の何倍にもグロテスク。大の大人でも目を背けるだろう人体の裏側を彼女は丹念にチェックする。骨が折れてないか、血管が破れ出血していないか。頭のてっぺんから足の先までくまなく透視していると股間部分に大きな膨らみを見つけた。
「んん……?」
タンコブにしても腫瘍にしても大きすぎる。一体これは何だろうか。
一度透視を解除し、再び一からやり直す。ズボン、パンツを透視していくとすぐさまその正体が判明した。衝撃の事実に思わず口に出してしまう。
「ちん……!」
慌てて両手を塞ぐ。その拍子に頬の裏を噛んでしまう。
「小見山さん、何か言いました?」
マルコは瑠璃と会話をしており漏らした言葉を認識できなかったので聞き直した。
小見山はその場を凌ごうと必死に考えて、
「……は国家なり」
「太陽王の言葉ですね。勉強中なんですか?」
「そうそう授業でやっててね……」
「んー? 今そんなところ習ってたっすか?」
マルコと瑠璃は上手く誤魔化せたが、
『……あ〜あ』
カレンはしっかりと認識していた。
「僕の身体に大きな怪我はありませんでしたか?」
「う、うん! バッチリだよ! 健全そのものだよ、マルコく(・)ん(・)!」
「僕なんかより小見山さんが心配です。顔真っ赤ですよ? 熱でもあるんじゃないんですか?」
マルコの手が小見山の頬に触れると、
「きゃあ!」
「ご、ごめんなさい、痛かったですか? それと少し熱が出てるようですけども」
「だだだ大丈夫! あいむおっけー! ちょっと水分補給すればすぐに治るから!」
近場にあるペットボトルのキャップを開ける。炭酸が抜ける音が心地よい。
「ストップ! ストップすよ! それ毒入りジンジャーエール!」
その後取り押さえてしばらくしてから平静を取り戻す。
「ごめんね、ちょっと取り乱しちゃって」
「暑さでやられたかと思ったすよ」
「そんなことより瑠璃ちゃん頭見てあげる」
「病院でレントゲン診てもらったほうが早いし確実で安心っすよ」
「いいから、ほら」
頭を両手でやんわりと固定し透視を始めた。固定しないと物体が動き精度が下がるためだ。ただそんな努力も今の彼女には意味はなかった。
(そういえばさっきもこうやってマルコくんを透視して……)
脳裏に吊り下がった袋が復活する。透視は骨からコンクリートの地面の下まで落ちてしまう。
「あああ……私ってばななななんてことををををを……!」
「あだだだだだ! 力入れすぎっすよ!」
更には超能力だけでなく肉体運動にもブレが出始めた。とてもではないが今の彼女に緻密な作業は不可能だ。
「ごめん、急に調子悪くなったからやっぱり病院で診てもらって」
「そうするっす。皆はこれからどうするんすか」
「ここで見張りながらボスが来るのを待つことにしたって」
「そっすか。さくっと行ってさくっと帰ってくるっす」
「扉重いでしょ? 私が開けてあげるね」
二人は老夫婦のように寄り添い、入り口に着いた。
小見山が膝を曲げてシャッターを上げようとするも、
「あれ……開かない……」
正確には開かなくはない。映画のパンフレットが挟まりそうな隙間ほど開きはするがそれより上はびくともしない。
「こみやんはひ弱っすね〜。ここはウチが……ふんぬぬぬぬぬぬ?」
異変に気付いた二人は息を合わせて開けようとするもやはり結果は変わらなかった。
「……こんなのやるとしたら」
「あいつしかいないっす」
二人は見つめ合い、同時に頷いた。踵を返すタイミングも向きも出る足も揃いに揃っていた。
行き先は胡桃。彼女は今、珍妙で間抜けな格好で拘束されていた。腕を上げた状態で仰向けに横たわっている。腕は四本、足は一本のロープで縛られている。さらに両手を指を交差させて組んでいる。それだけに留まらず全身に荷物を置かれている。
「今更何の用だ……」
「台詞かっこいいけど姿勢はかっこわるいっすよ」
「うっせー!」
「こらこら怒らせないの……単刀直入に聞くけど扉が開かないの。次は何を仕組んだの」
「はぁ? 何のことだ?」
「とぼけないで。どうせ逃げられないように閉じ込めてるんでしょう」
「……何のことか、さっぱりだな」
「そう、自分の置かれてる身を自覚してないんだね……すぐに白状しなかったこと、後悔させてあげる……」
「瑠璃ちゃん怖いっすよ……」
負傷した親友をいち早く病院に行かせてあげたい小見山は手段を選ばない。彼女は無防備な胡桃の脇をくすぐった。
「ふん! 悪いがくすぐりには耐性があるんだよ!」
「……」
「いくらやっても時間の無駄だぜ、違う手を考えるんだな」
「……」
「人の話を聞けコラ! 効かないつつつつってんだろ!」
「……」
「殺す! お前後で絶対殺す!」
「……」
「や、やめろーーーーーーー!」
口は強がっていたが身体は正直だった。
数分間くすぐり続けたがそれらしい解答は得られなかった。
「……うーん、ここまでして吐かないとなると本当なのかな」
「拷問にかけておいて全く悪びれる様子ないっすよ……鬼畜っす……」
「やっぱここはジンジャーエールかしら」
「ダメっすよ! 違うものが出てきちゃうっす! というかその危険物とっとと廃棄するっすよ! いつまで残してるんすか!」
「でも困ったね……とにかく脱出方法考えないと」
「名案浮かんだっすよ! 出れないなら出してもらえばいいっす! 外の誰か、例えば広見さんに連絡を取ればいいっすよ! 文明の利器に感謝っすね〜」
電話をかけようと画面を開くと電池残量がごくわずかであることの他に大事な情報を知る。
「あれれっ、圏外っす! 嘘っすよね、通信障害っすか!? どれだけ毎月使用料金をお布施してると思ってるんすか!」
「それじゃあキャリアの違う私から広見さんに……あれ、私もだ」
異状に気付いたのは彼女らだけでなかった。
「皆さんも圏外ですか。僕のもなんです。透さんに安否報告しようと思ったんですが……」
その後、メンバー全員に電波状況を確認した。すると一つ残らず圏外という事実が発覚する。
「全キャリアが通信障害なんてありえるのかな……」
動揺する中、一人だけ冷静に分析している人物がいた。
『ひょっとしたらジャミングかしら。屋外か屋内に装置があるはずよ。そう遠くないと思うからよく探してみて』
ジャミングと言うと聞こえが悪いが市販でも一般に購入が可能な通信機能抑止装置だ。強力な電波を放出し遮断するのではなく同じ周波数で偽物の電波を拾わせることで圏外にしているだけだ。
しばらくしてその予想は不幸にも的中してしまう。
「あったゾ。でっかいのが外の壁にくっついてるぞ。あんなの今まで付いてなかったゾ」
『電源は?』
「コンセントから繋いでいるぞ」
『……困ったわね、範囲は倉庫丸々ってところかしら。一度ブレーカーを落としてみましょう。消えてくれたらラッキーね』
「ブレーカー落としてもダメかゾ?」
『屋内と屋外でブレーカーが別々にある可能性もあるわ。神に祈りましょう。ダメだったら装置からできるだけ離れて繋がるか確かめてみてちょうだい。』
「了解だゾ」
声と独特な語尾で手柄を取った人物がわかる。天井しか見えない胡桃にもそれがわかった。
「おい、雉沢! なにナチュラルに手伝ってやがる! 裏切ったのか!」
「今は捕虜だから大人しく言うこと聞いてるまでだゾ」
「はっ! 臆病風に吹かれたか!」
「はいはい臆病風臆病風ゾ」
「けっ!」
痰でも吐き捨てたい気分だが顔にかかるので絶対にしない。
その頃、通信班は壁にくっついて限界まで装置から離れるも圏外のままだった。屋内のブレーカーを落としてみても陸の孤島状態は解除されなかった。
カレンは一計を案じる。
『試しに天井まで浮遊させてそこでメール送信しましょう。マルコ、出番よ』
「はい」
あまり活躍する出番がなかったので意気揚々とマルコはスマートフォンを操作する。メール送信と同時に天高く飛ばしてみせた。
「あれ、確かマルコくんは……」
小見山は矛盾に気付いた。超能力者の絶対条件に反してしまう。
(そっか……私の見間違いか……)
そう言い聞かせ納得するがどうしても視線はズボンのチャックに行ってしまう。
スマートフォンは天井に張り付いて落ちてこない。スケアリー・モンスター面々から歓声の声と拍手が上がる。未熟な彼女らはこのような芸当も一種のショーのように特別に見えてしまう。
一分が経過した頃に手元にスマートフォンを戻した。
画面を確認すると肩を落とす。
「すみません、失敗です……」
今度は逆に落胆の声が上がる。その声を聞くとこの少年はつい頑張りたくなる。
「できるまで試してみます。何度だってやってやります」
『何度も出来るわけ無いでしょう。体力の限界を考えなさい』
超能力も結局は体力を使う。酷使すればそれだけ反動は大きい。
「マルコちゃん、無理しなくても大丈夫っすよ」
「いいえ、頑張らせてください。やれることは何でもやりたいんです」
「マルコちゃん……いえ、マルコ先生っす! マルコちゃんはマルコ先生っす!」
「あの恥ずかしいんで勘弁して下さい……」
「マルコ先生いいじゃないっすか! ぶっちゃけマルコちゃんだと日曜夕方感があってふわっとするのでこっちのほうがいいっすよ!」
「……あぁ、また話を押し通すんだろうな……」
「何か言ったすか、マルコ先生」
「何でもありません、独り言です」
予想通り定着が始まっている。早々に諦めて体力の温存をする。
「さて次も始めますか」
「それについてなんですが、マルコ先生」
「何ですか」
「後ろに準備体操をしている猿若さんがいるんすよ」
「えぇぇ!?」
慌てて振り返ると猿若が自分のスマートフォンを頭上に投げ飛ばしていた。後は念動力で天井に貼り付けて抑えこむ。
「……手伝ってくれるんですか?」
「……」
返事がない。ただ、化粧越しでも表情でわかる。念動力に集中したいのだろう。
マルコはそれ以上の邪魔をしなかった。しかし一人が許しがたく邪魔をする。
「猿若! てめぇも裏切るのか!」
「……」
返事がない。明らかな無視だ。
「おい! 聞こえてんだろ! 返事しろ!」
集中力が切れて、スマートフォンが落ちてくる。
キャッチすると寝ている胡桃を一瞥し一言だけ呟いた。
「……呆れ果てたわ、付き合ってられぬ」
言い捨てると作業に戻った。請負人のように黙々と淡々と投げては受け止め投げては受け止めを繰り返す。元陸上部ということもあってか体力が有り余っているようだった。
そんな姿を見て小見山と瑠璃は感想を漏らす。
「猿若さん普通に喋れたんだ……」
「いや微妙に普通じゃないっすよ……」
二人称はおぬしとか言いそうだった。
「それにしても、さっきからこの状況はなんなんすかね」
「うん。誰が何のために……」
二人の疑問に胡桃は答えた。
「だーかーらー! 魔女の仕業だっつってんだろ!」
「まだ言ってるんすか? マルコ先生も透さんも魔女じゃないっすよ」
「そうです! 透さんは魔女じゃありません!」
急にマルコが会話に参加した。
「休憩に入ったの?」
「はい。猿若さんが『おぬしは休んでおれ……』って言ってくれましたので」
「良い人だね、変わった口調だけど」
慣れ合いにうんざりとした表情で、
「てめぇら糞ガキの言うことを信じるのか」
「糞ガキじゃないし信じるよ。こんなまっすぐで正直な子が嘘を言うと思う?」
性別を偽っているためマルコはなんとも居たたまれなくなる。
「……じゃあ別の魔女だ、そうに違いない」
「じゃあ、ってなんすか、じゃあって。なんでそんなに魔女にこだわるんすか、ほとほと呆れたもんすよ。未来予知でもできるようになったんすか」
「あたしにはできない。でも、信頼できる人に未来予知能力者ならいる」
「……意外っすね、ボス以外に信頼できる人がいるなんて」
初耳だ。もっとも会話らしい会話はまずしてこなかったので当たり前だが。
「やっぱり予言は正しかったんだ。襲撃にあってるんだよ、今まさにな」
「あの人ってどこのどいつっすか。歳は? SNSやってるなら紹介して欲しいっすね、予知能力者ならお近づきになりたいっす」
「どこに住んでるかも名前も年齢も知らない、顔も知らねぇ」
「んん? どこで会ったんすか、その人と」
「今てめぇが言っただろ…………SNSさ」
皆が閉口する。同時に可哀想な目で胡桃を見下す。
「胡桃ちゃん……」
「なんだ、文句あるのか。それとちゃん付けするな」
「胡桃っち……」
「変な呼び方すな!」
誰もが一言言いたかった。しかしあまりにまっすぐすぎる胡桃に対し言うのを躊躇ったが、
『あんたねぇ、そりゃ騙されてるわよ』
カレンが一刀両断してくれた。
『いい? SNSはね、嘘つきばっかよ。時間を余した毎日がSundayの連中があんたみたいなカモを弄んで暇をつぶしてるのよ。ちょっと見込みのある子かと思ったら、こうも馬鹿だとは……』
皆の溜飲が下がって行く。
「……カレン先生っす」
一人は師として仰ぎ始めた。
「あほか、あの人はそこらの人とはまるで違う。いろいろと良くしてくれたんだ」
『いろいろって何? 悩み相談? 気になる異性のクラスメイトに好きな人がいるかそこはかとなく聞く方法?』
「そんな下らねぇことじゃねぇ! もっとすげぇものを教えてもらった! 具体的な瞬間移動能力のコツとか、人心掌握術とか、何よりここの場所を教えてくれたのもその人だ!」
突然の爆弾発言に驚愕し呆然し言葉を失う。
『……もう、この子ったら、もうっ……』
カレンだけは辛うじて言葉を紡ぐ。
「なんでそんな怪しい場所に皆を巻き込んだの!」
「怪しくないだろ! それに安全な場所だからって教えてもらったんだ、今まで何事もなかっただろ!」
「それが! 今! 起きてるんすよ! どこまでわからず屋なんすか!」
「誰がなんというとあたしはあの人を信じる! あの人だけは裏切らない!」
「なんすか、それは! まるでボスが裏切ったみたいな!」
「そうだろ! ボスは! あたしたちなんかよりも女が大事なんだ!」
「おっと、突如として手が滑ったっす!」
瑠璃は無防備の胡桃をビンタし、口を塞いだ。そして小声で耳打ちする。
「……今からウチが良いと言うまで大声を出すなっす。出したらジンジャーエールを鼻から流しこむっすよ」
「はあ? 誰がお前の言うことなんかを」
「……ボスの右腕だと自負しているなら従うっすよ。これはボスのためでもあるんすから」
「ちっ、わかったよ」
「……それをどこでいつ知ったんすか? 誰にも言ってないんすよね?」
「……てめぇも知ってたのか」
「……知ってたっすよ。知ってて何もしなかったすよ」
「……意外だな。お前なら女も巻き込んで勧誘するって思った」
「……勿論考えたっすよ。超能力者であろうとなかろうとボスの友達ならって、そう思ったっす。でもしなかったっす? 何故だと思います?」
「……言いたくない」
「……わかってるんすね、そう、幸せそうだったんす」
「………………言うなよ」
「……ウチらの前では見せたことのないような笑顔っすよ。念写したらたまたま二人きりのシーンが映っちゃったんすよ。あぁこりゃぁ尊いわ……守らないといけないって思っちゃうっすよ……」
「……難儀な超能力だな」
「……同情してもらえると嬉しいっす」
「…………あたしも見たのは偶然だ。てめぇと同じ何もしてねぇよ」
「……意外っすね。仲を引き裂きに行くかと思ってましたっす」
「……てめぇ、いつか殺す」
「……いつか殺されてあげますから今は、ボスのために協力するっすよ」
二人の大接近は終わる。
瑠璃はフォローに努める。
「全くも〜〜〜〜〜〜胡桃ちゃんってば〜、ボスがお母様との約束を優先しただけで〜〜〜〜〜〜裏切ったとか〜〜〜ないわ〜〜〜〜〜〜っす」
後ろから強烈な殺意が込められた視線を感じるが無視。
「今はここが安全かどうなのかを考えましょう」
何となく事情がわかるマルコは話の流れを元に戻した。
「安全だろうが。人は来ないし、透視していれば接近に気づける」
『おかげで警察も来ないわね』「透視能力者を監視カメラと勘違いしてない?」「というか透さんの侵入を許したっすよね」
「あの、皆さん、一気に話さないでください……あとあまり厳しく接さないでください」
「その人が言うにはここは安全圏なんだよね? おかしいと思わない? 逆に要塞に閉じ込められてるじゃない」
『考えを改めましょうか。ここは要塞じゃないわ、監獄よ』
「倉庫だったりキャンプだったり監獄だったり、めまぐるしく変わる安全圏っすね」
『ゴミ屋敷も追加ね』
「あえて外してたのに、カレン先生厳しいっす……」
『さてさて突然ですが社会勉強をしましょう。ゴミは集められたらその後どうなるか分かる?』
「……燃やされる?」
『エコじゃないわね』
「……再利用っすか」
『そうつまり、再利用されるのは』
「……僕達ですか」
『正解。このままだと臓器が世界中に散らばるかもね』
あまりに不吉な宣告に、
「嘘だ! んなわけあるか!」
胡桃は荷物を振り落とし立ち上がる。しかし足の縄が絡まり転倒する。みっともなくても必死にもがいて反論する。
『あくまで可能性の話よ。でもこんな風に大掛かりに閉じ込めるなんてイタズラにしては度が過ぎるでしょう。あなたは正直だからちょっと優しくされたらべらべらとお話をしてあげたんでしょう? スケアリー・モンスターのこととかもね。きっと興味を持って熱心に聞いてくれたと思うわ』
「嘘だ……嘘だ……あの人が嘘を言うんだなんて……」
意気消沈する彼女を見て、瑠璃と小見山は縄以上の拘束は施す必要はないと判断した。
『さて。マルコ、休憩は終わりよ。そろそろ作業に戻るわよ』
マルコ達は壁際に戻る。その際に少し会話を交えた。
「……お姉ちゃん、意地悪が過ぎますよ」
『はてさて何のことかしら』
「超能力者の臓器の取引なんて今日日行われてません。ブロッサム博士の事件があってから臓器の転用は禁止されています」
『その通り。でもそれだけが理由じゃないでしょう。一度は億で取引された超能力者の臓器はとある事件を境に大暴落』
「……」
マルコは答えなかったがとある事件が何かを知っている。言いたくなかった。言いたいはずがない。姉が身体を失うきっかけになった交通事故を言葉にはしたくない。
超能力は世界に閉塞感を感じる者達にとって希望の光となる存在だった。超能力という便利ではあっても万能ではない力に価値を見出し押し上げ錯覚させた功罪がカレン・リードにのしかかっている。
「……でもやっぱり、本当に僕達を狙っている可能性はあるんですか」
『まさか。人口が少なく警察が正常に機能している国で集団誘拐なんて非効率極まりない。蔓延るなら人口爆発が起き、警察が賄賂でしっぽを振る後進国よ』
「お灸をすえるにしては酷すぎませんか」
『夜に口笛を吹いたら蛇が来るくらいの可愛いお伽話を聞かせたまでじゃない』
「それとこれとは全くの別です!」
マルコはつい先程までしのぎを削っていた憎き敵をかばい始めていた。
カレンはその行為を叱らなかったけども、
『マルコ、覚えておきなさい。女はね、あなたが思ってるより肉厚で骨太なのよ』
姉としてちゃんと説教をする。直接間違いを正してばっかでは為にはならない。考えさせるのも教育として大事だが、
「……その女ってお姉ちゃんのことですか」
遠回しに言ったせいで真意は伝わらなかったようだ。しかし思わぬ反撃に弟の成長ぶりが感じられ、笑みがこぼれる。
『ふふふ、すっかり肉も骨もないだけどね』
笑えない、笑ってはいけないジョークで姉弟の会話は一旦幕を閉じる。




